ここに書いていた内容はすっかり忘れていたが、曲げを直す際にハート穴から揃えていく方法は普通にやっている。すなわち身についている。
ただし、理屈を覚えていないと人には説明できない。そのための備忘録がこのblogなので、やはり定期的に見直さねばな。
昨日のWAGNERで、万年筆界の大先輩から、調整戻りが発生しにくい方法を教えてもらった。
調整もどりの大半は【曲げ応力】によって、無理やり曲げたペン先が徐々に戻っていく事によって発生する。
従ってハート穴を曲げの起点とすれば、【曲げ応力】は大幅に減り、調整もどりが小さい!
要するに、曲げる際には出来るだけ 遠くから曲げる よう努めれば良いということじゃ。
これで今まで経験的にやってきていた事の間違いや正しさが明確になった。
拙者のペン先調整では、ペン先がペン芯と分離できる万年筆の場合と、分解出来ない場合では別の調整方法をとっている。
【職人はペン先を曲げる為だけに親指の爪を伸ばす】と考えている人がいるが、これは間違い。
ルーペを眼に眼帯のように取り付けて作業する場合、最も便利な可動式作業台が【親指の爪】だからじゃ。
ペン先の【間合いを測る】にも実に便利。ペン先の開き、イリジウムの段差やそれによる影響を爪の上でシミュレーション出来れば調整作業の生産性は画期的に向上する。
ペン先先端の段差を直す場合、仕上がりの美しさを考えて、ハート穴からの左右の段差が出来ないように、ハート穴付近から徐々に合わせている。
従って拙者の調整方法は、ペン先先端が曲がっている場合以外は【曲げ応力】が出にくい調整にはなっていた。
ただし万年筆を傾けて書く人の調整に場合は、わざと段差を付ける方が良い場合もある。それは万年筆初心者の場合には、後日持ち方が変わる事が多いからじゃ。
従って最初の段階で書き癖にあわせて削ってしまうと、あとで困ることになる。それが予想される場合には、段差によって書き癖に対応させておけば良い。
ところが、拙者はこの調整方法が好きではない。段差を作るとハート穴から先端までのスリットにも若干の段差が出来る。
これが美観を損ねるので、スリットには段差をつけず、先端部分だけを曲げと削りで調整していた。
すなわち【曲げ応力】が大きな調整になっていたのじゃ!これが調整戻りの原因だった!
時間をかけて少しずつ調整戻りを微調整しながら仕上げるか、美観を損ねるが一切調整戻りが無い仕上げにするかは悩ましいところ。
メーカーや販売店なら明らかに後者。しかし趣味の世界には前者もあって良いと思う。
今回、理屈を教えてもらった事によって、経験が知識になり、智恵に昇華した。やはり原理を知ることは重要!材料力学を勉強したくなった。
ペン芯とペン先が外れない万年筆の場合にイリジウムの段差を直すには、爪先でハート穴から曲げるのは難しい。
そのような場合にはペン先をハート穴の横あたりから挟んで曲げる器具が必要。
その器具は【趣味の文具箱 Vo.6】の川口さんの調整道具を撮影した写真に写っている。ただし説明文が間違っている・・・どれが正しいか想像されよ!