2021年03月14日

対面調整の妙味?

本日は神戸元町で萬年筆研究会【WAGNER】が開催された。実は今年2回目なのだが、前回は参加しなかったので、【明けましておめでとうございます】の人がほとんどだった。

待ちに待った感じで万年筆をご持参になった方ばかりだったが、その中で、今更ながら面白い経験をした。

万年筆の不具合や要望を語るときに、具体的に指示される方と、抽象的表現を使われる方がいる。

前者の例;


(1)書き続けているとインクが途切れるのを直して欲しい

(2)線幅を2/3くらいに細くして欲しい

(3)ピストンが硬いのを直して欲しい

(4)左から右に線を引くときの引っかかりを取って欲しい

(5)ハネやハライが綺麗に出る字が書きたい

(6)多少捻ってもインクが出るイタリックのペン先にしてほしい

上記は全て具体的な要望と考えている。聞いた途端に不具合の状況や修理・調整の仮説が立てられる。

当然、仮説が間違っていることもあるが、根本原因が解明されれば、新たな仮説のネタとして残すことが出来る。

例えば、上記の(1)の例。

最初は空気穴が詰まっていて、空気とインクの交換が出来なくなってインクが出ないと判断したのだが・・・

出なくなるとピストンを押してインクをペン先にためてから書けばしばらくは書けるが、また出なくなる】という話を聞いた時に仮説の誤りに気づいた。

ピストンを押してインクを出す場合、インクはペン芯のインク溝を通って送り出されるのではなく、空気溝を通って送り出される。

ということは、空気溝ではなく、インク溝が詰まっている可能の方が高い・・・と考え、ペン芯を外して確認してみてわかった。

ティッシュの繊維のような物が、ペン芯のインク溝の最後部に詰まっていた。これが染料系インクしか使ってないのにインクが詰まった原因。

このBlogでも口を酸っぱくして言っているが、ティッシュでペン先のインクを拭うのは絶対にだめ!

一番良いのはキムワイプだが、無ければキッチンペーパーを使うべき。

すぐに繊維がほぐれるティッシュはペン芯の溝に詰まるリスクが高い。万年筆談話室やWAGNERのたこ系ペンクリでは絶対に使わない。

本日は、改めてティッシュの恐ろしさを痛感したペンクリであった。

いわゆるペンクリニックでは、いまだにティッシュを使われている方も少なくない。

もし、そういうペンクリニックに出会ったら、帰宅後すぐに流水で良く洗った後で、ペン先を振って水と一緒にティッシュの繊維を落とした方が良い。

ペン先を分解してから処置する調整師にとっては痛いほどわかっている”常識”なのだがな・・・・


後者の例(抽象的な表現);

(1)書いていて気分が乗らない

(2)国産のBで書いていると良いかんじだけど、この外国製のMはあまり感じ良くないので直してほしい


実は、後者の要望の方が拙者にとってはありがたい。意欲が湧くのじゃ。

前者の具体的要望の場合は、解決策がわかれば、あとは作業になる。

後者の場合、解決策は同じ要望でも幅が広い。毎回解決策が異なっているかもしれない。

(あ)依頼者が書きやすいという要望を根掘り葉掘り聞き出して要望をかなえてあげるやり方もあるし・・・

(い)依頼者の想像を超えた(気づいていない)気分の良さを演出するやり方もある。


拙者は初対面の人であれば、極力(い)のやり方を試すようにしている。

数分間話し、何本か試筆している姿や筆記角度、筆記スピード、顔の表情を見れば、どういう書き味が好きかは想像が付く。

自分がそういう調整をされて感動した経験があるので、自分もそういう感動を依頼者に与えたいと考えている。

拙者にそういう感動を与えてくれた人は、過去にただ一人だけいた。そう【好きにしてええかのう?】の台詞で有名な故人じゃ。
  

Posted by pelikan_1931 at 23:00Comments(1) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

2013年03月28日

今更ながら 【 Sterling Silver 軸  vs  Gold Plated 軸 】

1まず、拙者が何故純金軸に興味が無いのか?それは母親に連れられて見に行った【007シリーズ ゴールドフィンガー】までさかのぼる。

あれはカルチャーショックだった。悪党はてっきり金の延べ棒を奪いたいのだと考えていたが、実は大量の純金を放射能で汚染し、金の相場を上げ、結果として自分が保持している金の値段があがり、儲かるという仕掛け。

力道山をスカウトしたという伝説もあるハロルド坂田ロンドンオリンピックの重量挙げ銀メダリスト)というプロレスラーを見たかったというが映画に行った理由だったが、金を巡る悪党の戦略にすっかり魅了された。

それ以降は、金というものを素材としてではなく、珈琲豆や大豆のような相場商品と思えるようになり、素材としての興味は無くなった。
それが尾を引いていて、純金軸には興味が無い。もちろん金の延べ棒は好きだが、見たことはない・・・

一方で純銀は大好き。安くて親しみやすいというのもあったが、小さい頃から金色よりも銀色が好きだった。
従って、1年前なら純銀軸 と ゴールドプレート軸を比較するなんて発想は無かった。純銀軸に決まっていた。

ところが、御大からカランダッシュのゴールドプレート軸の萬年筆を(お付き合いとして)購入してから嵌まった。
Rolled Gold軸は持ってはいても、Gold Platedの軸はそれまで1本も持っていなかった。
それがなんと、過去1年間でParker 75のGold Plated軸を初めとして買いまくり状態になり、今やGold Platedがマイブーム。 
それに対して、この1年間で購入した純銀軸はおそらくはWaterman Exception 純銀軸1本。一昨日独逸から届いた。

現在日常使いしている金属軸は左画像の7本(Exceptionは未使用のため除く)。なんとGold Plated 軸の方が数が多い!
おそらくこれは60年間生きてきて初めての経験・・・のはず (最近記憶力に自信が無い)

昔と言っていることが矛盾しまくりだが、金鍍金軸は純銀軸と違って曇らないのが良い!また手に暖かい感じがする。
手に吸い付く感じは純銀軸の方がはるかに上なのだが、なんとなくその吸い付く感じがうっとうしく感じじゃれるようになってきた。
年取って手の油分が少なくなったからかもしれない。皆さんはいかがかな?純銀軸、銀鍍金軸、金鍍金軸、純金軸・・・どれがお好きかな?別にアンケートではないが・・・   
Posted by pelikan_1931 at 12:00Comments(10) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

2012年02月08日

水曜日の調整報告 【 Pelikan M405 14C-EF タコスペ・超不細工一歩手前 】

2012-02-08 01今回は最近独逸から届いたM405に特殊調整を施す実験。記憶を辿ってみるとM400系を購入するのは(M710トレドを除外すれば)おそらく生まれて初めての経験となる。#500は何本も購入した記憶があるのだが、通常のM400/M405は初めて。

もちろん調整は50本以上している。従って【依頼者の書き癖に合わせた調整】はお手の物だが、今回やりたかったのは、特殊研ぎを施したペン先のサンプルを作ること。拙者の場合【臆病者のフランケンシュタイン男爵型】調整なので、美容整形に近い手術。見栄えは変わるが、身体的能力はそれほど変化が無いのが特徴。美容整形して性格が明るくなる・・・ような改造かな?

その美容整形を施したM400系をサンプルとして手元に置きたかったので作ってみた。すなわち自分用のタコスペ・超不細工なのだが、字幅はEF-UEFではなく、F-EF程度にしている。このペンで(相馬屋製原稿用紙ではなく)通常のコピー用紙(一度カラーレーザープリンターを通ったもの)に書けばEF-UEFとなる。

すなわち、とりあえず出来た書類に修正を書き込む為に使う萬年筆を意識して研いでみた。書く紙によって太さに大きな違いがある事を今更ながら意識するようになったので、今回はソレも実験項目に入れた。

2012-02-08 022012-02-08 03こちらは調整前のペン先を上から見た画像。子ペリカン一匹で、丸研ぎになった最も新しいペンポイントだが、左右のアンバランスはない。切り割りが中央にきているだけではなく、ペンポイントも綺麗に中心に切れ目が入っている。

画像ではわからないがスリットもわずかに開いており、インクフローも十分にある・・・というかEFにしては多すぎるくらいある。また厳密に言えば、ペン先がほんの少しだけ前に寄っている。

その量はペン芯の先端部が見える位置がペン先刻印の幅だけ前に寄っていた方がいいなぁ・・・という程度。書き味にさしたる差は出ない。というか大当たりのペン先!

調整を施そうと思って購入したような時に限って、調整がいらないような良い状態のブツが手に入る・・・うれしいことなのだが、なんとなく調整を施すのがもったいない。

2012-02-08 042012-02-08 05横顔を見てもまったく破綻の無い美しさ。ペンポイントの整った状態もすばらしい!これに超不細工な調整を施してどうするの?というツッコミを自分でしたいほど。

コリコリと極細らしい筆記感を残して紙に文字が刻まれていく。ガリガリと引っ掛かることもなく良い感じ!もしこれに店頭で出会ったら、ほとんどの人が感激して購入してしまうほどの書き味なのじゃ。

2012-02-08 06ただし、唯一気になったのが、ペン先がわずかだけ背開きになっていること。見栄えだけの問題なのだが、なんとなく気になる。

実はEFくらいまで細くなると、背開きは問題ではなくなる。少し筆圧を書けた段階でスリットが平行となるので筆記中に引っ掛かったりはしない。

ただひとつ、裏書きをする場合に困るのじゃ。通常筆記で背開きということは、裏書きにすれば腹開き。従って筆圧をかけないで書いていれば、裏ではインクフローが良い筆記が楽しめるのだが、エッジが引っ掛かる。

残念ながらこの個体でも裏書きするとエッジが気になる。そこで表書きではもっとEFらしい細い字幅にすること、裏書きではエッジがひっかからなくて太めの字幅が実現できるような研ぎ・・・ということでタコスペ・超不細工研ぎを施すことにした。ただし、カラーレーザーを通した紙に書くことを前提としているので、字幅は太めに調整するので、タコスペ・超不細工一歩手前研ぎとした。亜流じゃな。

2012-02-08 072012-02-08 08こちらが調整後のペン先。通常のタコスペ・超不細工と少し違うの、先端部が角研ぎになっていないこと。その分横線が若干太くなる。カラーレーザープリンターの中を通ると熱のせいか少しだけインクのノリが悪くなり、線が細くなるのでその対策じゃ。

ペン先と首軸の位置、ペン芯とペン先の位置関係は理想どおりになった。ただしペンポイントの形状は研ぐ前と比べると不細工になる。これが命名された理由でもある。肉眼で見える形や書き味は良いが、ルーペで拡大してみると不細工な形状もある・・・美容整形の痕跡が見えるわけじゃ。

2012-02-08 092012-02-08 10こちらが調整後の横顔。これが超不細工の真骨頂。整形前の少女の丸顔が、目鼻立ちの整った個性的な顔立ちに!と言えば聞こえは良いが哲学的に言えば・・・不細工この上ない。

ところがインクを入れて書いてみると評価は一変する。表書きすれば、以前よりは細い線が引っ掛かりなくスラスラと書ける。裏書きすれば、何コレ〜!というほどヌラヌラの中細線が書ける。これこそが超不細工の真骨頂!

この書き味を楽しみたくなったので、若干字幅は太くなるが、プラチナのカーボンブラックを入れる事にした。あ〜至高の書き味!


【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1h 修理調整2h 記事執筆2h
画像準備
とは画像をスキャ ナーでPCに取り込み、向きや色を調整して、画像ファイルを作る時間
修理調整
とは分解・清掃・修理・ペンポイント調整の合計時間
記事執筆とは記事を書いている時間

  
Posted by pelikan_1931 at 07:00Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック