2005年09月13日

万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】5

書き味柔らかめの調整の究極は以前紹介したペン先を削ること。ただしあれは日常のメンテナンスの範囲を超えた暴挙。そこで今回は、ほんの少し柔らかくする方法を伝授しよう。


その前に、書き味と柔らかさは無関係であることを理解しておいて欲しい。

書き味のよい万年筆というのはヌラヌラ書けることと定義付ければ、別にペン先が柔らかくなくても、極太で筆記角度が書き手に合っていて、インクフローがよければヌラヌラと書ける。

 

ここでいう柔らかさとはペン先の弾力のこと。ペン先が薄ければ、ほんの少しの筆圧でヘロヘロとしなる。この状態を柔らかい書き味と定義し、それに近づける調整を紹介する。

 

なぜ、この技を身に着ける必要があるかといえば、ペンクリでペン先を柔らかくしてくれといわれるのは、調整師にとってはかなり迷惑なことだからだ。チャーチャーと削るだけではなく、かなり加工が必要な上に、調整もどりもある。それを知った上で受けるとなると、後日、こんなはずではなかったというクレームに発展する可能性もある。本来は有料の調整として依頼すべき事項だ。

とはいえ、簡単に自分で出来るケースもあるので、それを紹介する。

 

書き味を柔らかく出来る万年筆は硬さをペン先のお辞儀具合で出しているようなモデル。具体的にはPelikan 400NNやPilot 65タイプのペン先。こういうペン先は筆圧をかけるとバカっと先端が開くが筆圧をかけないと細い字になる。こういうペン先をフニャフニャとは言わないが、もう少し少ない筆圧でもガバっと開くようにしたいときに用いる。

 

ペン先をペン芯からはずす。そして猫背を直す。具体的には、ゴム板の上にペン先を左向きにのせ、右手でペン先の軸側を少々あげる。イリジウムはゴム板につけておく。この状態でツボ押し棒の軸の太いところで猫背を治す気持ちでゆっくりとしごく。多少猫背が直ったらペン芯とセットして試し書きする。

良い書き味になったら、再度ペン芯をはずして、ペン芯を90度のお湯に入れて柔らかくし、先端を多少そらせてペン先と密着するようにするというのは前回と同じ。

 

インクフローはペン先とペン芯が密着することによって良くなるので、この密着作戦は非常に重要。もっと柔らかくしたければ、シェーファータルガのように上に反らせる手もあるが、美観をそこなうのでやらないほうがよい。そこまで来たらプロに削ってもらうのが得策でしょう。


写真はPilot Caplessの安価なモデル。けっこうファンは多い。


2005-09-13 AM


柔らかいペン先は概して書き味の良いものが少ない!ということも覚えておいて欲しい。柔らかくて書き味が良いのはイリジウムが極太用に調整されていて、弾力とヌラヌラの二段攻撃だからだけ。細字でエッジが立っていて柔らかいペン先はどうやってもスイートスポットが無いケースも多い。特にVintageの細軟は注意。
柔らかいからヌラヌラではない。ヌラヌラはあくまでも接紙面積に比例と覚えておくと無理難題を言って恥をかかなくてすみます。

 



Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 | 万年筆
この記事へのコメント
5

万年筆は、すきですね。
美しく字がみえますしね。

案外書きやすいので、おどろきますね。
ボールペンよりも、なれたらいいですね。

楽しく、拝見しました。
Posted by 権ちゃん at 2006年07月23日 10:27
この記事を書いたあとで、OMAS Italia '90の最良の調整方法を発見。柔らかくてインクドバドバで書き味が良い万年筆が存在することを証明できた!
Posted by pelikan_1931 at 2006年01月31日 20:37
これは1000円ほどの安価モデルじゃと思うたが、ノック式じゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2005年12月02日 22:28
このキャップレスはノック式でしょうか?
Posted by 並木良輔 at 2005年12月02日 21:56
る、る、【類推の悪魔】とな、、、かっこいい、、かな?

『柔らかいペン先は概して書き味の良いものが少ない』という事実は憧れを一言で斬ってしまう。が、経験則に統計的な判断を加味すれば、このことは90%以上の確率で正しいといえる。
特に穂先が長くてイリジウムに鬆(ス)が入っているものは最低ですな。
Posted by P at 2005年09月14日 22:15
<その9>は、本当にわき腹を抉られような真理の連続。
このブログと同時代に生きることが出来てよかった。

小林秀雄のいう「類推の悪魔」を見極め、退治したいと
思って来ましたが、pelikan_1931 さんはとっくに万年筆界
の類推の悪魔を発見して掃討作戦中でらっしゃったのですね。
その戦いにお供しとうございます。

※【類推の悪魔】言葉の概念やイメージが、あたかも人間の
 意志を離れ、言葉自身の力で他の概念やイメージに結びつ
 くかのような現象。(出展:小林秀雄全作品6、新潮社)
Posted by stand talker at 2005年09月14日 12:00
Vintage物のイリジウムは木目が粗い物も多い。その場合、紙への当たりはザラザラするが、インクフローがよければそれほど気にならない。
最近、昔の万年筆のインクフローが良いのはザラザラを隠す為の必然ではなかったか?なんて妄想を持っておる。
Posted by pelikan_1931 at 2005年09月14日 05:45
軟筆に対する盲目的な、狂信的な、独善的な思い込みに恥じ入る思いです。
数十本の、完璧に調整され、インクを充填してある万年筆を前に、
いったい始終愛用し続けられる万年筆はどれだ、
と同じ文章をマス目に書き入れながら、自問自答を繰り返しています。
Posted by M's Dad at 2005年09月14日 02:44