書き味柔らかめの調整の究極は以前紹介したペン先を削ること。ただしあれは日常のメンテナンスの範囲を超えた暴挙。そこで今回は、ほんの少し柔らかくする方法を伝授しよう。
その前に、書き味と柔らかさは無関係であることを理解しておいて欲しい。
書き味のよい万年筆というのはヌラヌラ書けることと定義付ければ、別にペン先が柔らかくなくても、極太で筆記角度が書き手に合っていて、インクフローがよければヌラヌラと書ける。
ここでいう柔らかさとはペン先の弾力のこと。ペン先が薄ければ、ほんの少しの筆圧でヘロヘロとしなる。この状態を柔らかい書き味と定義し、それに近づける調整を紹介する。
なぜ、この技を身に着ける必要があるかといえば、ペンクリでペン先を柔らかくしてくれといわれるのは、調整師にとってはかなり迷惑なことだからだ。チャーチャーと削るだけではなく、かなり加工が必要な上に、調整もどりもある。それを知った上で受けるとなると、後日、こんなはずではなかったというクレームに発展する可能性もある。本来は有料の調整として依頼すべき事項だ。
とはいえ、簡単に自分で出来るケースもあるので、それを紹介する。
書き味を柔らかく出来る万年筆は硬さをペン先のお辞儀具合で出しているようなモデル。具体的にはPelikan 400NNやPilot 65タイプのペン先。こういうペン先は筆圧をかけるとバカっと先端が開くが筆圧をかけないと細い字になる。こういうペン先をフニャフニャとは言わないが、もう少し少ない筆圧でもガバっと開くようにしたいときに用いる。
ペン先をペン芯からはずす。そして猫背を直す。具体的には、ゴム板の上にペン先を左向きにのせ、右手でペン先の軸側を少々あげる。イリジウムはゴム板につけておく。この状態でツボ押し棒の軸の太いところで猫背を治す気持ちでゆっくりとしごく。多少猫背が直ったらペン芯とセットして試し書きする。
良い書き味になったら、再度ペン芯をはずして、ペン芯を90度のお湯に入れて柔らかくし、先端を多少そらせてペン先と密着するようにするというのは前回と同じ。
インクフローはペン先とペン芯が密着することによって良くなるので、この密着作戦は非常に重要。もっと柔らかくしたければ、シェーファータルガのように上に反らせる手もあるが、美観をそこなうのでやらないほうがよい。そこまで来たらプロに削ってもらうのが得策でしょう。
写真はPilot Caplessの安価なモデル。けっこうファンは多い。
柔らかいペン先は概して書き味の良いものが少ない!ということも覚えておいて欲しい。柔らかくて書き味が良いのはイリジウムが極太用に調整されていて、弾力とヌラヌラの二段攻撃だからだけ。細字でエッジが立っていて柔らかいペン先はどうやってもスイートスポットが無いケースも多い。特にVintageの細軟は注意。
柔らかいからヌラヌラではない。ヌラヌラはあくまでも接紙面積に比例と覚えておくと無理難題を言って恥をかかなくてすみます。