コンコルドニブの改良 驚異の書き味
昨日予告したセーラー・プロフィット・ギャザード・コンコルド。こいつには実にさまざまのニブをつけたが、ついに最もバランスの良いものが見つかった。
このボディに遭遇したのは12年ほど前。そう、フルハルターが出来たころだと思う。日本橋丸善の最上階で万年筆フェアが実施され、岡本コレクションが公開された時。森山さんもペンクリのような形で参加されていた。そのときには面識が無かったのでお話はしなかった。

この万年筆はセーラーのコーナーに展示されていた。長原さんはいらっしゃらなかったが、プロトタイプとしてのギャザード軸と長刀ニブと紹介されていたのでペン先を見せてもらった。プロトタイプ時代の長刀は先端が上には反っておらず細長いイリジウムが長刀状態に研いであるだけだった。
その研ぎを見たとたん体が熱くなった。自身の研ぎの方向性を見失っていた時だったのじゃが、見たとたんに展望が開けた。5万円という当時の国産万年筆、しかもプラスティック軸としては高価なものだったが迷わず購入。
しかし、どうもうまく書けない。通常なら研いでしまうのじゃが、どう研ぐのかの発想も浮かばない。それにペン先が非常に高価じゃ!困った・・・
と思っているときにペンクリの案内を見つけた、しかもこのペン先を作った人らしい!ということで、のこのこ出かけていった。自分で研いだペン先の付いたParker75のキャップのおさまりが悪いもの、センテニアルのMI、そしてこいつ。
そのペンクリには長原さんと川口さんの2人がいた。川口さんが修理、長原さんが研ぎと手分けしていたらしい。川口さんはParker75をいとも簡単に直してくれて3本を長原さんに手渡した。MIのペン先を見て【こりゃ息が詰まっとる。呼吸困難じゃ】と言ってペン先を抜いて両手でグニャグニャポン!【書いてみなされ!】インクが切れる症状が消え、極めてインクフローが良くなった。魔法のよう。一切研いでいない。感動した!
Parker75については、イリジウムを見て【あんた自分で研いでじゃろう。なかなか良い筋しとる。弟子にならんか?楽しいよう】とお世辞を言われた。この一言で自分で研ぐことに関する罪悪感は払拭され、より大胆な研ぎの世界に入っていけた。弟子にはなれなかったが、拙者に取って長原さんは心の師匠であるのは間違いは無い。
長刀に関しては書き方を教えていただいた。そして既に改良型の長刀があるということで見せてもらい速攻で購入。それがペン先がやや上に反った長刀じゃった。すなわち、上に反っていない長刀はプロトタイプとして極少量作られただけのようじゃった。
その後は長原さんのペンクリには何度も通った。そこでやはりプロトタイプで入手したのがコンコルドのペン先。これは非常に長い軸についていた。【ブルトーザーの操縦席から遠隔操作で書いているような感じじゃろう!】とおっしゃったが、まさにそれじゃった。その長軸ではペン先をひっくり返して筆のような字を書くのは筆記角度の関係で多少無理があった。
今年のはじめより、ごまんとあるセーラーの軸とペン先を最適な組み合わせにしようとあれこれ交換して試してみた。その中で出てきたのが、ギャザード軸とコンコルドの組み合わせ。この長さならひっくり返して書いても筆記角度を変える必要が無い。ただしひっくり返して書く時に、表面がツルツルなため、書き出しの字幅がブレる。細くなったり掠れたりする。そこで紙に当たる部分全体を1000番の耐水ペーパーでざらつかせた。これによって書き出しのブレが無くなった。コンコルドの背中側は接紙面積が広いのでざらつかせてもヌルヌル感はほとんど変わらない。むしろ筆記音が出てきて心に響く感じがして好きじゃ。
ギャザードのプロトタイプ軸はその後定番品となり、コンコルドもすぐに定番品のような扱いとなった。この万年筆はオリジナルの組み合わせではないが、拙者の持っているセーラー群の中での全体最適の結果として生まれたもので、軸の重さ、筆記角度、表筆記時の書き味、裏筆記時の書き味を総合すると非常に満足度の高いものになった。そしてCP7とともにお嫁に行った。
Posted by pelikan_1931 at 04:30│
Comments(12)│
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万年筆
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実験結果がわかったら報告してくだされ。
背中を粗いペーパーで擦ることを忘れないでな・・・
pelikan_1931様
ギャザード軸にコンコルドをつけるというのは妙案です。たいていのコンコルドは長い軸に付いているのでひっくり返して書くときは、持つ角度を変えなければなりません。軸の短いギャザード軸であれば、その当たりの無理が無いかもしれません。とりあえず、通常のPrifitにコンコルドを付け替えてみます。
京都和文化研究所しゃん
詩的な表現で評価いただきありがとさん。
一本の万年筆ではあるが、作者、改造者が最高の書き手であるわけではない・・と思いつつ、お嫁に出しているわけですが、大半のケースが恋愛結婚なのが嬉しいです。
万年筆の方も持ち手に惚れないと、持ち手に惚れてもらえません。
お嫁に出す時には、お婿さんをある程度想定してから、化粧(調整)するわけですが、本人、あるいは同じ趣向の人から婚礼の申し込みが大半ですな。
浦島しゃん
では、最初についていたオリジナルの長刀はどうなったか・・・近日中に紹介します。
浦島しゃん
あのコンコルドは裏で書くと、筆圧をかけると線が細くなり、筆圧をかけないと線が太くなります。ペン先の背中で書くので当然と言えば当然なのですが、不思議な感覚です。そこも気に入っていました。
続き
もっと凄い事もあった。長原先生のペンクリに午後一番で駆けつけたら、既に椅子に座って待っている人がいた。10分たって先生が戻ってお客が話し始めたらどっかで聞いた声。横から覗き込んだら、森山さんだった・・・話の内容は高度すぎてちっともわからなかったがな。狙ってた万年筆は拙者の直前で森山さんの手に落ちた。
その後速攻でフルハルターへ行ったらその万年筆は既に壁に飾られてあった。孫の手万年筆!森山さんが相手ではしようがないと諦めた逸品!
kiyomiしゃん
> pelikan_1931さんの12年の情熱を垣間見ました
今思い出したのじゃが、そのペンクリに行く前に、丸善でのペンクリに行った。そのときには川口さんが一人で【ペン先を見てもらうんなら神様のような職人がいるから、いついつあのデパートへ行きなされ!】とアドバイスしてくれたんだった。
そういえば、その後、2人でペンクリしているのを見たことは無い。
偶然2人が揃ったのかもしれない。その時、客は拙者一人!ぜいたくなペンクリじゃった。
続く

きゃぁー!なんと、なんと、浦島さん

の所にお嫁入りしたのですね?
幸運なことです!
ぜひ、そのお嫁さんにお逢いしたいです。
pelikan_1931さんのルーツを物語るその一本。
次回お会いできる時の楽しみが増えましたっ。
pelikan_1931様
【ただの1本の万年筆】【されど1本の万年筆】 ギャザードのプロトタイプ軸コンコド。1本完成までに ■悩み■人との出会い■努力■工夫 ・・・・・・・・・良いお話聞かせて頂きました ありがとうございます。そしてお嫁に行った先もよっかったですね。 再度ありがとう。いい話。
pelikan_1931さんの思いが凝縮されたプロフィットギャザード・コンコルド、大切に大切に使わせていただきます。
あの日、一度掴んだらもう手放せななくなっていました。
実用の筆記具としても、楽しみの筆記具としても、最高の1本です。
本当にありがとうございました。
kiyomiさん、今度お会いするときに持っていきます。
試し書きをしてみて下さいね。
pelikan_1931さんと長原さんとの出会いを、しみじみと拝読しました。
ドラマチックで、しかも、温かみのある出会いですね。
昨年(一昨年?)その長原さんからも免許皆伝のお墨付きをいただいたことは、本当に素晴らしいことでした。

pelikan_1931さんの12年の情熱を垣間見ました。
そして、お嫁に行った「その子」を一目見たかったです。
pelikan_1931さんの究極の一本でもあったわけですね。
関東地方にお嫁に行ったのなら、いつか会えるかも?
その時は是非、「この子です」と教えて下さい。
