以前は極太一辺倒じゃったが、最近ではEFやFの書き味が非常に好きになってきた。その原因を作ったのが、2005年7月31日のBlogで紹介した Montblanc No.146じゃ。
http://pelikan.livedoor.biz/archives/50031812.html
本文はちょっぴりじゃが、コメントは所有者も出演して盛り上がった！
今回の修理調整は、それと同時代のNo.146。ペン先の弾力も酷似している。この時代のNo.146のFとNo.256のEFの書き味は他に比べようも無いほどすばらしい。
キャップを嵌めた上体では、ほとんどMintのNo.146じゃ。最近入手されたそうじゃが、高かったじゃろうな！最近信じられないような相場になっておる。１年前よりもさらにな。このBlogのせいもあるかもしれんが、最近は身内？での奪い合いは減ったようじゃ。【オトナ】になってくると自分が入手しなくとも、仲間が入手すれば満足というケースが多いようじゃ。頻繁に会っていれば書かせてもらえる機会が十分にあるからな。
さて問題の不具合じゃが、ペン先の左側が左にひん曲がっている。この直し方については、一番下にLinkを張っている【万年筆は刃物！ その１０】で紹介したやり方を一歩進歩させてみた。直し方としては、ペン先が【く】の字に曲がった場合の、内側の直し方と同様じゃが、これを改良した。
まずは拡大図で、どのように曲がっているか確認していただこう。左側だけが外側に曲がっている。以前の直し方は、スリットに隙間ゲージを差込み、左の画像では上からツボ棒でゲージにこすり付けるのじゃった。この方法にはリスクが少ないが、時間がかかる。そこで、今回は新しい方法での【曲げ】を考案した。今回紹介する方法はテクニックは必要じゃが、時間ははるかに短い。曲げを直すのに必要な時間は５秒じゃった。
まず隙間ゲージを両面テープでゴムブロックのコーナーに貼りつける。厚さは0.3�个�良い。さらにはやや高級な割り箸（出来れば先端が丸い形状）の根本を削って左のような棒を作る。先端は直径２�个留澆如∈�本に行くに従って太くなるもの。これを金属棒で代替すると、ペン先のスリットを傷めてしまうので、必ず木製で作成するのじゃ！
今回は隙間ゲージはスリットに挿しこむのではない。単にペン先の外側を真直ぐに揃える際の型に使う。まず曲がった方のペン先の外側を隙間ゲージに当て、スリットの内側から曲がった箇所を割り箸でグイグイと３回ほど隙間ゲージにこすり付ければ終了じゃ。ゴムブロックの上に置いた隙間ゲージが絶妙の弾力でペン先を受け止めてくれるので、多少力加減を間違えても大きな変形にはならない。
なを、割り箸で押す時には、ペン先を押さえる方の手は非常に複雑な形状になる。中指と親指で曲がっているほうのペン先側を隙間ゲージに固定し、人差し指で曲がってない方のニブを大きくスライドさせ、割り箸を当てるスペースを作るのじゃ。書けば簡単じゃが、熟練しないとペン先を曲げすぎて折ってしまう事もあるから注意！
そうやって、曲げを伸ばした直後の画像が左じゃ。直前まで曲がっていたとはまったくわからないじゃろう。コレが14金ペン先、しかも十分に鍛錬したペン先の凄さじゃ。現行の18金ペン先ではこうはいかない。改めて14金鍛錬ペン先のすばらしさを実感したのぅ。
このまま万年筆に装着で出来そうじゃが、実際には割り箸でこすり付けるためにスリットの両側を思いっきりスライドさせているので、ペン先を正面から見た場合、上下の段差が出来ている。従ってこれを直した後、微調整を加える必要がある。
そうして修理が終了したのが左の図の状態じゃ。スリット先端はやや開き、根本に行くに従ってスリットが広くなる。この状態が毛細管現象が最も良く働き、インクがペン先に誘導されるスピードが速く、なおかつ、インクが紙の上に盛り上がるほどインクフローが良い。
実際に書いて試してみたが、ふんわりとした柔らかいペン先から、インクがドバドバ出て、軽い筆記音とともに濃い筆跡を残してくれる。色、音、書き心地の３点で筆記者を楽しませてくれる極上のペン先になった！
今回も 大成功 じゃ！
これまでの調整記事
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ ８８ オールブラック
万年筆は刃物！ その１ 【研ぐとは？】
万年筆は刃物！ その２ 【心構え】
万年筆は刃物！ その３ 【準備する工具類】
万年筆は刃物！ その４ 【インクフローの調整】
万年筆は刃物！ その５ 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物！ その６ 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物！ その７ 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物！ その８ 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物！ その９ 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物！ その１０ 【ペン先曲がりの調整】
2006年07月29日
今週の調整報告 その５ 【Montblanc 1950年代 No.146】
この記事へのコメント
mochidukiしゃん
調整は時間をかければずっと良くなる。
会場での調整よりも持ち帰った方が十分に時間が取れるでな。
調整は時間をかければずっと良くなる。
会場での調整よりも持ち帰った方が十分に時間が取れるでな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月31日 20:14
この146はもともと吸入ができず、ユーロボックスの藤井さんに直していただいたのと（しかも難工事）、それから今回の修理と、匠の技満載の、本当に手放せない一本になりました。
ありがとうございました！
ありがとうございました！
Posted by mochiduki at 2006年07月30日 23:50
私がそれほどまでに取り乱したのは、師匠の手で夢のような書き味に仕上げていただいた直後だったからです。もうあの感触が戻らないかも、と悔やんでも悔やみきれませんでした。
それをkugel_149さん、めだかさんやみなさんが励ましてくださいました。「師匠なら曲げる前より良くしてくれる」と。
一週間後、それは現実になりました。もう素晴らしい状態に。もちろん見た目も。だいたい私は、この記事を見るまで、ニブのどちら側が曲がっていたかすら分からなかったくらいですから。
それをkugel_149さん、めだかさんやみなさんが励ましてくださいました。「師匠なら曲げる前より良くしてくれる」と。
一週間後、それは現実になりました。もう素晴らしい状態に。もちろん見た目も。だいたい私は、この記事を見るまで、ニブのどちら側が曲がっていたかすら分からなかったくらいですから。
Posted by mochiduki at 2006年07月30日 23:46
めだかしゃん
万年筆を中心に集まる人を捉えた物語は誰かに書いてもらいたいですな。
万年筆を中心に集まる人を捉えた物語は誰かに書いてもらいたいですな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月30日 00:20
あの惨劇直後を、目撃した者です。
持ち主の狼狽ぶりは、大変なものでしたね。
可哀想なくらい、肩を落としていました。
でも、そのときの師匠の涼しい表情ときたら…。
ひょっとして、あの時、すでに治療策を考えていたのではありませんか？
ブログをはじめとした、このヴァーグナーの繋がり。
万年筆文化の中で重要な位置を占めてきていると思うのは、単なる思いこみでしょうか。何とか、４本の…のように記録に残すことは出来ないでしょうか。う〜ん、文才があったらなあ。
持ち主の狼狽ぶりは、大変なものでしたね。
可哀想なくらい、肩を落としていました。
でも、そのときの師匠の涼しい表情ときたら…。
ひょっとして、あの時、すでに治療策を考えていたのではありませんか？
ブログをはじめとした、このヴァーグナーの繋がり。
万年筆文化の中で重要な位置を占めてきていると思うのは、単なる思いこみでしょうか。何とか、４本の…のように記録に残すことは出来ないでしょうか。う〜ん、文才があったらなあ。
Posted by めだか at 2006年07月29日 23:59
らすとるむしゃん
硬度の高い金属は脆いものじゃな。
硬度の高い金属は脆いものじゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月29日 23:05
師匠、恐縮です。
もう一度現物を確認したところ・・・・接合部分で取れたとばかり思っていましたが、接合部分ではなくイリジュ−ムが途中で割れた状態でした。これはイリジュ−ム飛びとは呼ばないのでしょうか？。また、イリジュ−ムは硬度は高いですが圧延性がほとんど無く実験で丸いイリジュ−ムをハンマーで叩いてスタブのように平たいものにしようとしましたところ・・・見事に粉々になりました。この金属は鉄や真鍮やアルミのように潰れて変形する事はなく割れ易い金属のようです。
もう一度現物を確認したところ・・・・接合部分で取れたとばかり思っていましたが、接合部分ではなくイリジュ−ムが途中で割れた状態でした。これはイリジュ−ム飛びとは呼ばないのでしょうか？。また、イリジュ−ムは硬度は高いですが圧延性がほとんど無く実験で丸いイリジュ−ムをハンマーで叩いてスタブのように平たいものにしようとしましたところ・・・見事に粉々になりました。この金属は鉄や真鍮やアルミのように潰れて変形する事はなく割れ易い金属のようです。
Posted by らすとるむ at 2006年07月29日 21:42
らすとるむしゃん
良い情報をありがとしゃん。今後はイリジウム接合部の確認もすることにしよう。拙者は800本潰したがイリジウム飛びの経験は無いなぁ・・・
良い情報をありがとしゃん。今後はイリジウム接合部の確認もすることにしよう。拙者は800本潰したがイリジウム飛びの経験は無いなぁ・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月29日 21:21
師匠！！。お見事！！。
たった、５秒とは・・・・絶句。
以前、シングルカラー14Ｋの146のニブを修理中にイリジュ−ムの接合部分が取れてしまいました。それ以来金の部分は曲げたり叩いたり出来ますが、イリジュ−ムに力が掛る修正は怖くて出来ません。まだまだ修行が足りません！！！。
たった、５秒とは・・・・絶句。
以前、シングルカラー14Ｋの146のニブを修理中にイリジュ−ムの接合部分が取れてしまいました。それ以来金の部分は曲げたり叩いたり出来ますが、イリジュ−ムに力が掛る修正は怖くて出来ません。まだまだ修行が足りません！！！。
Posted by らすとるむ at 2006年07月29日 20:42
kugel_149しゃん ありがとさん。
こういうマイナーな修理はそれほど困難ではない。しかし、イリジウム飛ばしとか、ペン先が割れた・・・というような場合は、久保工業所に持ち込まねばならない。
やはりプロは凄いですぞ。そこで修行している人が３〜４人いるというのか、今後楽しみじゃ。一代限りと思われていたワザを、ぜひ伝承してもらいたいものじゃ。
こういうマイナーな修理はそれほど困難ではない。しかし、イリジウム飛ばしとか、ペン先が割れた・・・というような場合は、久保工業所に持ち込まねばならない。
やはりプロは凄いですぞ。そこで修行している人が３〜４人いるというのか、今後楽しみじゃ。一代限りと思われていたワザを、ぜひ伝承してもらいたいものじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月29日 15:03
この１４６のことについては、他人事ではなかったのであります。
目の前で、あっという間に起きた“惨劇”だったからです。
持ち主の狼狽。呼吸が荒くなり、今にも失神しそうでした。
私は言いました。
「あなたは、師匠を信じますか？」
どこかの宗教団体の街頭布教のようですが、下手な慰めの言葉は不要でした。
結果は…。
さすがは、師匠なのです。
お見事！ あっぱれ！ ブラボー！
まるで魔法使いのようです。
私が過去に「フェンテ」で書いた激賞の拙文がまたまた実証されたのでした。
目の前で、あっという間に起きた“惨劇”だったからです。
持ち主の狼狽。呼吸が荒くなり、今にも失神しそうでした。
私は言いました。
「あなたは、師匠を信じますか？」
どこかの宗教団体の街頭布教のようですが、下手な慰めの言葉は不要でした。
結果は…。
さすがは、師匠なのです。
お見事！ あっぱれ！ ブラボー！
まるで魔法使いのようです。
私が過去に「フェンテ」で書いた激賞の拙文がまたまた実証されたのでした。
Posted by kugel_149 at 2006年07月29日 14:30
ぴよぴよしゃん
経験を積むと、失敗した時の戻し方が、あらかじめ頭にあるので、大胆なことをトライできるので、ますます新しい技術を身につけやすいということじゃ。（ビリヤードのようじゃ。失敗しても、相手も打ちづらい位置に玉を残すような戦略と似ている）
何事も失敗しないと身に付かんのじゃよ。
経験を積むと、失敗した時の戻し方が、あらかじめ頭にあるので、大胆なことをトライできるので、ますます新しい技術を身につけやすいということじゃ。（ビリヤードのようじゃ。失敗しても、相手も打ちづらい位置に玉を残すような戦略と似ている）
何事も失敗しないと身に付かんのじゃよ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月29日 10:08
今回も勉強になります。
残留応力とかを上手く逃がしながら矯正するのには、やはり経験しか無さそうですね。
処で以前の記事のコメントにあります、シリコンラバーでピストンシールを作る方法に関心があります。
想像するに寸法設定と硬度の選び方や、シリコンが摩擦に負けて変形して逃げないようにする工夫が肝でしょうか？
残留応力とかを上手く逃がしながら矯正するのには、やはり経験しか無さそうですね。
処で以前の記事のコメントにあります、シリコンラバーでピストンシールを作る方法に関心があります。
想像するに寸法設定と硬度の選び方や、シリコンが摩擦に負けて変形して逃げないようにする工夫が肝でしょうか？
Posted by ぴよぴよ at 2006年07月29日 09:44
２９８しゃん
外から割り箸でやる場合、注意しなければならんのは、曲がったところから戻るとは限らんことじゃ。
今回の方法であれば、強制的に曲がったとこるを元に戻せる。ワザは必要じゃがな。
曲がったところには力が溜まってるので、戻す時に何処から曲がるかは想像するしかない。これには経験が必要じゃ。失敗した経験がな。
外から割り箸でやる場合、注意しなければならんのは、曲がったところから戻るとは限らんことじゃ。
今回の方法であれば、強制的に曲がったとこるを元に戻せる。ワザは必要じゃがな。
曲がったところには力が溜まってるので、戻す時に何処から曲がるかは想像するしかない。これには経験が必要じゃ。失敗した経験がな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年07月29日 09:37
素晴らしい！！ 割り箸で押すのがスリットの内側からですかぁ スリットに隙間ゲージを入れて外から割り箸のほうが安全性は高そうですね！！ 下手にやるとスリットがぼこぼこになりそう （笑）
Posted by ２９８ at 2006年07月29日 07:28
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