今週の調整報告 その6 【 Conway Stewart Floral 】
今週の調整はけっこう大変じゃった。一瞥した段階ではペン先のスリットが開いているのを直せば良いなと考えていたのじゃが・・・・
良く見るとレバーフィラーがセロテープで軸に留めてある。剥がしてみるとレバーはスコスコ動いて軸にピタッっと止まらない。レバー自体は壊れていないが、ゴムサックを押すバーが腐食しレバーと離れてしまっているのであろう。
首軸を抜いてみるとサックは跡形もない。これは古いレバーフィラーには良くある事。それではと、ノックアウトブロックでペン先とペン芯を首軸からたたき出そうとしたのだが、ビクともしない! こういう時には焦りは禁物。まず首軸を流水で良く洗う。その後、常温の水に20分ほど浸けてからノックアウトブロックで叩く。これでもビクともしない。そこで、75度くらいのお湯に30分ほど入れ、インクで汚れた水を捨て、さらに75度のお湯に10分ほど入れてからノックアウトブロックに乗せ、トンカチと五寸釘の先端を平らにしたもので叩き出す。今度は成功。
左がその状態。首軸の左端には、硬化したゴムサックが付いている。長時間お湯に漬けておいたので多少はふやけているのでNTカッターでゴム部分を削り落とす。
ペン芯には溝が掘ってあるので、その溝をスキマゲージで擦って、インクカスを捨てる。最後は強力エアークリーナーで圧縮空気をブゥォー〜っと当ててゴミを吹き飛ばす。ペン芯の溝を清掃しておかないとインクフローが不安定になるのじゃ。
次は調整前のペン先じゃ。この角度では良く分らないが、ペン先は左右に0.5ミリほどの段差を残したまま上に反っており、ペン芯との間に空間が出来ている。おまけにスリットが先端に行くほど拡がっているので、このままではインキがペンポイントまで届かない。それに良く見ると【Stewart】と彫られた部分の下の方に上から下に向かって引っ掻き傷が付いている。これも直すのが真のペン先調整じゃ。
調整が終わったペン先が左。引っ掻き傷は見事に消えている。さらにスリットの段差、スリット間隔を調整。次にツボ押し棒でペン先を猫背気味に曲げ、ペン芯とのスキマを解消。最後に小気味良い弾力を得るように曲面角度を調整する。
ペン先のスリットの間に1200番の耐水ペーパーを挟み、左右一回ずつシャリっと引っぱる。これでインクがスリットになじむようになる。なを引っ掻き傷を消すのはゴムブロックの上に置いた金磨き布にペン先を指で押し付けて力いっぱい擦る作業を繰り返すのじゃ。この時の注意点!あまりに高速でこすり付けると火傷する。ご存知のように金は熱伝導率が高いので、あっというまに摩擦熱が伝わる。要注意じゃ! アチチ・・・やっちまった。
左の図の下の細長い金属棒が、レバーから脱落した【ゴムサック押しバー】じゃ。これは直らないので、代替品を使うことにした。上の金属部品でJ-Barと呼ぶ。FPHなどの通販で手に入る。こいつのすばらしいところは、軸内に突っ込むだけでグラグラだったレベーがピタリと軸に密着することじゃ。オリジナルよりも丈夫で感触も良い。軸への差込方は、レバーを軸に密着させておき、図の部品の上側にレバーが当たるようにして先が細長〜いペンチで止まるまで押し込むだけ。
次にゴムサックの装着。長さは軸にサックを入れて見当をつけ鋏で切断する。首軸後ろ側のゴムサック接着部分に【サックセメント】を塗り、サックを接着する。その際、図のようにペン先を上にした時、後ろ側がやや斜め下になるように接着すると軸に入れやすい。
軸のレバーの延長上にペン先のスリットが来るようにして首軸を胴体に押し込む。捻ってはいけない。この状態でレバーフィラーを操作してちゃんと水を吸うことを確認することを忘れないようにな。
最後は仕上げじゃ。下の工具は歯科用。正しい用途が何かは知らないが、非常に便利なToolじゃ。これに限らす歯科道具は万年筆の修理に役立つものが多いので、機会があれば入手されることをお奨めする。ヤフオクでも入手可能じゃ。拙者50本以上持っているが全てヤフオクで入手した。
さてこの道具の用途は? 胴体のネジの溝に付着して固まったインクを削り落とすのじゃ。いくら調整してもネジ溝にインクが付着した状態では、それが気になって書く気がおこらない。特にFloralのような美しい軸はなおさら。
依頼主もきっと満足することじゃろう。もちろん書き味は依頼主にあわせて調整してある。今回はイリジウムの削りは極少とした。
今回も 大成功 じゃ!
これまでの調整記事
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel 2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】万年筆は刃物! その2 【心構え】万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】
Posted by pelikan_1931 at 09:00│
Comments(16)│
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│
万年筆
>内側の傷は見えないので大胆にゴシゴシやるのじゃ!
了解しました(^^;
有り難うございます。
早速お気に入りに登録しました。
工具を買いたい衝動が・・・
ぴよぴよしゃん
Linkを貼っておいたのでみてくりゃれ!
ぱいたんしゃん
内側の傷は見えないので大胆にゴシゴシやるのじゃ!
師匠。
FPHとは?ググってみましたが、ヒット件数の多さに挫折しました。
ご教示いただけましたら嬉しく思います。(ペコリ)
とがっていたら軸の内側にあたって傷つきません?
使い方の練習が必要そうですぅ(^^;
万年筆以外のもので練習しないといけなそう...。
ぱいたんしゃん
イエイエ・・・鋭利に尖った物ほど役に立ちます。
ご指南、ありがとうございます。
ドライバーの軸で擦るときに、ヒステリーを
おこさないようにする、ということですね(^^;
ゴムがねばついて、つい傷つけてしまいがちなので。
ちなみに、歯科道具の先端って丸いんですか?
めだかしゃん
薄型でないCCD付きのスキャナーならば技術はいらんのよ。
ちなみに書斎館の画像もスキャナーと見た。
298しゃん
修理はグランドデザインを描く時が最も楽しめるのじゃ。
修理・調整してどんな書き味の万年筆にするか?そのために何処に重点を置くかが決まればあとは作業するだけ。
ぱいたんしゃん
75度くらいのお湯に入れて30分。お湯を入れ替えれ10分くらいたつとゴムがややふやけてきます。
そこで100円ショップのドライバーセットのマイナスでガリガリと軸を擦るわけですな。
届かない時には、割り箸を加工していたが、最近は歯科道具じゃな。
師匠!
ニブの調整前と調整後の画像に感動!
すごいですね。まるで新品のニブ。
それにしても、スキャナーでここまで撮る技術もすごい。立体的な物をスキャニングするのはかなり技術がいりますよね。
それにしてもsalty7さん、ヴァーグナーに来てちゃんと見せてくださいね。
ここも薔薇ですね!! ぱいたんしゃんとコラボ しかもこちらは修理!!
それにしても魔法のごとき修理 いつも『すっげ!!』とびっくりします。(笑) このあいだお世話になってるお医者さんが、私のミニ檸檬をみてお父さんの万年筆が使えるようになるといいけど・・とおっしゃってたので そのうち預かるかWAGNERに来てくれるといいなぁ と思ってます。
>ゴムサックを押すバーが腐食しレバーと離れてしまっている...
う〜〜〜、ぶるぶるぶる...「あなたの知らない世界」ですぅ(;;)
これって、インクを入れたまま放置したから、こうなったんですよね?
ふつーに使っていれば、こんなことはありませんよね?
ところで。
溶けたゴムが軸内にへばりついたときは、どうすれば【簡単に】
とれるんでしょう。
軸を壊してしまうかもしれないとおびえながら作業しなくてすむ
方法をおしえてくださいませ m(_ _)m
salty7しゃん
この時代のConway Stewartのニブは極上じゃ。柔らかく無いのに気持ちよい。お試しあれ。ニブはほとんど磨耗してなかった。
師匠、おはようございます!PCを起動させて、評価の部屋のページを開いたら、いきなり見覚えのある万年筆の画像がどど〜んと!!おぉ!これは僕の万年筆ではないですか?外見上、割合キレイな状態だったので、ペン先調整だけで済むかと思いきや、これほどの大手術が必要だったのですね!ありがとうございました。早く手にしたくてウズウズしています。