2006年08月10日

今週の調整報告 その7 Montblanc No.256 【KOB】

2006-08-10 256 01万年筆の調整を依頼されて、ペン先調整だけで返すのはペンクリだけ。持ち帰って調整する場合には、全て分解して組み直す事にしている。その方が楽しい!のと、隠れたリスクを発見出来ることがあるからな。

 今回依頼のあったNo.256は非常に軸の状態が良い。前期モデル【1954-56】のキャップと後期モデル【1957-59】のボディとペン芯がついているので、移行期のハイブリッドじゃな。

2006-08-10 256 02 依頼事項は【インクが出るようにして欲しい】ということじゃった。2つ下のペン先だけの拡大ペン先画像を見るとわかるが、ペン先がギチギチに詰まっている。そしてペン先が一番おさまりが良い位置から若干前に出ている。拙者はNo.256のペン先が前に出ている状態が大嫌い! せっかくのNo.256の美しいフォルムを壊しているように思われる。


2006-08-10 256 03 イリジウムの形状は尻軸表記と同じ【KOB】じゃ。拡大すると左の画像のような形をしている。これが非常に上品な形をしている【Kugel】の原型じゃ。もっと派手な形状の【Kugel】はいっぱい見た事がある。

 今回の調整の【目的】はインクフローが良くなれば・・・とか。これって調整慣れした人の言葉じゃな。

2006-08-10 256 04 左の画像が調整前のペン先の拡大画像じゃ。このようにペン先スリットがギチギチに詰まったNo.256の太字系の調整では、まずスリット間隔を拡げることが最初の作業。ところがコレが一筋縄ではいかない。指で摘んで万力のような力で左右を離そうとしてもビクともしない。スキマゲージで拡げるのも困難。こういう時には魔法を使うわけじゃ。

2006-08-10 256 05 左が修正後の画像。ペン先がわずかにボディ側によっているのが分ろう。拙者はNo256のペン先後部のストレートな部分が首軸からのぞいているのが大嫌いじゃ。従って可能な範囲で微調整をする。要するに挿しこむわけじゃ。

2006-08-10 256 06 こちらが修正後の画像。ペン先に狭いスリットがあるのが見えるじゃろうか。この間隔を出すのに30分くらい必要じゃった。魔法の内容はBlogでは書けないな。あまりにも危険なので・・・

 ペン先の上側を多少削って薄くした。これが書き味に与える影響はほぼ無いじゃろう。表面の段差や傷があった場合など使う表面研磨手法。

2006-08-10 256 07 こちらが出来上がった調整じゃ。Kugelらしい形状を殺し、平凡なOBのペン先に近い形状にした。しかもOBのペン先であるにもかかわらず、通常の筆記角度と同じ使い方が出来るものとした。ここが味噌・醤油じゃ!

 平凡な形状なのに、圧倒的な書き味に!という持ち主からの熱き要望があったが、ほぼ達成できたのではなかろうか。Kugelらしさを出す為に、調整終了後、3種類の粒度のペーパーを使って表面に傷を付けるのがコツかな。【魔法】とはまったく違う作業なので、ご心配なく!


今回も 大成功 じゃ!


これまでの調整記事

2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 

2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
みーにゃしゃん

ご明察じゃ!
Posted by pelikan_1931 at 2006年08月15日 15:37
あ!これは…さる方のペンかしら?
とすれば、
つい最近書かせていただきましたが、素晴らしく書き心地のよいものでした。皆さんが絶賛される256はこれかぁ〜と。
素敵ですね〜☆
Posted by みーにゃ at 2006年08月14日 21:43
ぴよぴよしゃん

WAGNERの月例会としては、最大の32人が参加された。お盆中ということを考えればすごい!
おかげで、拙者もらすとるむしゃんもフル回転じゃった。

Vintageのドイツ物は大型ニブよりは小型ニブの方が柔らかくて楽しめますな。

ふわふわはペンs会の下が腐食していたり、亀裂が入っている時に顕著に現れるのは確かじゃな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年08月13日 13:58
師匠、昨日の集まりはいかがでしたか?
私も早く上京できるようになりたいです。
Soenneckenは、やはり調整前提なのでしょうか。
私は切り割りを広げて、ニブのしなりは変えずに、
フローだけ良くして楽しんでいます。
今度Soenneckenがもう一本増えるので、そのニブを観察しながら、
Soenneckenの傾向を見てみようと思います。

ふわふわにするとなると、ニブをフラット気味に矯正して
断面二次モーメントを減らす+板厚を減らすのでしょうか?
謎です。
ふわふわと言えば、2本ある136の内1本が異常にふわふわで
もしかしたら割れて居るんじゃないかなどと(冷や汗)
Posted by ぴよぴよ at 2006年08月13日 10:41
ぴよぴよしゃん

調整すれば、Soenneckenもふわふわに出来ますぞ。元々柔らかいペン先が得意なメーカではなかったかな?
Posted by pelikan_1931 at 2006年08月12日 03:20
師匠、私の所有しているSOENNECKEN111,222のニブはどれも切り割りの寄せが強く、ニブの左右を上下に互い違いにたわませると交差してしまい、そのままでフリーズするほどです。
所有のM,B,BBのどれもが同様なので、デフォルトがそうなのだと思うのですが、なぜに此程まで切り割りを強く寄せる必要があったのだろうかと疑問に思っています。
SOENNECKENのニブはしなやかで筆圧を上げても、切り割りが開きにくい形状でインクフローも渋めのように感じており、調整を前提としたニブなのか、高筆圧を考慮した設定なのか。。。
師匠はどの様に思われますか?
Posted by ぴよぴよ at 2006年08月11日 15:31
salty7しゃん

昔ならKOBをKBに改造してたじゃろうが、今後、オブリーク好きの人にお嫁に行く可能性も考慮してKOBのままで調整した。
これほどスリットを開くのに苦労したニブは久しぶりじゃが、出来栄えはGoodじゃろう。
Posted by pelikan_1931 at 2006年08月11日 06:46
師匠、おはようございま〜す!おぉ!!!ここにも見覚えの256が!!この256を入手したとき、わくわくしながらインクを吸入し、いざ書こうとすると…。まずスリットが狭すぎて、インクがスリットを通らない、そしてガチガチに硬いニブでした。それが、師匠の「手」にかかると、インクが素直にペン先から出てきますし、不思議なことに、とても弾力のあるニブに生まれ変わっています!一体どんな「魔法」を使ったんでしょうか(?_?;
新生256KOBは、まるで紙に吸い付くような書き心地で、紙とイリジウムが擦れあうクーゲルの書き味を堪能しております。ありがとうございました<(_ _)>。
Posted by salty7 at 2006年08月10日 11:19