万年筆の調整を依頼されて、ペン先調整だけで返すのはペンクリだけ。持ち帰って調整する場合には、全て分解して組み直す事にしている。その方が楽しい!のと、隠れたリスクを発見出来ることがあるからな。
今回依頼のあったNo.256は非常に軸の状態が良い。前期モデル【1954-56】のキャップと後期モデル【1957-59】のボディとペン芯がついているので、移行期のハイブリッドじゃな。 依頼事項は【インクが出るようにして欲しい】ということじゃった。2つ下のペン先だけの拡大ペン先画像を見るとわかるが、ペン先がギチギチに詰まっている。そしてペン先が一番おさまりが良い位置から若干前に出ている。拙者はNo.256のペン先が前に出ている状態が大嫌い! せっかくのNo.256の美しいフォルムを壊しているように思われる。
イリジウムの形状は尻軸表記と同じ【KOB】じゃ。拡大すると左の画像のような形をしている。これが非常に上品な形をしている【Kugel】の原型じゃ。もっと派手な形状の【Kugel】はいっぱい見た事がある。
今回の調整の【目的】はインクフローが良くなれば・・・とか。これって調整慣れした人の言葉じゃな。 左の画像が調整前のペン先の拡大画像じゃ。このようにペン先スリットがギチギチに詰まったNo.256の太字系の調整では、まずスリット間隔を拡げることが最初の作業。ところがコレが一筋縄ではいかない。指で摘んで万力のような力で左右を離そうとしてもビクともしない。スキマゲージで拡げるのも困難。こういう時には魔法を使うわけじゃ。
左が修正後の画像。ペン先がわずかにボディ側によっているのが分ろう。拙者はNo256のペン先後部のストレートな部分が首軸からのぞいているのが大嫌いじゃ。従って可能な範囲で微調整をする。要するに挿しこむわけじゃ。
こちらが修正後の画像。ペン先に狭いスリットがあるのが見えるじゃろうか。この間隔を出すのに30分くらい必要じゃった。魔法の内容はBlogでは書けないな。あまりにも危険なので・・・
ペン先の上側を多少削って薄くした。これが書き味に与える影響はほぼ無いじゃろう。表面の段差や傷があった場合など使う表面研磨手法。 こちらが出来上がった調整じゃ。Kugelらしい形状を殺し、平凡なOBのペン先に近い形状にした。しかもOBのペン先であるにもかかわらず、通常の筆記角度と同じ使い方が出来るものとした。ここが味噌・醤油じゃ!
平凡な形状なのに、圧倒的な書き味に!という持ち主からの熱き要望があったが、ほぼ達成できたのではなかろうか。Kugelらしさを出す為に、調整終了後、3種類の粒度のペーパーを使って表面に傷を付けるのがコツかな。【魔法】とはまったく違う作業なので、ご心配なく!
今回も 大成功 じゃ!
これまでの調整記事
2006-08-05 Conway Stewart Floral
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック
万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】