2006年08月31日

木曜日の調整報告 【 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 】

2006-08-31 01 昨日に引き続き高筆圧者対応の調整じゃ。依頼者は昨日と同じ人。従って調整手順もほぼ同じだが、ペン芯がプラスティック製であるため、ペン芯側を自在に変形させるわけにはいかない。従ってペン先側をいじる量が相対的に多くなるのじゃ。

2006-08-31 02 左はインクが入ったままの画像。インクはペン先先端まで潤沢に供給されている。特別どこかに引っ掛るわけでもない。筆記角度も依頼者にマッチしている。

 強いて言えば【どこにでも点で接するような調整】になっている。どこにもスイートスポットが無い。悪いわけではないが、面白くも無い書き味。単なる筆記具と割り切れば優秀な書き味なわけだが、悦楽を供給してくれる小道具と考えると不満はある。依頼者の目的はそんなところじゃろう。

 元々No.146はNo.149よりも重心が後ろにある。純銀の上に金を鍍金したNo.1465に至っては、重心位置が後ろ過ぎてキャップを後ろに挿して使うのは困難じゃ。そもそも後ろに挿すとキャップが不安定になる。No.146系の限定品の多くはキャップを後ろに挿すことを念頭にいれない設計になっている。

2006-08-31 03 プラスティック製ペン芯になってから、ペン先とペン芯の位置は固定されるようになった。ペン先の根元の三角形の部分がペン芯の三角形のニブ止めときっちり合わさって固定されるような設計じゃ。2つ下の画像を参考にされたし。

 プラスティック製ペン芯の場合、インクを拭く作業を繰り返しているとペン芯のフィンが斜めに寝てしまう事があるが、この個体ではそういう現象は一切発生していない。

2006-08-31 04 横から見てもフィンは一切寝ていない。ほとんど使っていなかった万年筆のようじゃ。

 イリジウム先端は非常に綺麗に丸められている。最近のMontblancのイリジウムは出荷時点からこれほど良く調整されているのかな?それとも誰かによって調整されたのかな?

 ただ多少調整戻りが発生してイリジウムに左右段差が発生していた。この段差を直すにはペン先を外してからやった方が良い。No.146のペン芯はプラスティック製なので前から引っぱるとペン芯のフィンが曲がってしまう。従って後ろからたたき出した方が良い。

2006-08-31 05 ペン芯はプラスティック製で、根元が多少細くなっている。実はこの根元が細いペン芯になってから、若干インクフローが悪化したように思われる。

 ペン先の首軸内の部分には有名な【コストカット穴】が2個空いている。ほんの少しのように思えるがチリも積もれば山!メーカーはこのような細かいコスト削減を続けて利益を出しているのじゃ。

 不必要なほど長いペン先根元部分を首軸内に入れているのがMontblancの特長じゃ。コストカット穴が無いかわりに首軸内部にチビっとしか入ってないメーカーもある。ペン先の安定度を考えたらMontblancに軍配が上がる。Pelikanもかなり長い!

 ペン先のスリットはそれほどガチガチに詰まっているわけではない。少し筆圧をかければペン先がわずかに開く。ただ今回の依頼者は筆圧が強く、かつインクがドバドバと出るのが好きじゃ。ペン先のスリットが詰まっている状態で筆圧をかけたりすると【サツマイモ】のような線になる。筆圧がかからない部分は細く、かかる部分はドバっとインクが出る。従ってインク濃淡と字幅の極端な差が表出し、綺麗なお手紙にはならないらしい。【拙者はお手紙を書かないのでわからんがな】


2006-08-31 06 そこで昨日の調整と同じく、まずはペン先のスリット間隔を拡げた。18金製のニブは力を入れるとすぐに曲がってくれるので調整する側にとってはやりやすい。しかし強い筆圧で書いているとすぐにペン先が変形してしまうという弱点もある。18金ペン先は定期的な調整を前提とした物なのかもしれない。

 上の画像の状態では毛細管現象が働かないのでインクはイリジウム先端までは運ばれない。

2006-08-31 07 そこで昨日と同じく、ツボ押し棒でペン先のハート穴からイリジウムまでの部分をしごいて、先端をやや下に曲げる。こうすれば腹開きのイリジウム状態になり、かつ毛細管現象も効くようになる。

 注意すべきは、エボナイト製ペン芯なら出来た【首軸に差し込んでからのお湯による微調整】が出来ないので、ペン先だけで高筆圧に耐える状態を作り出さねばならない事! 首軸に挿しこむまでが勝負になる。何度もペン芯の上に乗せてペン先のズレを確認しながら微調整を行うのじゃ。

2006-08-31 08 微調整が終了したら首軸に差し込んで、ペン先イリジウムの調整にはいる。元々書き味は良いのじゃがスイートスポットが無かったので単調な書き味になっていた。そこでキャップを外して万年筆を立てて書く前提でスイートスポットを2つ作っておいた。

 一つは、首軸のネジより前を持って書く場合の表書き。もう一つは裏書き状態じゃ。表書きはドバドバのMからB程度の字幅、裏書はスタブで横細縦太の文字が書けるように調整した。

2006-08-31 09 元々書き味も、インクフローも良かったので、出来る事はスイートスポットを作ることぐらいじゃた。

 実は大掛かりな調整や改造では、その変化に目を奪われて本来の書き味比較がおろそかになる人が多い。調整師にとっては(ある意味)楽な仕事じゃ。ところが、今回のような、元々書き味が良い万年筆を渡されるとどう直すか悩んでしまう。特にMクラスは難しい。

 しかし、仕上りを自分で確かめた段階では、不安は自信に変わった!

 今回も 大成功 のはずじゃ!


これまでの調整記事

2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
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万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
らすとるむしゃん

MontblancのMは太字から研ぎだしたような形状なので、裏スタブが可能なのじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月01日 06:05
昨日のエボペン芯に続いて本日はプラペン芯に対する調整方法ですね。
今日も随所に師匠ならではのノウハウや巧みな技を拝見できて大変ためになりました。一番興味深ったのは・・・裏書でスタブでした。普通は裏書状態では細字が限度かと思っていました。
Posted by らすとるむ at 2006年08月31日 10:35