2006年09月09日

土曜日の調整報告 【 Montblanc No.252 】

2006-09-09 01 今回の依頼品は【Montblanc No.252】の後期(1957年以降)モデルじゃ。ペン芯は厚く、そう簡単には変形しないところが良い。弱点は前期モデル同様、キャップにクラックが入りやすい事。この依頼品にもクラックが数本入っている。実際の筆記にも、インク漏れにも関係無いので実用に供する場合にはまったく心配はない。

2006-09-09 02 ニブはBBで、尻軸にもBBの刻印がある。左の画像のようにペン先がぴょこんと前に出ている。この状態ではNo.25Xモデルの豊富なインクフローは体験できない。何故か最近、ペン先を前にずらした状態の物が多いが、No.25Xに関しては可能な限り軸に突っ込んだほうが良い【本来の姿に近づく】。

 依頼品はペン先のスリットも十分に確保されている。ただペン先が上下に段差がある。しかもペン先がカモメの飛ぶ姿のようにスリットのところが他の部分よりも窪んでいる。これは力ずくでスリットを開こうとしてスリット部分を親指の爪で押さえ、外側に広げるようにした為じゃ。光を当てないとわからないが、気付くと気になってしかたないほど不細工じゃ。

2006-09-09 03 もう一つの不具合点はペン先とペン芯との間に広い隙間が出来ていること。これではインク切れの危険がある。ペン芯とペン先の最も良い関係は【密着しているように見えるが、ほんの少しだけ隙間がある状態】じゃ。左の画像では離れすぎといえる。

 ちなみの今回の依頼品はペン先を分解すると、ペン先自体には段差はない。ということはペン芯のよじれが段差を作っていることになる。このよじれ残したままペン先の曲げでイリジウム部分の帳尻を合わせようとすると、少しでもペン先がずれると、イリジウムの段差も再度発生してしまう。ここではペン芯のよじれを戻す必要があるのじゃ。

2006-09-09 04 左の画像は特別な器具を使わず、ゴム板一枚で分解出来るところまで分解したもの。要するにゴム板一枚で完璧に内部清掃が出来る。すばらしい設計思想じゃ。

 特にピストンの弁をピストンに固定するネジなど、すばらしい出来。何故これがその後のモデルに伝承されなかったのだろうか? やはりコストがかかりすぎたのじゃろうな。

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 ペン先表の根元には【252】という刻印がある。また裏の根元には【474】か【414】あるいは【4 - 特殊暗号 - 4】という刻印がある。この裏側番号の意味を知りたいなぁ。

 以上のような現状の【見える化】が終了すれば、対策は簡単じゃ。ただし今回の調整には【取り返しが付かなくなる可能性のある危険な工程】が含まれているので、ネットでの公開は避ける。

2006-09-09 07 左の画像が調整終了したものじゃ。下のペン先拡大図とあわせて眺めて欲しい。

 まずはペン先はかなり首軸に押し込まれている。この状態でこそ本来のインクフローが得られる。

2006-09-09 08 表面は金磨き布で溶けるほど磨いてある。金磨き布と呼ばれるだけの事はあり、時間をかければビカビカに輝くペン先となる。左はまだ志半ばの状態じゃな。

 調整の終わったNo.252をインク壜に浸し、ペン先を拭いてから紙に乗せてみる。ホウヮっとした感覚で紙にあたる。まるでウォーターベッドの上で跳ねようとしている感覚。上下左右に引きずってみると見事な線の強弱を持って追随してくる。

 拙者が書き味の良い万年筆に執着しない性格で良かった・・・もし執着するほうだったら、今回のNo.252だけは依頼者に返さないじゃろう。


これまでの調整記事

2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】



Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
【危険な工程】は肉眼で見ていただかないとな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月11日 20:20
調整記事、私も大好きです。
真似をしてみるつもりは(恐ろしくて)毛頭ないので、
師匠の記事で疑似体験していつも楽しんでます。
真似するつもりのない身としては【危険な工程】も知りたいけど、
大変なことになりそうですね…。
Posted by ぽん太郎 at 2006年09月11日 11:46
めだかしゃん

時間の問題ですな!
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月10日 09:52
252のサイズと書き味は何とも言えませんね。
私も、久しぶりにインクを入れてみます。
今回の調整も“なるほど!”の連続でした。
素晴らしい!
分解画像を見て、ウズウズしてきました。
でも、怖いからやらないけど…。
Posted by めだか at 2006年09月10日 01:16