調整報告シリーズでは本日のNo.742-Nを含めて8回連続でMontblanc! WAGNERというくらいだから元々はPelikan万年筆のファンの集まりが発展してきたものだが、最近はMontblanc教に改宗した信者が多いようじゃ。
今回の依頼品はMontblanc No.742-N。1957年から1959年の間に作られたウィングニブのモデル。ちなみに1951年から1956年まで作られたNo.742はオープンニブじゃ。蛇足ながらNo.742はNo.642という黒軸+金属キャップのモデルをベースに金貼りに変えた上級モデルではない。No.642は1952年の登場。すなわちNo.742の安価版がNo.642ということになる。No.742が先の登場!こういうケースは珍しいかもしれない。 依頼品を見ると、首軸から飛び出したニブが醜い!もう少しペン先を軸内に押し込んだほうがウィングニブ本来のインクフローと書き味を堪能出来る。ただし販売されていたころは、首軸への装着位置には頓着が無かったようじゃ。従ってどの位置が正しいということはない。あくまでも拙者の趣味じゃ。
ただし拙者に依頼を持ち込まれた場合には、拙者の趣味に合わせる事を前提にしていただいておる。書き味は依頼者の希望にに合わせるが、形状は拙者の趣味に合わせる。でないと気持ち良く調整など出来ないからな。 ペン芯は後期型の厚いモデル。ペン先の年代と完璧に一致している。ペン先とペン芯との間の隙間も無く、良い位置関係じゃ。
首軸の根元を見ると、もう少しペン先とペン芯を首軸に突っ込むことを前提にして設計されている事がわかる。段差が外に出ていると、その部分が弱くなるので、引っ掛けたり落としたりした時に、思わぬ被害を受けることがある。 これが胴体部分の完全分解図じゃ。ピストンの弁がシリコン樹脂になっている。少なくともNo.742の時代にはコルク製の弁じゃった。弁をピストンに止める部分のネジの形状がNo.742時代とは違う。当時のは単なる薄い輪だったが、No.742-Nでは輪の前に突き出した部分がある。ここが弁の内部を経由してピストンにねじ込まれるわけじゃ。
個人的にはコルク製の弁の方が【頻繁に交換していれば】漏れの確率が低いので好きじゃ。シリコン樹脂製は収縮性が弱いのでインクが樹脂の隙間から尻軸側に回り込むトラブルが多い。それにしても尻軸の美しさはすばらしい! これは調整前のペン先じゃ。デザインにもフォルムにも破綻は無い。唯一の弱点はペン先のスリットが先端部分で閉じている事。これでは筆圧を掛けないとインクが出てこない。前にも書いたが、ウィングニブのスリットを拡げるのは大変。簡単にニブを外側に曲げて〜!なんてやると、スリットのところで窪んでしまい誠に美しくない。ウィングニブの場合には外側に曲げないでスリット感覚を拡げる技が必要じゃ。
こちらが調整の終了した画像じゃ。一番上の画像と比べると、どの程度ニブを首軸に差し込んだかがわかるじゃろう。拙者にはこの状態が最も美しいと思えてしまう。最も書き味の良い状態が最も美しくあるべきと信じている。
ごらんのようにペン先のスリットは拡大したが、スリット部分にゆがみは無い。今回は隙間ゲージと1200番の耐水ペーパーでスリットを拡げた。この際の微妙な手加減を表現することは出来ない。指先の微妙な感覚と頻繁なルーペでの確認の結果出来上がるものじゃ。曲がったペン先をまっすぐに伸ばすのは一瞬で出来ることもあるが、ウィングニブのスリットを開く作業が30分以内で終了することはめったにない。簡単そうで難しい作業の代表じゃな。
調整の終わった万年筆で書いてみる・・・ウィングニブらしい【ペコペコ】した弾力と、紙と擦れるわずかな摩擦音の確認。この摩擦音が無いとOMのウィングニブの面白さは出ない。
耳を澄まして聞く・・・・・・・良い! らしい万年筆になった!
これまでの調整記事
2006-09-09 Montblanc No.252
2006-09-07 Montblanc No.22 緑
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化
2006-08-30 Montblanc No.149 開高健モデル
2006-08-26 Montblanc No.644 グレイ縞
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway
2006-08-10 Montblanc No.256 KOB
2006-08-05 Conway Stewart Floral
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック
万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】