2006年09月16日

土曜日の調整報告 【 Sheaffer Crest 黒 & 赤 】

2006-09-16 01 今回の調整報告は2本。どちらも同じ人からの依頼じゃ。左の黒軸は既に調整が終わったもの。多少引っ掛かりがあったのと、タッチが硬かったので、イリジウムの研磨と多少の鳩胸化を図った。

2006-09-16 02 鳩胸化とは、お辞儀させる行為の反対で、ペン先を上に反らせる事。Vintageのスノーケルなどは鳩胸になっているが、Crestのこの時代のものは真直ぐなため、書き味も平凡。Sheafferらしさを出す為、鳩胸化した。

 やり方は簡単で、ペン先の上からツボ押し棒の横でしごくだけ。ただし、鳩胸化すると、背開きになりがちなので、鳩胸化と背開き状態をルーペで十分に確認してからの作業となる。

 一端鳩胸化しすぎて背開きになった状態を治そうとすると、ペン先が波打ってしまう。乾坤一擲全神経を集中して一発で決めるのじゃ!

2006-09-16 03 さて今回の赤軸が拙者にとって史上最大の修理だったかもしれない。まず首軸をねじ込む部分が胴体から外れている!なんと胴軸とは接着剤で止めてあるだけ。ずいぶんとコストダウンを図っている・・・今どきの中華万年筆でもこんなのは少ないじゃろう。過去日本市場でパーカーと人気を二分した当時の出来の良さはあとかたもない。

 ただしペン先の出来はすばらしい。極細、極太では世界最高水準じゃ。もちろん現行のメジャーメーカーのほとんどより良いペン先。Sheafferは元々イリジウムを自社生産していた数少ないメーカー(3社)のうちの一社だとか。そのせいか、ペン先作りだけには手抜きが無い。

2006-09-16 04

 ところが、今回の依頼品では、その自慢のペン先が無残にも曲がっている。足を組んだ姿のように徹底的に曲がっている。自分ではここまで曲げたことはないし、見たことも無い。ワクワクドキドキ!という気持ちを抑えられないほど舞い上がってしまった。

 Sheafferのペン先の素材の柔らかさから考えて、元の状態には戻せるとの確信はあった。ただし、ここまで曲がっていると、縦横双方に波打ち現象が現れる。それをペーパーで除去すると、プラチナ鍍金が剥がれるので・・・・なんて構想を立てている時間が一番楽しいものじゃ!

2006-09-16 05 左は曲がっている状態を横から見たもの。単に曲がっているだけではなく、段差も出来ている。しかもペン先は鳩胸状態ではなく、お辞儀に近いなっている。これではSheaffer本来の書き味にならない。ペン先のスリットの状態を確認してみたが、鳩胸化すると背開きになるギリギリの状態であることがわかった。そこで鳩胸化ではなく、ペン先最先端のお辞儀状態をフラットに戻す状態を目標とした。

2006-09-16 06 左は修理が終わってインクを入れた状態じゃ。ペン先の素材が柔いので、曲がっている状態を伸ばすのは比較的簡単。美的仕上げにするために、スリット内部やニブの研磨と、ペン先横の研磨。研磨にともなうプラチナ鍍金の除去などを同時に実施した。

2006-09-16 07 完成したペン先を横から眺めたものじゃ。これが曲がっていたとは思えないであろう。

 今回は、首軸を胴体にねじ込む部分を胴軸に接着する際に位置を変更した。Crestのキャップは180度程度回すと外れる。そこで、取り付け部分を浅くし、キャップを捻るネジの部分を極力広く確保するようにした。これによってキャップがキッチリと止まり、事故も激減するはずじゃ。

 曲がったペン先の調整というのは、達成感が凄い! 読者諸君もすさまじい状態のペン先があれば、ぜひ見せてくだされ! 修理工程とともに、このBlogで紹介しよう。


これまでの調整記事

2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  
2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(11) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Blog紹介 
この記事へのコメント
Dumas_1802しゃん

さすがに色ではわからないが、ルーペで拡大すれば、粒子の細かさと素の量で判断できる。

ちなみにイリジウムの組成が悪い方が書き味が良い場合もあるがな。
あくまでもペン先の金の組成とイリジウムのバランスじゃな。単体で評価しても意味は無い。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月17日 07:46
二右衛門半しゃん

ニブの修理であればいかようにでも!
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月17日 07:44
ところでイリジウムの良し悪しというのはどこで見分けるのでしょうか。
昔、ある方に教えて頂いた時には、光を当ててみてその輝き方から判断するという.....シロウトにはとうてい無理な答えでした。
青白く輝くのが良いとか。
Posted by Dumas_1802 at 2006年09月17日 00:09
こんばんは

>nibs.com などの修理例を見て、いくらなんでもそんなの直るわけ
>が無い!

わたしもあそこの画像を見て「ハッタリ」だろうと思っていましたが、修理できるのですね、驚きました。
一昔前なら、生け贄が10本ばかりありました。
Posted by Dumas_1802 at 2006年09月17日 00:05
こんばんは

生け贄にしても良さそうなものが何本か手元に転がっていますが、せめて一度お会いしてから、とか、なんとか思ってしまいます。
書き癖などもありますし・・・。

修理に出しても受け付けてくれなかったようなものですが・・・。
Posted by 二右衛門半 at 2006年09月16日 22:31
らすとるむしゃん

ありがとしゃん。ちなみに仕上り時には鍍金は剥がしていますぞ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月16日 21:30
師匠。
恐れ入りました。
特に赤軸の修理は圧巻ですね!。
修理前の状態を知っておりますゆえ・・・修理後の完璧さは素晴らしいです。
画像で見るよりはるかに複雑に曲がっておりました。信じられない!!。
あの部分にはプラチナ鍍金がされていますし・・・土下座するしか・・・・。
絶句!!。
Posted by らすとるむ at 2006年09月16日 17:15
OMAちゃん


紙にあたる部分はやや平べったくなっておるのじゃよ。そこが秘密じゃ!
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月16日 16:39
本当に針のようですね。かつ滑らかだとは・・・
こんな万年筆私もほしいです。
最近やけにSHEAFFERが増えてきたなと思ったら
師匠とみーにゃさんのブログのせいでした。
Posted by OMAちゃん at 2006年09月16日 16:32
みーにゃしゃん

拙者も昔は、nibs.com などの修理例を見て、いくらなんでもそんなの直るわけが無い!と思うような画像も見てきた。

が、やってみると案外直せるものじゃな。

あとは生贄の数しだい。

皆さん 生贄を発見したら、メールくだされ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月16日 10:58
超愛用のペンのペン先をこんなにねじってしまって、恥ずかしいかぎり。。
おばか丸出しですが、「ねじ」が外れてるとは思いもつきませんでした。。
あの時のキャップを締めた時の「ぐにゃっ」といういやな手ごたえ。忘れられません。。

お渡しした時は、ここまでひどい状態なら、もう直らないと半分諦めていましたが、出来上がった状態を見てびっくりしました。
ねじれの跡形もなく、新品同様に♪
本当に感動しました☆
師匠の凄腕に、あらためて感動!

針のように細いクレスト。蘇ったなめらかな書き味。最高です。
本当にありがとうございました〜!!
Posted by みーにゃ at 2006年09月16日 10:36