万年筆評価の部屋:土曜日の調整報告　【 Montblanc No.254 OBB 】

　今回の依頼はMontblanc No.254のOBBニブ付。症状はインクフローが悪い！というものじゃ。左はそれを治したあとの姿。この状態であれば十分なインクフローは得られる。

　ただし1950年代当時はOBBやBBといったペン先は、カリグラフィーを主たる目的として販売されていたのでペン先が薄い。従って横細縦太の字しか書けない。このようなペン先でドバドバのインクフローを狙うにはインクを厳選するしかない。50年代のBBやOBBでドバドバの書き味を得るには【プラチナ・カーボンインク】が一番！それ以外はお奨めしない。

　この個体はそのような中でも比較的イリジウムが厚めだったので筆記角度をあわせればドバドバに近い書き味を実現できた。

　インクフローを良くするには、内部の完全な洗浄も必要。インクカスが胴軸内に残っているとペン芯を詰まらせインクフローを悪化させる。従って完全分解し、全ての部品を徹底的に洗浄する必要がある。また、水分を拭き取るものにも注意が必要じゃ。これは後述する。

　上の画像と左の画像はピストン機構。このように完全に部品レベルにまで分解できる。ピストン部分を胴体から外す際には、80度くらいのお湯に尻軸先端から4㎝程度を浸け、良くかき回す。そしてピストンを１ミリほど左に緩め、胴軸最後部のギザギザがある部分を厚いゴム板で左にグイっと捻ればピストン機構は外れる。度胸があればお試しあれ。No.25Xシリーズはピストンから後ろにインクが回る事は極めて少ないので首軸側のみ外して、そこから水で洗浄する方法でも95%は大丈夫。あと5％まで追求するなら完全分解じゃ。拙者は常に100%を目指しておる。

　これは調整前のペン先ユニットを分解したものじゃ。通常はペン先ユニットはゴム板で挟んで左に捻ると現行のPelikanやAuroraと同じくユニットごと外れる。

　もとに戻す時にはペン先のスリットの延長上にソケットの切込み部分が来るように装着する。

　ペン芯は完全に左右対称で一切の破綻が無い。ソケットも良くぞここまでエボナイトを削った！と思わせるほど出来が良い。現在同じものを日本で特注したら5000円程度かかるらしい。それでも高くないと思わせるほどの精度じゃ。

　左の画像は調整前ニブを表から見たもの。根元に【254】とモデル番号が刻印されている。似ているようでもNo.644やNo.744用のニブとは番号が違っている。もちろん表面の刻印も違う。それにしても美しいニブじゃ。日本でいえば昭和30年ごろの製品。裸足で通学している子もいた時代に同じ敗戦国の独逸では現在でも作れないようなニブを作っていた・・・この差は何なのじゃろう。

　独逸では【悪いのはナチスであり、普通の独逸人は被害者】というような周辺国の理解があったのかな？

　こちらは裏側の画像。やはり暗号のような数字が刻印されている。【455】というのはロット番号化、製造機械番号化・・・いつまでたっても思いつかない。一度全国に存在するNo.254を全て分解してペン先の裏の番号を調べてみたいものじゃ。ついでにNo.644とかNo.744のペン先の裏もな。何かがわかるかもしれない。

　こちらはスリットを拡げた画像。下は同じ状態をスキャナーの方向を90度ずらしたものじゃ。ペン先だけの画像にはスキャン方向と同じ方向にペン先を向け、ペンに装着した状態ではスキャン方向と直角にしているケースが多いようじゃな。最近はスキャナー画像をカタログや商品撮影に使う店が増えてきた。

　拙者は10年以上前からこの方式を使って万年筆情報を記録しているが、まだまだ極めるところまではいっていない。絶妙な質感を出すにはさらなる経験と勉強が必要。

　左の画像でも光っている位置を変えるとまったく違った印象になる。高級感を出すには極力コントラストを押さえたほうが良いのは最近わかってきた。

　それでは最後にペン先の水分を取る際に機を浸ける事。左の図はペン芯の水分をティッシュペーパーで拭いた場合の拡大図じゃ。ペン芯に紙の繊維がいっぱいくっついているのがわかろう。

　ティッシュペーパーには要注意！胴軸の中にティッシュを突っ込んでインクを拭いている人がいるが、あとで水でよく流しておかないと、内部に溜まった繊維がペン芯に詰まってインクフローを悪くしてしまう。ティッシュよりは綿棒の方がはるかに安全じゃ。ティッシュは仕上げ段階では使わないように！

原稿は終了しましたが撮影は終わらず・・・

25○は6は持っていませんがそれ以外はあります、また確かめてみることにします。

ところで、隙間ゲージがどうのこうのと以前ありましたが、最小単位が0.02mmのものでOKでしょうか？
近所のホームセンターではそれ以下は入手不能、ダメであればハンズまで出張に行かなければなりません。

　同じ敗戦国でもドイツと日本は産業構造・産業組織においてもともと大きな差があり、それがペン先ひとつにしても違いとして現れているのではないかと思います。
　戦前の日本の産業構造は財閥と零細事業者の二極化状態、技術的には職人の高度な名人芸に頼り、このためもあって自前でまともな工作機器もつくれませんでした。
　これに対してドイツは、戦前戦中から産業構造の基盤がしっかりしており、相当な精度の工作機器も自前でつくることができました(それでもアメリカには及ばなかった)。また、制度的にも熟練工を養成する制度が備わっていました。
　同じ敗戦国という共通の土俵に立ったときに、元来あった差がこのようなかたちで出たのではないかと思います。

２５○を超音波洗浄機で洗浄していたら、首軸のリングから先のパーツがぐらぐらになり、簡単にとれてしまいました。でも、そのおかげでビックリ！透明樹脂は、インク窓の部分だけかと思っていたのですが、何と透明樹脂が首の部分まであり、そこにネジが切ってあってペン先ユニットをねじ込むようになっていたのです。黒いパーツはただのカバーなのでした。
あわてて接着してしまい、失敗です！ああ、何で写真を撮っておかなかったんだろう！

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万年筆評価の部屋

2006年09月30日

土曜日の調整報告 【 Montblanc No.254 OBB 】

土曜日の調整報告　【 Montblanc No.254 OBB 】