2006年09月20日

水曜日の調整報告 【 Pelikan 140 赤 】

2006-09-20 01 今回の調整依頼はお手紙でいただいた。このペン先はOMであるが、依頼者にとっては書きにくいので直して欲しいとのこと。拙者が調整した全本数に占める依頼者向けの本数の割合はトップじゃ。従って遠隔地にいても調整出来る。しかもどのように調整して欲しいかを万年筆を変え、色を変えて懇切丁寧に記載されておる。

 依頼者は吸入したインクがピストンの裏側に回った状態が大嫌いじゃ。従ってピストン吸入機構は使わない。ソケット毎ペン先を外し、注射器でインクを胴軸内に入れ、ソケットをねじ込んで使う。従ってソケットは首軸にしっかりとは固定されていない。非常に不安定な状態で使用している。ただ筆圧が低いので特に支障は無いらしい。

2006-09-20 02 改めて依頼品を眺めてみると、ペン先を上から眺めた際、ペン芯がかすかに見えている。これは拙者が最も嫌う状態。調べてみるとペン芯の仕上げが不十分で削りっぱなしのような状態。品質管理の厳しいPelikanにしては珍しい・・・

 まずはペン芯を綺麗に削って見栄えの良いように改造じゃ! また一見してペン先のスリットが詰まりすぎ。かつ段差が出来ている。これでは書く都度に紙を削るような感覚に陥ってしまう。さらにはソケットが多少緩い。これは依頼者に取って重大な障害となる。

 依頼者はインクが無くなる都度、ペン先ユニットを捻ってはずし、インクを注入した後で再びネジ込む。ソケットが緩いと捻る段階でペン先とペン芯の位置関係がずれてしまう。このままでは一回の注入毎に微調整が必要になる。

2006-09-20 03 左の画像のとおり、Pelikan 140のペン芯、ソケットはエボナイト製じゃ。それだけでも作品といえるほど見事で美しい。当時のMontblancのペン芯がオモチャに見えるほど考え抜かれた設計!

 よくMontblancはインク漏れが多いといわれるが、これは軸の設計が悪いだけではなく、ペン芯の設計の問題もある。ペン芯の空気流入量調整機能がヘボだと必要以上に空気を取り込み、結果としてインクがキャップ内に出てしまう。これが軸付近に付着して、あたかも軸からインクが漏れたかのような錯覚をおこさせる事もある。

 少なくともPelikanのペン芯は日本の気候にも十分耐えられるだけの能力を持っている。

2006-09-20 04 こちらが調整中のペン先。既にOMをMに研ぎだしてある。Pelikan 140独特のペン先形状をしてはいるが、書き味が極めて硬い。もうすこし弾力が無いと依頼者の手には合わない。それとMF程度にまで研ぎ上げた方が依頼者の好みに合いそうじゃ。また表面に細かい傷が無数についているので金磨き布で磨いておこう。

2006-09-20 05 ということで出来上がったのが左の画像。表面の輝きが違うのは当然として、スリット両側の斜面の傾きも多少急にしてある。ほんの少しカモノハシ調整を行った結果じゃ。またペン先の裏側のエボ焼けも完全に清掃した。ペン先裏側のエボ焼けはインクフローを著しく落とす場合があるのでな。

2006-09-20 06  ソケットにペン先とペン芯を装着する場合、かなり深く差し込んだ。結果として上から2番目の画像と比較してペン先の露出量が少なくなっている。この状態であれば頻繁にペン先ソケットを捻ってもズレるケースは少ないじゃろう。

 今回のような微調整は大改造と比べて地味だし、書き味の変化もそれほど大きくは無い。しかし拙者の満足感ははるかに大きい。意図したシナリオどおりに書き味が変わっていくのは、奇跡の大成功より面白い。お釈迦様の気分じゃ! 自分用の調整なら奇跡の大成功は嬉しい事ではあるが、他人用の調整で奇跡の大成功を成し遂げるためにはその100倍の生贄が必要じゃからな。


これまでの調整記事

2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤
 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(8) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
実物が出来たら使ってみてから量産化用の仕様を作ります。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月22日 00:57
>圧入式ピストンをはずす器具発注中です。

 これは一点ものですか?量産できるなら、私も欲しいですねぇ。値段によりけりですが。
Posted by monolith6 at 2006年09月22日 00:51
インクが後ろに回りこんでも実害は少ないですからな。

拙者もピストンに色が付くのが嫌い。従って使わない・・・

圧入式ピストンをはずす器具発注中です。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月22日 00:33
みーにゃしゃん

ペン芯削りが必要な人はわりと多いようですな。日本人の中にはかなりペンを寝かせる人も多いから・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月22日 00:30
>依頼者は吸入したインクがピストンの裏側に回った状態が大嫌いじゃ。従ってピストン吸入機構は使わない。

 面白いお考えです。ピストンを動かすことがなければ、ピストンの裏側にインクが回りこむことはない。一理あります。私も同様に、ピストンの裏側にインクが回りこむのが許せません。でも、インクによっては、それでもなおピストンの裏側に回りこむものもありますが、その時は一体どうしたら良いのでしょう。800や1000ならともかく、400や140ではピストンが圧入式となっていて、おいそれとは頻繁にピストン部の分解はできない筈。

 特に縞軸は透けて見えるので、良きにつけ悪きにつけ、それに気づくことができますが、色無地軸はピストンが透けませんから、仮に回り込んでいても分からない。見えなければ良いということですかね。
Posted by monolith6 at 2006年09月21日 01:39
ペン芯も削ることが出来、実際にやって頂いた、とmochidukiさんに聞きましたが、こういうことですね!
私のMonblanc72も張り出たペン芯が紙に接してしまって、困ることもあります!
Posted by みーにゃ at 2006年09月20日 23:55
はみ出して美しくない部分を削り取ったわけです。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月20日 21:43
狙ったとおりに調整ですか!すごいですね。

>まずはペン芯を綺麗に削って見栄えの良いように改造じゃ!

この部分、何されたのでしょう?
ソケットごとはずしてインク入れをするあの方が、気持ちよく使えるようにされたのでしょうね。う゛〜、そこら辺が普通の調整と違うんだよなぁ!
Posted by めだか at 2006年09月20日 09:01