2006年09月27日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.146 丸善120周年記念 】

2006-09-27 01 今回の依頼品は【丸善120周年記念】じゃ。この時にはMontblanc No.146-18K金ペン先モデル(今回の依頼品)、Pelikan M800-20C モデル、カスタム型Pilot製 14K モデルの3種類が発売された。MontblancとPelikanについては、ペン先の金素材を一捻りしてあるのが丸善らしい。

 依頼品は素通しインク窓だが、拙者が購入した2本のうち、1本は現行品と同じストライプのインク窓! 拙者は素通しのほうが好きじゃ。

 今回の調整において頭に入れておく事は、依頼者が極端にペンを寝かせて書く癖があること。Montblanc 60年代の2桁番代モデルをそのまま使用するとペン芯が紙に触ってしまうほど。依頼者は既に1950年代のNo.146を所持しているので、こちらは柔らかさよりもある程度ガッシリとした書き味が良かろう。

2006-09-27 02 非常に珍しい限定品なのだが、不具合はいくつかある。まずは左の画像のようにペン先とペン芯の間に隙間がある。この状態ではたまにインク切れを起こしてしまう。やはり先端は密着しておく必要がある。

 つぎにピストンが異様に硬い。10往復もさせれば全身の筋肉が痙攣するほど。痩せていて非力そうな依頼者には酷な作業かもしれない。

2006-09-27 03 調整前のペン先を上から見た画像じゃ。ペン先のスリットもちょうど良い具合になっており、完璧に見える。ところが書いてみると、ややガリガリする。

 上の横画像で見るとイリジウムの研ぎはややペン先を立てて書くように調整されている。それに対して依頼者はペンを極端に寝かせて筆記する。従ってイリジウムの腹の部分の一部が紙にガリガリとエッジを当てている。

2006-09-27 04 こちらは裏から見た画像じゃ。ペン芯はエボナイト製で上下二段になっている。このペン芯のフィンはすぐに折れるので要注意! 

 前からゴム板で挟んで引っぱるとフィンを折る確率が高い。ここは定石どおり、ピストン機構を外して後ろからペン芯とペン先を前にたたき出す方が安全じゃ。

2006-09-27 05 ピストンが硬いのには驚いたが、なんとかしようとピストン機構のいたるところにグリースが塗られている。が回転機構が硬いのではなく、胴軸の内壁に対してピストンの外形が太すぎるのじゃ。簡単に直すにはピストンのシリコンラバー部分を交換すればよい。趣味の文具箱で紹介したように、No.149とNo.146の内径はまったく同一。No.149用、No.146用のシリコンラバーをいくつか試し、納まりの良いのに交換した。これで驚くほどスムーズに動くようになった。

2006-09-27 06 こちらはペン芯から取り外したばかりのペン先の表。最近のペン先と違って、コストカットの穴は空いていない。超音波洗浄を施しても首軸内部に入っていた部分にはインクがこびりついている。これは金磨きクロスでゴシゴシやればすぐに落せる汚れじゃ。それにしてもずいぶん根元まで首軸の中へ入っているものじゃな。

2006-09-27 07 こちらがペン先の裏側。エボ焼けがニブ裏側を覆っている。このままではインクフローが悪いので、金磨き布を使って綺麗に落す必要がある。

 真ん中あたりを見るとペン芯があたる部分がいっそう濃く焼けている。エボナイト製ペン芯だから起こる状態。見た目には年代を感じさせてくれて良いのじゃが、筆記には向かない。

2006-09-27 08 左が完全に調整が終了したものじゃ。これだけではどこがどう変わったのかはわからないはず。一応は軸はピカピカに磨いたつもりなのだがな・・・

2006-09-27 09 ペン先はやや前に出した。依頼者の筆圧が非常に低いこと、相当寝かせて筆記することから考えて、ペン先を前に出し、ペン芯は逆に奥に引っ込めるような感じで位置決めをした。上から3番目の画像と比較すれば位置関係がわかるじゃろう。

 このMのペン先はNo.146に搭載されたペン先の中では最も出来が良いと思う。調整の幅が大きいので楽しい!

2006-09-27 10  完成品を横から見た画像。筆記角度にあわせてかなり削っている。また、ペン芯を下げて筆記時にペン芯を擦らないように位置調整を施した。

 一見ほんのわずかな調整に見えるが書き味の激変ぶりに歓喜の声が上がるじゃろう。ペン先の先端を絞ってインクフローが悪くなる調整に見える。ところが以前にも増してインクは流れ出る。引っ掛りも解消。この時代のMontblanc No.146らしい書き味の余韻は残しつつも異次元の体験をさせてくれる。

 拙者は1950年代から現在までのあらゆるNo.146を筆記してきたが、平均すればこの時代のNo.146のニブが最も好きじゃ。その中でも飛び切りの一本になった・・・・かもしれない。


これまでの調整記事

2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤
 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(12) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
monolith6しゃん

大きかったピストンは個体差の範疇。正真正銘のNo.146用じゃが、多少大きかったようじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月19日 05:01
 149/146用よりも太い胴軸の内径を持つ万年筆とは、一体何なんでしょう。どうしてそんなピストン・ヘッドがこの固体についていたのか、不思議ですね。
Posted by monolith6 at 2006年10月18日 23:49
丸善は本当の万年筆好きが社内にいたようですな。今もいるのかな?
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月29日 21:40
師匠、持ち主さんからかしてもらい書きました。
あの字幅では、今まで書いた中で、もっとも書きやすいものです。
おそれいりゃした!
146も、いいなぁ。
あ、ふつうの146じゃなかった!
丸善、おそるべし!
Posted by kugel_149 at 2006年09月29日 17:52
Kings Blue しゃん

コメント欄にテキストでメールアドレス残すと、チェーンメール対象になるので消しておいた。拙者のメアドはposted by を押せば出てくるのでそこまで送られよ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月28日 00:39
 なるほど!
ピストンの一番上を広げれば一時対処的な修理になると思います。
感謝いたします。ネット上では出来ない相談事もありますので、
是非、メールアドレスを教えてください。

わたしのアドレスは

 xxxxxxxxxxxxxxx となります。

よろしくお願いいたします。
Posted by Kings Blue at 2006年09月28日 00:28
Kings Blue しゃん

修理は【料理の鉄人】の創作料理のようなもので、現物を見ないとなんとも言えん。
No.146のピストンで一番下ではなく、一番上が広がっているピストンがあったので、それと交換できればいいのではないかな?

URLにLinkを貼ったものじゃ。いわゆる現行品のNo.146用ピストンと同じではと思う。

修理に出すと軸毎交換されてしまうので、秘策が必要!ネットでは公開出来ないがな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月27日 23:31
5
pelikan_1931様

お久しぶりです。
70年代の146でインクビューの内側に段差がありピストンを一番下の
位置に下ろすとインクが尻軸側へ逆流してしまいます。

何とか、修理する方法はありませんでしょうか?

ロット不良とのことですが、同じ軸がなかなか手に入らないので、困っています。
Posted by Kings Blue at 2006年09月27日 22:43
ペン芯をそうじするとインクフローが良くなるのは、空気の通り道が広くなった場合が多い。
特に1950年代、およびそれ以前のペン芯はペン芯にインクをHoldする力がほとんど無いので空気穴が広がればドクドク出てしまう。
スリット幅を縮めただけでは難しいかも・・・
拙者はドクドク出す調整は得意ですが、逆はあまりやったことありませんな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月27日 20:46
紅しゃん

寝かせて書く人は筆圧も低いので、なかなかイリジウムが磨耗せず、手になじまない。やはり調整した方がいいですぞ。生贄募集中!
Posted by pelikan_1931 at 2006年09月27日 20:40
ペン先を10度強削って居るように見えますね。

私は昨日134のペン先とペン芯を掃除して組み直したら、
線幅はそのままで、予想以上のヌラヌラに成ってしまい、
書いた文字がすぐに乾かず、手帳用に使えなくなってしまいました。
切り割りを寄せて、インクをもっと絞らないとあきません。
指が太いので小さいニブを弄るのは苦手です。(冷や汗)
Posted by ぴよぴよ at 2006年09月27日 12:15
pelikan_1931さま、初めまして。 紅(くれない)と申します。

146、15年愛用しておりますが、私も筆記角度が寝かせ気味の人間なので
こういった調整方法があるのかー!と目からウロコです。
寝かせ気味が悪いという見方の方にしか出会えなかったので。
(実際、デュポン等の 細身ボディでのあのボールペン芯では筆記不可能ですが)

知識も所有量もまったくなっておりませんが、万年筆大好きなので、
またちょこちょこ拝見させていただきますね。
Posted by 紅 at 2006年09月27日 08:46