今回の依頼品は、既に廃盤となったOMAS パラゴンのBBニブ付。日本でのBBニブの販売はほんの短期間だったので、いまとなっては貴重じゃ。この個体はMint状態で、外観にはまったく破綻が無い。完璧なボディ!依頼者によれば、たまにインク切れやインクスキップが発生するとのこと。また、イリジウムの角度と依頼者の筆記角度に若干のズレがあり、線幅が細くなっている。まずはそのあたりを調整の目処とした。
左が依頼された時点でのニブの状態。なんか寸詰まりの感じがする。パラゴンにおける最も美しいニブの上体は【18K】という文字の80%くらいが上から見て見える状態じゃ。この部分も改善しておこう。依頼者は常に完璧な状態を求める方なのでな。
当初の段階でインク吸入量を電子秤で計測すると1.5ccであった。吸入式としては多いほうだが、パラゴンの実力はこんなものではない。最高に入れれば1.8cc吸入出来る。実は2.0ccまで吸入出来るが、そうすると尻軸がキュっと締まった状態にならない。締まり心地を完璧にするなら1.8ccが限度。そこで、1.8ccまで吸入するようにピストンの位置を微調整した。
この作業は試行錯誤だが、OMASは非常にやりやすく出来ている。Montblancなどでは閉口する作業がいとも簡単に【試行錯誤】出来る。それにしてもちょうど1.8ccの吸入量にセットするまで30分ほど必要だった。 こちらがニブとペン芯。オマスのペン芯は一部を除き、エボナイト製じゃ。非常に精度良く加工されている。
ペン先の形状も美しく、惚れ惚れするが弱点もある。まず18金製になってから素材に粘りが無くなった。14金製のころの素材は弾力があり、多少力を入れてもなかなか意図どおりの形状に曲げられなくて苦労した。最近のものは素材が柔く、手で力を入れればその形に直ちに変形できる。ということは調整が狂う事態も多発する。どこかに引っ掛ければたちまち調整が狂ってしまう。現行のOMASを使いこなす為には、ある程度ペン先をいじる訓練が必要じゃ。でなければ器用な友人を持つこと! 依頼品のペン芯の先端には傷がつけてある。依頼主がつけたのかメーカーがつけたのかわからないが、これはインク保持能力を上げる【おまじない】じゃ。拙者は最近効果に疑問を感じているので、よほどの事が無い限りやらない。しかし拡大してみると、エボナイト製ペン芯は綺麗!スリットに加工時のクズのようなものが残っているのがご愛嬌じゃな。こちらはティッシュのカスほどには悪影響は無いので放置しておいても問題あるまい。
最後に依頼人の筆記角度【かなり立てて書く】にあわせて、No.320→No.1200→No.2000→No.5000の耐水ペーパーで成形したあと。金磨き布でバフかけ。そのあとでペン芯とペン先をベンジンで洗浄。さらにペン先は鍍金セットで脱脂をする。これはペン先やペン芯に残っている油分を落すため。
最後にNo.5000の耐水ペーパーでイリジウム表面に微細な傷を付ける。これによって筆記開始時のインクのスキップ現象を削減するのじゃ。そしておまじないとして、セーラーのインク誘導液に浸して出来上がり。
拙者が行うペンクリ調整と、自宅調整の差はベンジン洗浄以降にある。この部分でインクフローがかなり改善される場合もある。また自宅調整の場合は【調整もどりの微調整】も可能。
よくペンクリだと数分で調整が終わるのに、専門店に調整に出すと何週間もかかるという意見があるが、作業そのものの丁寧さと、調整戻りの確認を何度もするからじゃろう。その差は1〜2ヵ月後になればわかる。金ペン先の調整は高いところからボールを落すようなもの。大きな調整をすれば反動もある。それが出たら微調整し、また出たら微調整し・・・減衰するまでそれを繰り返すわけじゃ。そうなったら手放せなくなるじゃろう。
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万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
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万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
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万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】