2006年10月06日

解説【萬年筆と科學】 その2

ウォーターマンへの尊敬と対抗心にあふれた【第ニ章】

 第二章からは拙者の興味を引くような工作上の説明が随所にあるので、それを引用しながら意見を述べてみたい。

 イリジウムに切り割を入れる工程が描かれていたので現代語に直して引用すると・・・

【あの鋼よりも硬いイリジウムを切り割るのに銅の鋸を用いることは興味に値する。柔良く剛を制すとは人情の機微を道破した言葉であるばかりでなく、機械工学上の一つのパラドックスとしてもまた興味あることです】

 講釈師のような語り口はかなり大げさだが、当時はこれくらいの方が受けたのかもしれない。1行であっさり書ける事を3倍に膨らますにはどうすればよいのか良くわかる。実は拙者も頻繁に使っている手じゃ。この面では引き分けかな。

 次は非常に重要な記述じゃ。

【イリジウムを切割ると、これを細字、中字、又は太字に研ぎ出しますが・・・】これは細字は初めから小さいイリジウムをつけるのではなく、大きな玉から研ぎ出すことを意味しているのかもしれない。あるいは、小さなイリジウムを付けたものを研ぎ出すという意味かもしれない。これを解明するヒントが、すぐ後の文章に出てくる。

【世界一を誇るウォーターマン万年筆工場で、イリジウムの研ぎ出しを行う生産性は、30歳〜40歳の男盛りの職人が一人で一日に100本前後。パイロットでは20歳前後の若者が250本を研ぎ出す


 いくら機械で研いだとしても大玉から細字を研ぎだすのには時間がかかる。労働時間10時間として600分。一本分のペン先の研ぎ出しが2分半で終わるわけが無い。これは細字には小さなイリジウムを溶接し、切割りを入れたあと、チャーチャーと成形しただけ。ウォーターマンくらい時間をかけて成形しないとロクな玉は出来なかったじゃろう。生産性だけで優秀性を語ろうとしたところに渡部氏の大きな考え違いがあったのではないかな。

 エボナイトを削るとすぐに刃物が切れなくなるというのは、多くの職人さんから聞いたが、なぜそうなのかがこの本に記載されている。勉強になった!

【エボナイトその物がゴムと硫黄の化合物である為、加工中刃物は旋削熱により、その刃先に硫化作用を受け、たちまち切れ味が鈍ってきます】とさ・・・

万年筆発明されたのは1830年。今から96年の昔であります。】という表現がある。当時の定義では、スタイログラフィックペンも万年筆だったのだろう。



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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 情報提供 
この記事へのコメント
京都和文化研究所しゃん

たしかに昔は誇大広告への規制手段も無いし、なにが正しいのかの情報もありませんでしたからな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月07日 04:50
二右衛門半しゃん

硬いだけなら、Pilotも硬かったので、元々のイリジウムの大きさで生産性が違ったのでしょうな。Watermanは玉が大きかったのでは?
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月07日 04:48
5
ウォーターマンの イリジューム!! 当時の方達が 一番優れていると 古い文献で 拝見してます。 実際に今に残る 萬年筆を使用すると 同じ年代では ONOTO(書き味は違いますが)と 同レベル 但しビジネスに使用の場合はW社製品の方が 私の手には ぴったり ONOTOは 手紙等 時間にゆとりがある時の使用は 私には 具合が良く 今回の 内容興味深く拝見しました。 
PS個人的に・・・・。  
万年筆と科学 を購読しますと どうしても P社と 他社比較が 随所に出て来ますが 少し 過大評価的部分が 多く 私はその部分は 跳ばして(目では見てますが 頭には残さない) P社の広報誌の為しょうがないですが・・・・・・・。
Posted by 京都和文化研究所 at 2006年10月06日 12:05
おぉー、きましたねぇ!

ウォーターマンの玉は確かに硬いですが生産性がそれほど違うとは。
勉強になります。
Posted by 二右衛門半 at 2006年10月06日 06:59