拙者は元々極太ニブが好きじゃ。ただ、極太ニブ中心に使ってみると各社特徴がある。何度か書き記したように、MontblancのBB以上は平べったい。Pelikanやプラチナは分厚い。Pilotは丸い(コース)、セーラーは長い(長刀)・・・・
分厚いのを筆記角度にあわせて研磨し、さらに広い接紙面積を稼いで、単位面積当たりの筆圧を下げ、スラスラと滑るような書き味を楽しむのが好き・・・だった。最近では滑りすぎるペン先は気色悪い。多少摩擦音を出しながら筆記し、止めたいところでシュパっと止まる書き味が好きで、自分用はそういう調整にしている。
筆記音を出すにはイリジウムの紙に当たる部分を、粗いペーパーでサラっと舐めるのだが、どの位置を何番で舐めるか・・・によって筆記音の出方や筆記感覚が変わってくる。最近はこの調整に夢中。でも他人用の調整には使わない。理由は・・・筆記角度だけ合わせれば良いというものではなく、気持ち良さの微妙な感覚まで共有しないと調整出来ないからじゃ。その為には100万円分くらいの万年筆を潰さねばならない。調整料100万円。しかも筆記感は良くなるが、書き味は劣化する。こんな贅沢は自分でしか経験できない!今から30年前、ポルシェのエンジンをワーゲンに載せて楽しんでいた友人がいたが、それより意味の無い楽しみ方! どうじゃ、うらやましいじゃろぅ・・・・? 実用的に筆記するならMontblancもPelikanもBが限度。少なくとも原稿用紙を埋めるならその程度。ヌラヌラ間と、筆記角度の自由度がうまく調和していて、未調整でもある程度心地よく書ける。ただし中古品の場合は、必ず分解してからチェックした方が良い。ペン芯の位置、インク吸入量の調整、ペン先のスリット間隔調整・・・など確認すべき事項は多い。特に最近拙者が力を入れているのが【ペン先裏のエボ焼けの除去】じゃ。
今回の依頼品は1970年代後半の開高健モデルに上下二段分割のペン芯がついている。70年代から80年代モデルへの移行期のものだろう。
この個体はペン芯がずいぶん前に出ている。実用上はペン芯は前に出るほどインク切れが少なくなると信じられている。事実、太古の昔からペン先調整をして売っている方々のお店で買うと、出荷時よりイリジウムとペン芯先端の距離を縮める調整を施している。拙者はこの状態が嫌い。上から見て、ペン芯がチラっとでも見えるとイヤじゃ。従ってペン芯が見えない位置にペンを向けて書いている。この状態で筆記している時、ペン芯がイリジウムに近づいていると、筆記角度の自由度が極めて小さくなってしまう。そこでペン芯を下げる加工をする。これは委託品に関しても同一。そしてペン芯とイリジウムの距離を離したからといって、筆記途中にインキが途切れるほど筆圧が強い人はそういない。 未調整のペン先を単体で見てみる。この当時のNo.149のペン先は何度見ても美しい!特にコストカット穴の無い時代の物は格別じゃな。まったく何の問題も無い状態。どうしてこのペン先に対して調整依頼が来たのかが理解出来なかった。インクフローも潤沢、筆記角度も依頼者に合致している。せいぜいおまじないしか出来ないなと思って預かった。
まずペン先裏のエボ焼けを取り除こうとペン先の裏をチェックしたが、左図のようにほとんど焼けていない。ゴシゴシと金磨き布で10回ほど擦ればエボ焼けは完璧に除去出来るが、この程度のエボ焼けはまったく問題が無いのじゃよ。ま、お祓いみたいなものですな。
これを調整前の画像と比較してみて欲しい。左の画像では、スリットがペン先の刻印の山の頂上の辺りまで紙が見えるが、調整前は、その半分ほどしか見えないのが解かるかな?これはペン芯の先端を後退させた為に発生したものじゃ。ペン先も多少首軸に押し込んである。ペン先は押し込んだのに、スリットも後退している・・・・とすれば、ペン芯はそれ以上に首軸に入っている事になる。 左の画像ではフィンは14枚しか見えないが、調整前の画像では16枚+1枚相当分見えている。そうフィン3枚分押し込んでいるのじゃ。実は開高健モデルはペン先金の厚みが薄い。従って他の時代のものよりもしっかりと固定しないと左右にずれてしまう。そこでペン芯を出来るだけ根元まで押し込みつつ、ペン先が首軸から出ているバランスを考えた調整が必要となる。拙者はこれをペン芯を押し込んでペン先を固定するという手段で実現した。この方法であれば筆記時にペン芯が見えるという不愉快も経験しなくてすむ。
70年代開高健モデルの調整方法は【これしかな無い!】と信じている。
これまでの調整記事
2006-10-18 Sheaffer Snorkel 青/ 赤
2006-10-14 Senator President B
2006-10-11 プラチナ #3776 セルロイド 極太
2006-10-07 Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04 OMAS パラゴン BB
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB
2006-09-27 Montblanc Np.146 丸善120周年記念
2006-09-23 Montblanc No.149 BBB
2006-09-20 Pelikan 140 赤
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤
2006-09-14 Soennecken Pony
2006-09-13 Montblanc No.742-N
2006-09-09 Montblanc No.252
2006-09-07 Montblanc No.22 緑
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化
2006-08-30 Montblanc No.149 開高健モデル
2006-08-26 Montblanc No.644 グレイ縞
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway
2006-08-10 Montblanc No.256 KOB
2006-08-05 Conway Stewart Floral
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック
万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】