2006年10月11日

水曜日の調整報告 【 プラチナ #3776 セルロイド 極太】

2006-10-11 01 今回は拙者の万年筆のプチ改造じゃ。自分の万年筆の改造・調整に、どのようにこだわっているのかがわかりやすいので、2回ほど自分用万年筆をテーマとしてみた。この万年筆は既にニ度改造してある。購入した際についていたのは中字ニブだったが、#3776ギャザード用の極太ニブに交換し、ペン芯もエボナイト製に交換した。

2006-10-11 02 これが2006年4月20の記事の時点じゃ。それ以降はプラチナ・カーボンインクを入れて使っていたのじゃが、エボナイト製ペン芯とカーボンインクの相性が良くないのか、サラサラと書くというよりはネットリと書く感じになる。重くて長いペンの場合は、ネットリ系の方が気持ちよく書けるのだが、軽い胴体の万年筆にネットリとした書き味だと疲れてしまう。

2006-10-11 03 そこでペン芯をプラスティックにもどした。プラチナ・カーボンはプラスティック製ペン芯で相性をテストしているらしく、こちらは快調なインクフローで粘り気も少ない。これはこれで良かったのだが、この軸にスティピュラのグリーンを入れて書きたくなった。普通ならカーボンインクを抜き、完全分解し、ロットリング洗浄液に浸けた綿棒でペン先や首軸内部、コンバーター内部を清掃すれば終わりなのだが、今回は違う。

 カーボンインクで書き味が良いペン先であっても、他のインクでは書き味が悪いケースはある。実はカーボンインクは書き出しの掠れを防ぐと同時に、紙とイリジウムとの摩擦係数を減らし、ヌルヌルとした書き味を演出してくれる魔法インクなのじゃ。しかし、そればかりも使っておられない。

 【消費税増税から逃げることは無いが、逃げ込む事も無い】とは安倍総理の言葉らしいが、拙者も【カーボンインクから逃げることはしないが、逃げ込むことも無い】
としたい。安易に調整の腕の未熟さをカーボンインクでごまかす事に逃げ込みたくは無い。

2006-10-11 04  カーボンインクで紙当たりが30%ほど良く感じられた部分をカバーする為には、まずインクフロー。スティピュラのグリーンとの相性が良い、エボナイト製ペン芯にもどした。左の画像では右の上がエボナイト製ペン芯で、下がプラスティック製ペン芯じゃ。精巧さは段違いにエボナイト製が上じゃ。

2006-10-11 05 さらに書き出し掠れをなくする為には、ペン先をより鋭角に研ぎ、stand_talkerしゃん曰くの【ピントが合った状態】にする必要がある。紙に当たる部分が筆記時に意識でき、その中で意識の線と実際の筆跡が一致すれば気持ち良いし、掠れる確率も小さくなる。そこで左の画像のように、かものはし調整にペン先を研ぎ上げた。

 柔らかい書き味を狙ったものではなく、ピントを合わせる為の措置。生産性の観点で今回はルーターも使用した。ルーターを使用してペン先の斜面の両側を削るとある不具合が出る。それは土曜日の調整報告でお目にかけよう。当然このペン先にも影響は
あった・・・・・

 筆記角度は以前と変わらないのじゃが、カーボンインクではないので、書き出しで掠れる確率は高まる。従ってより精密な筆記角度、許容角度、紙との相性、表面仕上げのペーパーの番手に気を配り、またどのエッジを何番で磨くかにも変化をつける。

 拙者はやや右に倒して書く癖があるが、その際には右側のエッジ(外側)と、左側のエッジ(内側)の調整のペーパーの番手は変える。筆圧を掛けてから力を抜くように線を引く】人もいれば【触れるか触れないかの筆圧ゼロの状態から線を引き始めて筆圧は変わらずスピードが増し、最後で急停車】という人ともいる。拙者は後者なので、そのように調整するのじゃが、この調整を施した万年筆を、前者の書き方をする人が使うと、書いている途中で線が途切れてしまう。

 調整とは書き味と許容範囲との妥協の産物じゃ。従って他人の調整には、依頼人の筆跡がどれくらい振れるかを把握してから許容範囲を見つける。しかし自分用の調整には許容範囲はほとんどいらない。徹底的に書き味を追求している。

2006-10-11 06 予想通りスティピュラのグリーンとエボナイト製ペン芯の相性はすばらしい!極太で相当早く線を書いてもインクが途切れることは無い。やや【かものはし】状態になったペン先は紙への追従性が上がり書き出しの掠れも筆記中の途切れも無い。異次元の書き味になった!

 異次元の書き味になった・・・ということはこの万年筆とのお別れも近いという事じゃ。不満が持て無くなった万年筆には興味を失ってしまうのも拙者の癖でな・・・ 調整戻りが出るまでは今の書き味を楽しんでおこう。

過去のプラチナ関連記事

2006-04-27   ひと昔前のカタログ 【プラチナ】 
2006-04-21   プラチナ 革巻軸 アマゾネス?  
2006-04-20   プラチナ #3776 石垣 
 
2006-04-19 プラチナ・グラマー用バランサー  
2006-04-18 プラチナのミュージック・ニブ 【その1】  
2005-12-22 プラチナ最高の組み合わせ! 赤リブ+スクリプト 
2005-12-06 プラチナのセルロイド軸 【青】 



これまでの調整記事

2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04   OMAS パラゴン BB 
 
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB  
2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】     



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(20) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
しまみゅーらしゃん

布剥れは宿命ですな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年03月17日 11:27
 DAKSは、100%見た目だけで惚れて買ったんですよ。でも、意外に書き味がよくて
ラッキー、と思ってました(^^)。

 でも、最近、あのチェックの布が剥がれてきててちょっと鬱です。orz
Posted by しまみゅーら at 2007年03月16日 23:37
しまみゅーら しゃん

DAKSの優秀性を見抜くとはさすがじゃな! あれは隠れた名品なのじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年03月15日 21:39
5
>トラックバックは非表示なのですまんの・・・

 いえいえ、こちらのブログを私が紹介したいだけですので、お気になさらないでください。(^^)

 Watermanの100年ペン、記憶にとどめておきます。手に入れられるような機会があれば、
是非。
Posted by しまみゅーら at 2007年03月15日 21:11
しまみゅーら しゃん

トラックバックは非表示なのですまんの・・・

プラチナの魅力は創業者の人となりじゃ。万年筆の達人を読めばよくあらわされている。

#3776に最も影響を与えているのはWatermanの100年ペンじゃ。最近見かけないがチャンスがあれば入手される事をお奨めする。
Posted by pelikan_1931 at 2007年03月15日 19:49
5
 はじめまして。トラックバックを送らせていただいた者です。

 #3776が好きで、特にセルロイドの中字を愛用しております。
セルロイド軸はどれもキレイで好きです。モンブランのレーシンググリーンを
入れてますが、プラスチックペン芯でもなんとかフローはついてきてます。
サラサラしてて、高級な鉛筆のような書き味が気に入っております。

 これからも更新楽しみにしております。(^^)
Posted by しまみゅーら at 2007年03月15日 18:10
二右衛門半しゃん

ひょっとするとひょっとするかも?
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月11日 23:11
勘違いみたいですね、申し訳ありません。

そうそう、生贄の件ですが、まだ考え中です。
Posted by 二右衛門半 at 2006年10月11日 23:09
そうか、ぱいたんしゃんと初めて会ったのは、中屋のペンクリでしたな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月11日 23:03
#3776の根本の20という刻印は20号ペンを意味するのかな?
号というのは重さという説もある。
重さなら#3776はせいぜい15号くらいかと思うがなぁ。
20号といえばPilot 80周年・・・たしかにあまり大きさは変わらんな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月11日 23:01
呼ばれて飛び出て...(笑)

金魚いいですよぉ(^^)
Y氏に、復活していただいてから一年。
書き心地はばつぐん。
でも、ご指導に従って「純正インク」を入れたら、
とんと出番が減ってしまって..._| ̄|○
Posted by ぱいたん at 2006年10月11日 21:05
パイロットの20号ペン先が欲しい!と騒いでいる方は多いのに、なぜいくらでも手に入る上、安いこの#3776の20号ペン先の大きさが話題にならないのか不思議です。
やはり、分解をされるひとが少ないから?
Posted by 二右衛門半 at 2006年10月11日 20:39
紅しゃん

金魚好きはけっこう多いですな。ぱいたんしゃんも持っている・・・
あ、蒸し返してしまった・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月11日 20:15
kugel_149しゃん

この調整は自分用だけね。この感覚を確認できるのは自分だけだから。
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月11日 20:12
二右衛門半しゃん

そう、国産にしては首軸の中に入っている部分が長い!
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月11日 20:11
monolith6しゃん

ペン芯はちゃんとはまっているのですが、多少緩くてペンs会がさらに奥に入ってしまうんです。純正のペン先じゃないので文句も言えませんが・・
ちなみにエボペン芯とペン先は同じ個体についていました。
Posted by pelikan_1931 at 2006年10月11日 20:10
プラチナ・セルロイド、ワタクシは『金魚』が大好きでした…
個人的趣味から、売れますと小躍りしていました。
見映に吊られるオンナで申し訳ございません(汗)

ミュージックのペン先お探しの方って多いですよね。
最近では、胸ポケットに149挿した、
モーツァルト本を出した某作家さんのペン先が気になった私です。
是非ミュージックであって欲しい。
Posted by 紅 at 2006年10月11日 20:04
師匠
 「その際には右側のエッジ(外側)と、左側のエッジ(内側)の調整のペーパーの番手は変える」という一文を拝読し、またまた敬服いたしました!

monolith6さん
 鋭い観察眼と指摘に、感服いたしました!
Posted by kugel_149 at 2006年10月11日 08:20
#3776ですか、いいペンです、私も最近はこれを使っています。
意外とペン先が大きいのが意外といえば意外ですよね?
Posted by 二右衛門半 at 2006年10月11日 08:02
 プラスティック・ペン芯を付けた状態の画像は、ペン芯がやや、首軸への押し込みが足りないと思いますが如何でしょう。このままでは恐らく、インクの供給が途中でストップしそうです。それとも単に撮影用ということで、最終的に目指すエボナイト・ペン芯とのマッチングは厳しく追及し、途中経過となるプラスティック・ペン芯については適当に済ませたとか?
Posted by monolith6 at 2006年10月11日 04:36