今回は拙者の万年筆のプチ改造じゃ。自分の万年筆の改造・調整に、どのようにこだわっているのかがわかりやすいので、2回ほど自分用万年筆をテーマとしてみた。この万年筆は既にニ度改造してある。購入した際についていたのは中字ニブだったが、#3776ギャザード用の極太ニブに交換し、ペン芯もエボナイト製に交換した。
これが2006年4月20の記事の時点じゃ。それ以降はプラチナ・カーボンインクを入れて使っていたのじゃが、エボナイト製ペン芯とカーボンインクの相性が良くないのか、サラサラと書くというよりはネットリと書く感じになる。重くて長いペンの場合は、ネットリ系の方が気持ちよく書けるのだが、軽い胴体の万年筆にネットリとした書き味だと疲れてしまう。
そこでペン芯をプラスティックにもどした。プラチナ・カーボンはプラスティック製ペン芯で相性をテストしているらしく、こちらは快調なインクフローで粘り気も少ない。これはこれで良かったのだが、この軸にスティピュラのグリーンを入れて書きたくなった。普通ならカーボンインクを抜き、完全分解し、ロットリング洗浄液に浸けた綿棒でペン先や首軸内部、コンバーター内部を清掃すれば終わりなのだが、今回は違う。
カーボンインクで書き味が良いペン先であっても、他のインクでは書き味が悪いケースはある。実はカーボンインクは書き出しの掠れを防ぐと同時に、紙とイリジウムとの摩擦係数を減らし、ヌルヌルとした書き味を演出してくれる魔法インクなのじゃ。しかし、そればかりも使っておられない。
【消費税増税から逃げることは無いが、逃げ込む事も無い】とは安倍総理の言葉らしいが、拙者も【カーボンインクから逃げることはしないが、逃げ込むことも無い】としたい。安易に調整の腕の未熟さをカーボンインクでごまかす事に逃げ込みたくは無い。 カーボンインクで紙当たりが30%ほど良く感じられた部分をカバーする為には、まずインクフロー。スティピュラのグリーンとの相性が良い、エボナイト製ペン芯にもどした。左の画像では右の上がエボナイト製ペン芯で、下がプラスティック製ペン芯じゃ。精巧さは段違いにエボナイト製が上じゃ。
さらに書き出し掠れをなくする為には、ペン先をより鋭角に研ぎ、stand_talkerしゃん曰くの【ピントが合った状態】にする必要がある。紙に当たる部分が筆記時に意識でき、その中で意識の線と実際の筆跡が一致すれば気持ち良いし、掠れる確率も小さくなる。そこで左の画像のように、かものはし調整にペン先を研ぎ上げた。
柔らかい書き味を狙ったものではなく、ピントを合わせる為の措置。生産性の観点で今回はルーターも使用した。ルーターを使用してペン先の斜面の両側を削るとある不具合が出る。それは土曜日の調整報告でお目にかけよう。当然このペン先にも影響はあった・・・・・
筆記角度は以前と変わらないのじゃが、カーボンインクではないので、書き出しで掠れる確率は高まる。従ってより精密な筆記角度、許容角度、紙との相性、表面仕上げのペーパーの番手に気を配り、またどのエッジを何番で磨くかにも変化をつける。
拙者はやや右に倒して書く癖があるが、その際には右側のエッジ(外側)と、左側のエッジ(内側)の調整のペーパーの番手は変える。【筆圧を掛けてから力を抜くように線を引く】人もいれば、【触れるか触れないかの筆圧ゼロの状態から線を引き始めて筆圧は変わらずスピードが増し、最後で急停車】という人ともいる。拙者は後者なので、そのように調整するのじゃが、この調整を施した万年筆を、前者の書き方をする人が使うと、書いている途中で線が途切れてしまう。
調整とは書き味と許容範囲との妥協の産物じゃ。従って他人の調整には、依頼人の筆跡がどれくらい振れるかを把握してから許容範囲を見つける。しかし自分用の調整には許容範囲はほとんどいらない。徹底的に書き味を追求している。 予想通りスティピュラのグリーンとエボナイト製ペン芯の相性はすばらしい!極太で相当早く線を書いてもインクが途切れることは無い。やや【かものはし】状態になったペン先は紙への追従性が上がり書き出しの掠れも筆記中の途切れも無い。異次元の書き味になった!
異次元の書き味になった・・・ということはこの万年筆とのお別れも近いという事じゃ。不満が持て無くなった万年筆には興味を失ってしまうのも拙者の癖でな・・・ 調整戻りが出るまでは今の書き味を楽しんでおこう。
過去のプラチナ関連記事
2006-04-27 ひと昔前のカタログ 【プラチナ】
2006-04-21 プラチナ 革巻軸 アマゾネス?
2006-04-20 プラチナ #3776 石垣
2006-04-19 プラチナ・グラマー用バランサー
2006-04-18 プラチナのミュージック・ニブ 【その1】
2005-12-22 プラチナ最高の組み合わせ! 赤リブ+スクリプト
2005-12-06 プラチナのセルロイド軸 【青】
これまでの調整記事
2006-10-07 Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04 OMAS パラゴン BB
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB
2006-09-27 Montblanc Np.146 丸善120周年記念
2006-09-23 Montblanc No.149 BBB
2006-09-20 Pelikan 140 赤
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤
2006-09-14 Soennecken Pony
2006-09-13 Montblanc No.742-N
2006-09-09 Montblanc No.252
2006-09-07 Montblanc No.22 緑
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化
2006-08-30 Montblanc No.149 開高健モデル
2006-08-26 Montblanc No.644 グレイ縞
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway
2006-08-10 Montblanc No.256 KOB
2006-08-05 Conway Stewart Floral
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック
万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】