万年筆評価の部屋:解説【萬年筆と科學】　その５

おもしろい調査結果を披露した【第五章】

　今回掲載されている調査データは面白い！口と手の早さの比較というのがある。データを一部転載してみよう。いずれも10分間に読んだり書いたり出来る文字数に換算してある。

①新聞記事の黙読　　　7,700文字
②新聞記事の音読　　　3,300文字
③普通速度の演説　　　2,300文字
④手紙事務的筆記　　　　200文字
⑤手紙丁寧筆記　　　　　100文字
⑥速記文字　　　　　　2,000文字
⑦和文タイプ　　　　　　300文字
⑧カナタイプ　　　　　3,000文字【カナ交じり分で1,800文字相当】

　読む文字数と、筆記する文字数を同じ土俵で比較するというのは非常に面白い。しかもただ単に比較しただけではなく、給料の高い役員がせっせと手紙を書いた場合のコストと、それを速記者に口述筆記させ、それを和文タイプで清書し、コピーを使って大量に印刷した場合のコスト比較などもある。能率に対する考え方【発想の転換】を教える為であろう。

　調査結果の数字だけにこだわるのではなく、その数字を割ったり掛けたりして、真のあるべき姿を打ち出すのは、数年前にブームを引き起こしたABC【Activity Based Costing】の考え方に酷似している。渡部恐るべし！

　蛇足ではあるが、この時期事務の能率化の観点から、【仮名広め会】という漢字廃止運動もあったらしい。渡部氏は、これに対しても一定の理解を示している。相当に進歩的なお方じゃ。

　拙者が一番驚いたのは、この文が掲載された1926年の段階で、和文タイプがあったこと。また仮名タイプという物の存在も初めて知った。ペリカンが万年筆を初めて作る以前から和文タイプがあったとはな・・・いったいいつごろから世に出たのであろうか？また仮名タイプというのは、その後どうなったのか？ぜひ調べて欲しい！

　この【口と手の早さの比較】は単なるお遊びではなく、前フリじゃ。彼が言いたかったのは【数字に置き換えられる事象だけが改善に結びつく】ということ。そして、それを万年筆の販売にも当てはめ、万年筆の販売予測を漫然と立てても意味が無く、そのエリアの人口、学校数、会社・銀行・官公庁数、納税額等で文化度を評価した後に、方程式として販売予測を立てるべし！との事。いやはや耳が痛い・・・・・・！

　この章の大半はキャップ【鞘】の効果について述べられている。そこは面白く無いので省略。

　最後にウォーターマンの万年筆は何故インク漏れしやすいかを解説している。どうやら徹底的に分解してその仕組みを解明していたようじゃ。そして【万年筆を持つ為に洋服を着ねばならぬとは、萬年筆も人をバカにしていると憤慨するのが本当でしょう】と過激な意見も・・・。どうやら舶来の万年筆はペン先を上向きにして携帯しないとインクが漏れたようだ。着物に入れて携帯すれば、ペン先は横になったり、下になったりするのでな。

　外国製万年筆の完全模倣は失敗する。日本独特の生活様式があるので、それに合致した万年筆を作る事が万年筆製作者の責務である！と結んでいる。その心意気や良し！ますます今後の展開が楽しみじゃ。

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万年筆評価の部屋

2006年10月27日

解説【萬年筆と科學】 その５

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