多少トーンダウンした【第六章】
渡部氏は最初のセンテンスで反省と反撃をしている。【私がこれまで書きました事もそうでありましたし、これから書こうとする事も、ともすると理屈勝ちになるかもしれません。時としては、花弁の一片を顕微鏡下にさらすほどの無風流を敢えてする場合もありましょう。・・・ 略 ・・・ が、月の面に望遠鏡を差し向ける人々が必ずしも物の憐れを解せぬ人ばかりでは無いことを知っている読者は、こうした私の態度をわかっていただけると思います。】
名文である。おそらくは意気込んではじめたが、連載を読んだ読者から難しい、理屈っぽいという投書が舞い込んできたのであろう。それで、多少言いわけがましい書き出しになったのだろうが、最後には【これからも意志は曲げんぞ!】との決意表明がある。いいぞ!渡部旭!
ネクタイの品定めは半纏の色合いには細心の注意を払っておきながら、なぜ万年筆を購入する際には、富くじでも引くように無造作に万年筆を選ぶのか!とご立腹じゃ。ちゃんと【萬年筆と科學】を読んで、仕組みや特徴を十分に理解した上で、自分にあった万年筆を選んで欲しい!と結んでいる。
当時の万年筆宣伝広告の【手前味噌な我田引水】ぶりに激怒している渡部氏は、万年筆を選ぶに際しては、家政婦を決めるように選ぶな!一生付き合う助手を決めるように選べ。素性と来歴、生年月日、生い立ち、首、胴、舌についても調べる必要がある・・・とか。ここで舌とはペン芯を意味する。
渡部氏は【made in Japan】が粗悪品の代名詞とされる屈辱に耐えられないと言っている。彼が携わっている万年筆だけでも世界最優の物を作ってみせると力むのじゃ!・・・とか。志がすばらしい!
1870年代に米国のフィラデルフィアで第一回万国博覧会が開催されたおり、独逸からある機械が出品されたが、それについて審査員は【安価な粗悪品】とのレッテルを貼った。屈辱的な不名誉だった。その当時の【made in Germany】は渡部の時代の【made in Japan】と同じく粗悪品の代名詞だったらしい。
当時の英国は独逸品の輸入を防ぐ苦肉の策として、法令を定め、製作国の国名を銘記していないものは輸入を許可しないとした。それはとりもなおさず独逸製品が粗悪であるという世評を利用して独逸商品の駆逐を試みたものだったとか。
しかるに50年後の渡部の時代には、ドイツ製品は【安価で精巧!】という世評を勝ち得ていた。日本もドイツと同じ道を歩むのじゃ!という意志が切々と書かれている。【萬年筆と科學】というよりは、blog風じゃな。
それに気付いたのか【気付いてみると、私は与えられた紙数の九分通りをつい調子に乗って潰していると共に、甚だしく脱線しているのを見出します】と多少反省しつつも【と言って舵を急に曲げると自転車のように横倒しに落っこちないとも限らない。熱した瀬戸物を急に冷すとピンと割れるかもしれません】と反撃を開始し【次号から更に筆を新たにして本稿を続けることにします】と開き直っている。
やはり渡部旭氏の話も、かれ自身も非常に魅力的じゃ。【萬年筆と科學】が学術書としてだけではなく、随筆としても一級品じゃ。
解説【萬年筆と科學】 その5
解説【萬年筆と科學】 その4
解説【萬年筆と科學】 その3
解説【萬年筆と科學】 その2
解説【萬年筆と科學】 その1
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