2006年11月10日

解説【萬年筆と科學】　その７

毛細管現象を詳細に説明した【第七章】

 【日本では普通にペン芯と呼んでいるが、その働きから考えれば英語のFeederを直訳したインキ送りの方が本当だろう】という渡部氏の言葉にはハッとさせられた。本当に無意識にペン芯と読んでいた。

　渡部氏は続けて【名は実を表すというとおり、日本の多くの万年筆のペン芯が、本来の目的であるインキ送りの働きをせずにいるのは残念な事】と書いている。

　ペン芯【Feeder】に必要な条件は３つ
　�．ぅ鵐�の通路として、毛細管現象を誘発する隙間を有する事
　��空気の通路として、相当な広さを持つ事
　�６皀撻鵑鮗茲衂佞韻訖弔箸靴討量魍笋鳳茲�事

　�，砲弔い討硫鮴發箸靴董�大変な誤解をしている人が多いとして次の事例をあげている。【インクが出渋るからといって穴や溝を拡げてしまうこと】。インクは毛細管現象によってペン先まで導かれている。毛細管現象は理論上、隙間が狭いほど強く働く。従ってナイフでスリットを削り、拡げるなんてもってのほか！ペン芯のスリットに刃物を突っ込むのは、スリットに詰まったインクカスを取り除く目的なので、せいぜい隙間ゲージの最も薄いものでスリスリする程度にすべきじゃ。ペン芯のスリットは細い方が良い。

　�△砲弔い禿鷲�氏はおもしろい表現をしている。空気はブルジョアでインクはプロレタリアンと。空気は幅の広いところを好み、インクは幅の狭いところを好む。従ってペン芯に細い通路と太い通路を作っておけば、空気は太い通路を通り、インクは細い通路を通るのだとか。万年筆を振らねばインクが出なくなるのは、ペン芯の設計が悪く、インクと空気が同じ通路で拮抗して階級闘争状態にあると表現された。長原先生は【息がつまっとる。呼吸困難じゃ！】と表現された。長原先生の言葉が今日やっと理解できた。

　その後は理科の講義のようで面白い・・・

★同じ物質間の分子引力を凝集力と言い、異なった物質間の分子引力を附着力と呼ぶ。
★雨滴が球形になるのや、芋の葉に乗った露が玉になっているのは水の分子凝集力。
★糊で紙を貼ったり、レンガをセメントでくっつけたりするのは異物間の附着力を利用したもの。
★漆自身が固まるのは凝集力だが、漆が万年筆の表面に固着してラッカナイトが出来るのは附着力。
★凝集力と付着力とは物によって、前者が後者より強いものもあれば、逆もある。
★インクの中にガラスの極細管を入れるとインクが上昇するのは、インクの凝集力よりインクとガラスの附着力が強いから。
★同じ事を水銀でやれば、水銀の凝集力がガラスと水銀の附着力より強いので水銀は管にほとんど入らない。
★何故エボナイト製ペン芯が良いかといえば、インクとの間の附着力が強いから。
★ペン芯にインクをはじくような油気が無いようにしないと毛細管現象が働かなくなりインクが出なくなる。

　なかなか為になる。経験則でしか理解していない【ペン先の裏にロジウムを鍍金するとインクフローが良くなる】というのも附着力を上げるのかもしれない。

　最後にあっと驚かせてくれた。ペン芯の溝が0.3�个両豺腓砲蓮▲撻鷽弔猟垢気�4.48�儖幣紊△辰討呂覆蕕覆ぁ�と書かれている。溝の細さと毛細管現象の理論を数式で解析すると出てくる結論らしい。当時アメリカ製のペン芯が申し合わせたようにペン芯が短いのはこの理屈を理解してたからであり、英国製の万年筆の中にやたらペン芯が長いのがあるのは研究不足と一刀両断！

　実は昔のペン芯を見て、インク溝と空気の通り道がイリジウム側から首軸側に一方向しかないので、どうやってインクと空気が衝突しないのか不思議だった。今回渡部氏が疑問を解いてくれた。インクは狭い空間を好み、空気は広い空間を好む。従ってインクは下のスリットの間を通り、空気はペン芯上部とペン先の間の空間を通る。とすれば、ハート穴は空気の通り道用ということじゃ。とすれば、ハート穴の無いペン先の場合、空気をペン芯の横から取り入れるような仕組みがあるかも？これは楽しみ。研究対象が増えたわい。


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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(6)│ このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック │情報提供 
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この記事へのコメント
やっぱり、Fountain Pen Hostital のことでしたか。
たしかに修理方法は詳しく記載されていますが、原理についての説明は無いようですな。初めて読んでみました。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月10日 21:47
ＦＰＨの間違いです。orz
Posted by ぴよぴよ at 2006年11月10日 20:41
PHFてのは何のことですかな？
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月10日 18:04
めだかしゃん

古屋万年筆店はパイロットタイムスを読んでいたのでしょうな。
当然、平塚工場への研修にも参加されて・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月10日 18:03
ＰＨＦの青表紙の冊子にもペン芯の役割について触れていますね。
此処まで詳しい解説ではありませんが。
Posted by ぴよぴよ at 2006年11月10日 09:18
ペン芯の奥深さに驚嘆！
「インキの通路は狭い方がいい」というのは、昔、早稲田通りにあった古屋万年筆店の親父から聞かされたことがあります。なるほどと思ったものの、その理屈のすごさがわかりませんでした。
「THE MAKING 万年筆が出来るまで」というビデオの中で、パイロットのペン芯をインクにつけたら、スーッとインクが上っていくシーンがありますが、実に奥深い理論があるのですね。
因みにビデオはこちら
http://sc-smn.jst.go.jp/8/bangumi.asp?i_series_code=F980601&i_renban_code=021　
Posted by めだか at 2006年11月10日 08:52
 
 
 
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