エボナイトを詳細に説明した【第八章】
拙者、バルカナイトはエボナイトとは別の素材と考えていた。しかし、渡部氏の説明により、それが誤解であるとわかった。
【エボナイト(Ebonite)の名称は英国および日本で用いられ、米国ではハードラバー(Hard rubber)と呼ばれています。時としてはヴァルカナイトと呼ばれる事もあります。西暦1852年に米国人のチャールス・グッドイヤー氏が初めて製法を発見したもので、万年筆の軸に利用され始めたのは1888年ごろからです】
ウォーターマンが万年筆を発明したのは1883年だから、初代万年筆はエボナイト製ではなかった事になる。金属製?気になるなぁ・・・・。誰か知っていたら教えてくりゃれ!
【エボナイトの製法 → ゴム:100 硫黄:50 硫化促進剤:2 の割合でロール機にかけて練り合わせますと、粘土くらいの柔らかさになります。これがエボナイトの生地です。それを押出機の噛込み口に入れますと、機械の一端にある出口の孔から任意の太さの棒または管が飴棒のように出てきます。それを1mの長さに切り揃えてタルクという粉末を敷き詰めた容器の中に並べ蓋をし、更に容器を硫化罐という鉄罐の中に納め、蒸気を吹き込み、摂氏140度位の温度で10時間くらい熱しました後、取り出して見ますとコチコチとした硬い物に、即ちエボナイトに化成しております。蒸気で加熱するのはゴムと硫黄を化学的に結合するためです】
【もし ゴム:100 硫黄:4 の割合で練り合わせたものを前記の方法で40分くらい加熱しますと軟質ゴムが出来ます。自転車の空気タイヤとか万年筆のゴムチューブとかはこの部類に属します。硬いエボナイトと軟質ゴムとは原料は同じで、配合する硫黄の割合が違うだけです。】
エボナイトは熱伝導率が非常に悪く、手の熱が軸内の空気を膨張させないところ、更にインクの酸に対して安定的であること、比重が1.2で軽いこと・・・等万年筆の素材として最適であると述べられている。ただ唯一の弱点が変色であり、これを防ぐ為に、漆を塗ったのがラッカナイトであると話を続けている。
実はエボナイト軸の弱点はもう一つある。昔は気づかれなかった事だろう。ペンケースでゴムバンドで万年筆を固定するタイプのものがあるが、あれにエボナイト製万年筆をはさんでおくと、ゴムバンドの表面の模様が軸に転写されたように表面が凸凹になる事がある。理由は不明だったが、上の説明を読んで合点がいった。エボナイトには硫化促進剤が含まれている。それがゴムバンドに含まれる硫黄に作用してゴムバンドの素材と万年筆の軸をくっつけてしまうからかもしれない。あるいは下に出てくる遊離硫黄のせいかも?
エボナイト製の万年筆をゴムバンドで挟むのは自殺行為じゃ。絶対にやめられよ。また上に漆がかけてあってもベースがエボナイトならやられますぞ。拙者はPilot 75をやられた経験がある。最善の注意を払うなら、ゴムバンドの付いているペンケースは使わないことじゃ。拙者はほぼ一掃した。ただし1日や2日で硫化するわけではないから、短期間なら問題は無い。
さてラッカナイトであるが、これはLacquered Eboniteの発音を縮めて命名した和製英語らしい。変色に圧倒的に強い漆をエボナイトに塗るというのは、漆が日常的に使われていた日本だからこそ出来たのじゃ!ああ、日本国民はなんと幸せなことよ!と自画自賛されておる。まったく同感じゃな。ただ拙者漆塗りや蒔絵には興味ないので、ここはスキップ。
最後にエボ焼けに関して説明された部分の紹介じゃ!
【エボナイトはゴムと硫黄を練り合わせて加熱した一種の硫化物ですが、化合し残った遊離硫黄がそのままエボナイトの中に残っており、これがその後長期間軽微な硫化作用を継続します。その事後硫化作用によりエボナイトの表面が空気中の湿潤な状況の下に硫化する為に変色すると考えられます。万年筆の金ペンが俗にエボ焼けといって、鞘をとってみると赤色に変わっているのもこの遊離硫黄の作用であります】 やっとエボ焼けを科学的に説明した文章に出会えた!1927年にはもう理屈がわかっていたのじゃな・・・
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