2006年11月17日

解説【萬年筆と科學】 その8

エボナイトを詳細に説明した【第八章】

 拙者、バルカナイトはエボナイトとは別の素材と考えていた。しかし、渡部氏の説明により、それが誤解であるとわかった。

 【エボナイト(Ebonite)の名称は英国および日本で用いられ、米国ではハードラバー(Hard rubber)と呼ばれています。時としてはヴァルカナイトと呼ばれる事もあります。西暦1852年に米国人のチャールス・グッドイヤー氏が初めて製法を発見したもので、万年筆の軸に利用され始めたのは1888年ごろからです】

 ウォーターマンが万年筆を発明したのは1883年だから、初代万年筆はエボナイト製ではなかった事になる。金属製?気になるなぁ・・・・。誰か知っていたら教えてくりゃれ!

 【エボナイトの製法 ゴム:100 硫黄:50 硫化促進剤:2 の割合でロール機にかけて練り合わせますと、粘土くらいの柔らかさになります。これがエボナイトの生地です。それを押出機の噛込み口に入れますと、機械の一端にある出口の孔から任意の太さの棒または管が飴棒のように出てきます。それを1mの長さに切り揃えてタルクという粉末を敷き詰めた容器の中に並べ蓋をし、更に容器を硫化罐という鉄罐の中に納め、蒸気を吹き込み、摂氏140度位の温度で10時間くらい熱しました後、取り出して見ますとコチコチとした硬い物に、即ちエボナイトに化成しております。蒸気で加熱するのはゴムと硫黄を化学的に結合するためです】

 【もし ゴム:100 硫黄:4 の割合で練り合わせたものを前記の方法で40分くらい加熱しますと軟質ゴムが出来ます。自転車の空気タイヤとか万年筆のゴムチューブとかはこの部類に属します。硬いエボナイトと軟質ゴムとは原料は同じで、配合する硫黄の割合が違うだけです。】

 エボナイトは熱伝導率が非常に悪く、手の熱が軸内の空気を膨張させないところ、更にインクの酸に対して安定的であること、比重が1.2で軽いこと・・・等万年筆の素材として最適であると述べられている。ただ唯一の弱点が変色であり、これを防ぐ為に、漆を塗ったのがラッカナイトであると話を続けている。

 実はエボナイト軸の弱点はもう一つある。昔は気づかれなかった事だろう。ペンケースでゴムバンドで万年筆を固定するタイプのものがあるが、あれにエボナイト製万年筆をはさんでおくと、ゴムバンドの表面の模様が軸に転写されたように表面が凸凹になる事がある。理由は不明だったが、上の説明を読んで合点がいった。エボナイトには硫化促進剤が含まれている。それがゴムバンドに含まれる硫黄に作用してゴムバンドの素材と万年筆の軸をくっつけてしまうからかもしれない。あるいは下に出てくる遊離硫黄のせいかも?

 エボナイト製の万年筆をゴムバンドで挟むのは自殺行為じゃ。絶対にやめられよ。また上に漆がかけてあってもベースがエボナイトならやられますぞ。拙者はPilot 75をやられた経験がある。最善の注意を払うなら、ゴムバンドの付いているペンケースは使わないことじゃ。拙者はほぼ一掃した。ただし1日や2日で硫化するわけではないから、短期間なら問題は無い。

 さてラッカナイトであるが、これはLacquered Eboniteの発音を縮めて命名した和製英語らしい。変色に圧倒的に強い漆をエボナイトに塗るというのは、漆が日常的に使われていた日本だからこそ出来たのじゃ!ああ、日本国民はなんと幸せなことよ!と自画自賛されておる。まったく同感じゃな。ただ拙者漆塗りや蒔絵には興味ないので、ここはスキップ。

 最後にエボ焼けに関して説明された部分の紹介じゃ!

 【エボナイトはゴムと硫黄を練り合わせて加熱した一種の硫化物ですが、化合し残った遊離硫黄がそのままエボナイトの中に残っており、これがその後長期間軽微な硫化作用を継続します。その事後硫化作用によりエボナイトの表面が空気中の湿潤な状況の下に硫化する為に変色すると考えられます。万年筆の金ペンが俗にエボ焼けといって、鞘をとってみると赤色に変わっているのもこの遊離硫黄の作用であります】 やっとエボ焼けを科学的に説明した文章に出会えた!1927年にはもう理屈がわかっていたのじゃな・・・


解説【萬年筆と科學】 その7 
解説【萬年筆と科學】 その6 
解説【萬年筆と科學】 その5 
解説【萬年筆と科學】 その4 
解説【萬年筆と科學】 その3 
解説【萬年筆と科學】 その2 
解説【萬年筆と科學】 その1 



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(12) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 情報提供 
この記事へのコメント
エボ焼け被膜の化学式たどがわからんと何とも言えませんなぁ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月19日 19:08
ニブの表側に硫黄を密着させてインクに浸けたら、装飾エボ焼けをさせることが出来るのかな。
Posted by ぴよぴよ at 2006年11月19日 18:53
丸刈太しゃん

吸入機構の弁にゴムを使っているのは見た事がありませんなぁ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月19日 12:12
こんにちは。
エボナイトとゴムの接触が御法度ということになりますと、
エボナイト軸万年筆の吸入機構には、ゴムは厳禁ということに
なるのでしょうか。
Posted by 丸刈太 at 2006年11月19日 11:07
カメラの遮光スポンジ?がベトベトになるのは加水分解ですかな?
中古カメラ買うたびにメーカーに持ち込みました。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月19日 03:09
塩化ビニールや一部のポリエチレンなどの可塑剤(樹脂を柔らかく保つための薬品)を多く含んだ樹脂を、ABS樹脂などと接しておくと、塩ビから接している樹脂に可塑剤が移行して、相手の樹脂が可塑剤によって侵されて痕が付いたりしてしまう現象です。環境要因(高温多湿)x時間で現象は促進されます。
樹脂関係では他には、加水分解(ウレタンなどがベトベト・ぐずぐずになる。ナイロン樹脂の吸湿+温度サイクルのよる脆弱化)、シリコン樹脂やゴム部品からのガスで電子部品接点が汚染されるなど、樹脂がらみでは色々経験しました。遠い昔のことです。。。
Posted by ぴよぴよ at 2006年11月18日 08:08
ぴよぴよしゃん

【移行】とはどんな状態ですかな?
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月18日 01:29
めだかしゃん

紫外線が硫化を促進させるようですな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月18日 01:28
monolith6しゃん

渡部氏は、ラッカナイトは直射日光でも大丈夫と豪語してますな。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月18日 01:27
ゴムの加硫の事を読んでふと思い出した事。
このこととずばり同じではありませんが、駆け出しのぴよぴよ技術者の頃に樹脂の「移行」現象には、よく悩まされました。orz
Posted by ぴよぴよ at 2006年11月17日 20:07
ラッカナイト、エボ焼け、どちらも長年のなぞが解消しました。ありがとうございました。
遊離硫黄の硫化作用は、おそらくインクの酸によって引き起こされるものだと思います。「硫化作用によりエボナイトの表面が空気中の湿潤な状況の下に硫化する為に変色する」とありますが、潤沢な何の状況の下なんでしょうね。きっと酸素だと思いますが、だとすると、ニブの裏だけでなく軸そのものも硫化して茶色く変色するのもうなずけます。ニブの場合は、インクによって酸化速度が速められてそれがニブの裏に付くと考えると、軸の「焼け」より早くエボ焼けが出来ることも説明がつきますね。
ああ、スッキリした!
Posted by めだか at 2006年11月17日 10:28
 私はこのラッカナイトの効果には個人的に大いに疑問を持っています。エボナイトの日焼けを防ぐために漆をかけると言ったって、当の漆製品が基本的に直射日光に弱いのでは、表面をコーティングする意味がありません。
Posted by monolith6 at 2006年11月17日 05:42