2006年11月29日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.149 ピストンガイド交換 】

2006-11-29 01 今回の依頼は80年代のNo.149に90年代のピストンガイドを装着する事じゃ。80年代のNo.149は基本的にピストンガイドの見える部分がプラスティック製。それに対して90年代No.149は金属製のピストンガイド。万年筆の後ろを持って書く人の中には、重心が後ろにあるほうがペンを取り回しやすいと感じる人が多い。特に今回の依頼者は左利きなので、さらにその感を強くしたのであろう。

2006-11-29 02 右の画像で上が90年代のNo.149で下が80年代のNo.149。上のNo.149のピストンガイドを外して、下のNo.149のピストンガイドと交換するのが指令じゃ。拙者も以前は同じようなピストンガイド交換をして使っていたが、利用するよりコレクション目的の保持比率が増えるにしたがって、オリジナル製を重んじるようになった。

 No.146からNo.149に万年筆をUpgradeした人は、No.149の重心位置が前すぎると感じる
人が多い。現行品ではさほどでもないが、80年代以前の物はふわふわして書きにくいと感じるとか・・・

2006-11-29 03 そこで重さを量ってみた。90年代のNo.149が36g、80年代のNo.149は28g程度。その差は8g程度だが、そのうち5.5gがピストン部分の重さの差じゃ。そしてピストンガイドの差が5.4gとそのほとんどを占める。したがってピストンガイド交換で重心位置を変えるという依頼者の意図は正しい!

 このピストンガイド交換によって80年代のNo.149は28g→33.4g、90年代No.149は36g→30.6g程度となる。全体重量は逆転した。当然重心位置も変わり、80年代No.149は現行品に近いバランスになる。70年代後半〜80年代前半のNo.149と同じ開高健モデルのペン先。ペン芯に上下スリットがあるので、80年代No.149の可能性が高い。


2006-11-29 04 左のようにピストンガイド以外は交換しなかった。重心位置の好みは驚くほど変化する可能性があるので、いつでも元に戻せるようにしておくのが基本。

 金属部分のほんの少しの違いで5g以上の重量差とは・・・金属恐るべし! それにしても80年代のピストンガイドの金属とプラスティックの接合は見事。どうやって接合してあるのじゃろう?


2006-11-29 05 これが80年代No.149の当初の状態。ペン先が詰まっておりややインクの出が悪い。おそらくはエボ焼けの影響もあると考えて分解してみる事にした。エボナイト製ペン芯のNo.149はエボ焼けのせいでインクフローが悪化しているものが多い。これは長年、Montblanc社の悩みだったはず。ヘミングウェイ発売に合わせてペン芯をプラスティック製にしたのは、単にコストカットだけの為ではなく、エボ焼け対策もあったと思われる。ただし、ペン芯の設計に失敗したのか、エボナイト製ペン芯のモデルよりもインクフローが悪化する事もあって、デュマあたりでペン芯の設計を変えている。その後も多少の設計変更はあるらしいが、最近のモデルは身の回りで誰も持っていないので良くわからん。ペン芯は新しいほど工夫がされていると見るのが正しいが、見栄え上はエボナイト製じゃな。それほど字を書かない拙者は断然エボナイト製ペン芯が好きじゃ。理屈ではなく、好みの問題!

2006-11-29 06 これが首軸から取り外した直後のペン先。表面はせっせと清掃していたのか、まったく汚れていないが、首軸で覆われた部分にはエボ焼けがびっしり!

2006-11-29 07 ペン芯の裏にも酷いエボ焼けが!ここまで来ると必ずインクフローに悪影響を与えている。エボナイト製ペン芯付きのNo.149を長期間利用している方は、一度エボ焼け除去をした方がよかろう。これはペンクリで頼める作業では無いので、サービスセンターに持ち込むか、分解器具を持っている店か、WAGNERに持ち込むかじゃ。インクフローに問題なければ放置してもよいがな。

2006-11-29 08 こちらがエボ焼けを除去したニブの表側。根元の部分が綺麗になっているのがわかろう。ただ困るのは開高健モデルは素材が薄いのでかなり首軸に突っ込まないとちゃんと固定しない。エボ焼けも立派な隙間補填になっていたかもしれない・・・って事は無い!

2006-11-29 09 こちらが裏側。エボ焼けは見事に除去されている。ここまでくればインクフローに改善は見られるが、スリットの詰まり具合も多少は改善しておいた。いくらインクをペン先まで誘導してもスリット先端が開かないと潤沢なインクフローは得られない。特に重心が後ろにあるのが好きな人は、概して筆圧が低い。従ってイリジウムを紙の上にそっと置いただけでインクが出るほどの状態にしておかないと書き出しでインクが掠れてしまう。

2006-11-29 20 これが出来上がり。ペン先を首軸に突っ込んだ状態は当初と同じ。ただしペン芯をやや中に入れてある。この方が横から見た際に美しいからじゃ。

 最近、万年筆を分解していじることに対して批判的な意見も出てきているが、万年筆は道具。その道具を最良の状態に保つ最低限の知識と技能は身につけていて損は無い。ただし、しかるべき熟練者から指導を受けないで見よう見まねでやると、拙者と同じく数百本の屍の山を作る事になる。そういう悲劇を防ぐためにも来年からは、WAGNERの表定例会と地区大会で分解・調整講座を開催することとする。スケジュール表は2007年1月1日付けのblogに先行して掲示してある。

 実際にMontblanc No.149を分解する工具を自分で作るところから実習する。興味のある方はぜひご参加あれ。なを実習結果もBlogで公開するので、ご参考までに。

 しばらくは新たな屍を増やす事もあろうが、長期的に見ればアジアの万年筆利用者の救いにはなると考えておる。



これまでの調整記事
 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
2006-11-08   Montblanc No.149 ペン先裏のロジウム鍍金   
2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
2006-10-28   Montblanc 1970年代 No.146 ああ無残! 
2006-10-25   Montblanc 1980年代前半 No.146 B   
2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
2006-10-14   Senator  President  B 
2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04   OMAS パラゴン BB   
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB  
2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック   



Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(14) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
salty7しゃん

それは科学的に調べてみたいですな。銅は硫化しやすいような気がします。硫酸銅ってのがあったからな。
14Cの方が18Cより銅の含有量が多いので仮説としては面白いかもしれない。
ともあれ、生贄を分解してニブの裏を見るのが早いのじゃが、拙者が調整したものはダメじゃよ。すでに掃除している可能性が高いから。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月30日 21:16
師匠、ニブのいわゆる「エボ焼け」について質問があります。いままで取り上げてこられた149のニブは14Cですが、18Cの場合は「エボ焼け」はどうなるのでしょうか?あくまでの僕の数少ない経験からの印象ですが、18Cニブは14Cニブほど「焼け」ていないように思うのですが、いかがでしょうか?
Posted by salty7 at 2006年11月30日 19:00
t_stone しゃん

構造を知るために数百本犠牲にしたのでな。
その二の舞いはさせませんのでご安心を。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月30日 04:10
5
「分解工具の自作」楽しみです。
地区大会含め参加させていただきます。
ペン先調整は何本か行ってみましたが、なかなかうまくいきません。
いざ調整となると、構造がわからないと・・・大事な万年筆が屍に
なってしまいますので・・・。
Posted by t_stone at 2006年11月30日 01:33
vinyasaしゃん

調整・整備・修理方法については週に2回連載しておるよ。
今度は実地で手ほどきじゃ!

blogではうまく伝わらんかもしれんので悪しからず。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月29日 20:21
pelikan_1931 さんが、調整 整備の仕方の知識を広くオープンしてくれる
日を5年位前から待ってました(゚ーÅ) ホロリ
地方なので、参加できませんがブログ 楽しみです。
Posted by vinyasa at 2006年11月29日 19:27
オブリーク2104 しゃん

2本とも最後のペン先調整はまだじゃ。次回お持ちくだされ!
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月29日 17:33
ポン子しゃん

希望会員番号をメールくだされ。ご案内しますぞ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月29日 17:33
めだかしゃん

ユリゲラーの世界ですな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月29日 17:30
monolith6しゃん

まずは【らすとるむ】しゃんの秘儀をごらんいただきましょう。
Posted by pelikan_1931 at 2006年11月29日 17:29
おお、これは、、見間違いでなければひょっとして、、

おかげさまでとっても使い勝手が良くなりました。
重さと比例してペン先の性能がアップしたような感覚です。
道具として“使って”愛でていくうえでこの交換は
(師匠ごめんなさい)「大成功じゃ」でした。

Posted by オブリーク2104 at 2006年11月29日 13:04
「分解・調整講座」いいですね!
No.149の分解用工具の自作も非常に興味あります。
開催のおりにはぜひ参加させてくださいね。
Posted by ポン子(とみさわ) at 2006年11月29日 11:41
5.5gの差が、あんなに大きいなんて、手の感覚というのもすごいものですね。もっとも、日常では70gなんてたいしたこと無いのに、これを超えるとすごい重量を感じますから、納得できないこともない。持った感覚では10gくらいありそうに感じていました。
工具の自作?すごい企画ですね。楽しみです。自宅ではフォークを曲げようと考えていました。
Posted by めだか at 2006年11月29日 10:11
 おぉっ!分解講座!!待ってました。しかもいきなり149から!!!
こりゃ〜期待はうなぎのぼりです!!!!
Posted by monolith6 at 2006年11月29日 08:09