2006年12月13日

水曜日の調整報告 【 Montblanc デュマ 】

2006-12-13 01 今回の調整依頼はMontblancの限定品デュマ。ヘミングウェイの二番煎じを狙ったNo.149ベース。全体的な仕上がりはヘミングウェイ以上!ただ、最初に出したモデルのサインが子デュマと間違っていたため、回収して正しいサインの物を出しなおした。いわば、リコール状態。まだ消費者の手に渡る前で、販売店の段階で食い止められたらしい。

 ただし、サインミスは値上がりすると踏んだ販売店が、逆にサインミス品を集めようとしたため、あまり回収されず、結果として当初の倍近くの数のデュマが市場にあふれ、デュマ相場が下落した。なぜ造りの良いデュマが値上がりせずに、製造上の欠陥で天冠にクラックが入るヘミングウェイの価格が高騰するのか、販売側としては理解出来なかったようじゃ。

2006-12-13 02 そういう不幸な運命を背負ったデュマだが、実験もしている。ペン芯が大きくなり、フィンの数も増えた。空気穴の設計にも凝り、ヘミングウェイの時代よりは明らかに複雑な構造のペン芯になった。

 ところが、これが上手く機能していないようで、デュマはインクフローが悪いとして、拙者のペンクリにも数多く持ち込まれた。拙者の見立てでは、ペン芯の根元の部分が絞り込まれているが、これが原因ではないかと考えている。

 カートリッジ式のペン芯は、空気とインクを細い管から通すために、ペン芯の根元が必ず絞り込まれて管が出ている。これは必然!ただ回転吸入式のデュマで絞り込む必要は無いのにな・・・

 デュマは調整がちっとも楽しくない万年筆。ペン先とペン芯の位置は固定されており、位置をずらすとグラグラする。ペン芯は太いにもかかわらずかなり緩い。非常に神経質なペン先じゃ。写真のペン先はまったくスリットの隙間が無く、非常にインクフローが悪い。

2006-12-13 03 横から見ると、ペン芯先端が前に出すぎていて、寝かせるとペン芯を紙に擦ってしまいそう。拙者はこういう状態が嫌いだが、この位置でしかちゃんと止まらない設計になっている。非常にフラストレーションが溜まる。手を下せない状態じゃ。

 ペン芯の設計は凝っていて、いつまでルーペで眺めても飽きない。これでペン芯根元のボトルネックが無ければどんなにすばらしいかと思う。

2006-12-13 04 ペン先は根元にコストカットの穴が空いている。この穴はヘミングウェイには無かったはず。当時のNo.149と同じニブがついていたからな。メディチにはコストカット穴あり。ということはヘミングウェイだけがコストカット穴のない限定品か?

2006-12-13 05 ペン芯はエボナイト製ではないので、当然ながらエボ焼けは無い。従ってエボ焼けがインクフローを悪くしている訳ではない。スリットの詰まりすぎじゃ。写真で見てもまったく隙間が見えない状態。さすがにこれではインクは通らない。

2006-12-13 06 こちらは、スリット間隔をやや空けて、イリジウムのつまりを無くしたもの。インクフローを毛細管現象だけで語ろうとするのは無意味で、紙にインクがいったん付けば、ペン先を走らせるとインクは紙に吸いだされる。このインクが引かれる力もインクフローに影響している。

 これを仮に【インク引力】と呼べば、インク引力はイリジウムが詰まっている状態では働かない。一番良く働くのは、ハート穴先端のスリット幅とイリジウム先端のスリット幅が、同じ時に最大となる。ただしその状態では、毛細管現象が小さくなる。インクフローは、毛細管現象とインク引力の関係から導き出されるので、経験則+実験で最良のポイントを探すしかない。ペンクリでチャーチャーと出来るものではなく、1〜3週間かけてじっくりと調整する必要がある。このデュマには約一ヶ月かかった。

2006-12-13 07 もうひとつ重要なことは美しさ。一番上の画像では、軸の金のラインと、ペン先のスリットの延長戦がわずかにずれている。これは美しくない。調整後の左の画像では、ちゃんと合わせてある。こういう所を微調整するのも、いわゆる【広義の調整】なのじゃ。

2006-12-13 08 今回の調整はペン先の段差を直して、Mでヌルヌルの書き味を実現する事。かなり懐かしい調整要望。最近は、シャラシャラ調整と呼ばれる筆記音を出す調整や、ペン鳴りをわざと出すような超困難調整を依頼されることが多い。ヌラヌラ調整というのは珍しい。依頼者も、ちと懐かしくなって、ヌラヌラを楽しみたいのだとか。

 一時のヌラヌラ調整全盛時代は峠を超え、書き出し無掠れ調整も一段落し、最近では筆記音を楽しむ為の調整依頼が増えてきている。万年筆の楽しみ方も一様ではなくなってきている。良い傾向じゃ!


2006-12 友人が未開封のヘミングウェイのレントゲン写真を送ってくれた。コストカット穴はあった!

 拙者はペン芯がプラスティック製なのがイヤで、ペン芯をエボナイト製にし、ペン先もBBに変えたのじゃが、その際にコストカット穴の無い物に変えていたので、コストカット穴の有無を確かめようがなかった・・・・・これですっきりした。


これまでの調整記事

2006-12-09   Pelikan 1935 Malachit Green F 
2006-12-06   Pelikan 1931 Toledo B  
2006-12-02   Montblanc No.252 OBBB 
2006-11-29   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
2006-11-08   Montblanc No.149 ペン先裏のロジウム鍍金   
2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
2006-10-28   Montblanc 1970年代 No.146 ああ無残! 
2006-10-25   Montblanc 1980年代前半 No.146 B   
2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
2006-10-14   Senator  President  B 
2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04   OMAS パラゴン BB   
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB  
2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック
Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(5) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
未開封ヘミングウェイのレントゲン写真が手に入った!
【続きを読む】をクリックされたし。真相は如何に?
Posted by pelikan_1931 at 2006年12月15日 06:39
浦島しゃん

デュマが下品にならないのはインク窓が無いからではないかな。
Pelikan M800の軸にインク窓を付けると下品になるのと同じじゃ。

WAGNERでいろんな万年筆を書き比べていると、自分の好みが変わっていくようですぞ。

プラチナカーボンは【インク引力】強く、インクを紙に引っ張り出す力が強い。それがヌラヌラの原因じゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2006年12月14日 21:11
デュマのペン芯にはそんな弱点があったのですか。
師匠からいただいたデュマ、インクを変えたらヌラヌラ感が変わってしまいました。
やはりカーボンブラックインクは、滑らかに書けますね。
それに比べて極黒は、フローが細いかな。

ヌラヌラの書き味、私はまだまだ好きなのです。
シャラシャラも好きですけど、まだまだ私はヌラヌラ派かな。

デュマは軸が派手ですが、画伯言うところによれば、「これだけやって下品になっていないのは凄いよ」という寸評に、私も同感なのであります。
Posted by 浦島 at 2006年12月14日 17:10
紅しゃん

書き味の追求を隠れ蓑にせっせと本数を増やしていた時代もありましたな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2006年12月14日 04:58
デュマやヘミングウェイだけでなく、
メディチまでもペン先を拝んだことのある
師匠に改めて敬意をーー

万年筆の全てが『書き味』を追求するための対象というのが
本当に素晴らしいと思います。
Posted by 紅 at 2006年12月13日 23:35