解説【萬年筆と科學】 その12
金ペンと鉄ペンの違いを説明した【第十ニ章】
最初に二種類の手書きの文章を見せ、鉄ペンで書いた文字か、金ペンで書いた文字か当てよ!という問いがある。これが理解出来ない者は【まず持って金ペンを談ずる資格の無い者とせねばならない】。拙者はまったく判別できなかった・・・
鉄ペンは四角形に研ぐので、エッジの立った字になるが、金ペンは七角形に研ぐので、エッジがぼやけて見えるというのが見分けのポイントじゃ。
それでは何故金ペンは七角形に研ぐのか?これはかなり長い間疑問だったのだが、ついに秘密が解き明かされた。
★イリジウムと金はお互いに溶け合って接合しているのではない
★イリジウムと14金は融点がまったく違う。イリジウムがはるかに高い
★14金が溶けてイリジウムを抱擁しているにすぎない
★ポロリと落ちない為には接合面を広くする必要がある
★字幅に関係の無い上方へ向けて面積を延ばす
★紙側は紙当たりを良くするために丸みを付ける
これによって七角形の研ぎになるわけ・・・知らなかった。昔の万年筆には、無意味にイリジウムの背中側が盛り上がって、尖っているものが多かった。仕上げに手を抜いているのだろうと考えていたが、接合力を強めるための策だったとはな。拙者はせっせと盛り上がりを削っていたわぃ。今考えれば恐ろしい事じゃ。
渡部氏は七角形の研ぎに関して【大切なイリジウムを保護する為には止むを得ない事であります】と書いてある。どうやら七角形の研ぎが好きではないようじゃ。事実、四角形に研いだ鉄ペンの筆跡の方がはるかに綺麗だった。
ここから渡部氏の熱弁が始まる。
★金ペンでも四角に研げば鉄ペンと同じ字も書ける
★スタッブのごとく四角に研いで太字を書かせる研ぎ方もある
★その場合、七角形の研ぎに比べて紙当たりは犠牲になる
★毛筆の運筆は立体的で複雑
★ペンの筆法は平面的で単純
★ペンで言えば、弾力の柔らかいペンより硬いペンのほうが運筆は容易
★能率良く運筆する為には弾力の硬いペン先が適する!
★硬いペンで、柔らかいペンの筆跡を出すのがスタッブやオブリーク
そして最後に、当時のペン習字教本が鉄ペンを前提として作られている事を嘆いている。【鉄ペンのペン習字を金ペンで習うことは、毛筆の永字八法をペンで習うのと同じくらいの時代錯誤。実務としての習字は、金ペンで習うべきじゃ!】とな。
今と違って、万年筆はノスタルジックな筆記具ではなく、時代の最先端の高生産性筆記具だった。従って如何に能率的に運筆が出来、書き味も良いかが追求されていた・・・渡部氏の力説にまったく迷いが無いのに心を打たれた。
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Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(11)│
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情報提供
らすとるむしゃん
新しき、良き時代はロボットの進化とともに、すぐそこまで来ようとしている。我々の没後100年くらいでな。
それまでに模範となる研ぎを残しておく必要があるな。
師匠。
有り難う御座いました。師匠の説明で納得できました。
上面を丸く研ぐより、三角に近い鈍角で削ってしかも仕上げなし・・・このほうが作業者の腕の優劣が出にくいのは確かです。
こんなところにも生産効率を最も重視した渡部さんのアイデアが生かされているんですね!!。大いに納得です。スッキリしました。
細長イリジウムの師匠の解説にも大いに納得です。
古きよき時代とはよく言ったものですね!!。
今どきのイリジュ−ムは生産効率(悪く云えば手抜き)の賜物という事のようです。でも、それに対して全く責める気持ちはありません、あくまでも企業活動ですから。
細長イリジウムは大きな玉イリジウムから研ぎだすわけじゃから、かなり研ぎに工数がかかっている。
従って万年筆の価格が高く、人件費が安い時代でしか出来ない研ぎじゃな。
らすとるむしゃん
拙者もなぜ上面を研ぐのか意味がわからなかった・・・
でさっき気付いたのじゃが・・・見栄えの向上では?
イリジウムは取り付けた段階では、月の表面のクレーターのような表面をしている。これを研がないと商品にならないが、いかに時間をかけないで効率よく、しかもイリジウム・ポロリをさせないためには?
と考えた結果が7角研ぎなのではないかな?
上面を丸研ぎにするには研ぎ師の腕の差が出やすいが、角度をつけるほど腕前の差が出ないからな。
298しゃん おひさしぶり!
万年筆を使う人は字が上手・・・とはいえないなぁ・・・
字が上手な人は万年筆で書いても上手
下手な人は万年筆で書くと下手さをカバーできる・・・かも
ところで、7角研ぎは53Rの時代迄で、その後のスーパー80や100の時代にはその研ぎ方は見られません。しかし、この時代の研ぎ方も惚れ惚れするようなものでして・・・イリジュ−ムが細長く研ぎ出されていてルーペで見るとワクワクしてしまいます。きっとエリートの時代までこのような研ぎ方であったと思います。
これはパイロットが万年筆をどんなに酷使してイリジュ−ムが減っても当初よりの細い筆跡が変わらないようにと配慮した結果ではないかと考えました。
こんばんは。
私も鉄ペンで書いた物か金ペンで書いた物か全然判りませんでしたので・・・
ペン先を論ずる資格すらありませんが、どうしても納得が得られないことがあります。7角研ぎの件ですが・・・これはペン先をCTスキャンして断層撮影した場合に断面が7角形になっているということだと思います。イリジュ−ムの保護であればむしろ上面の2角は削らない方が良いと考えます。下方の5角は紙当りのため仕方が無いのですが・・。それで、私の推理では当時の万年筆の持ち角度はかなり立ったもので、しかも細く書ける事に価値が有ったのだと思いました。でなければ・・わざわざ上面の2角を削ぎ落とす必要は無いものと考えました。
>当時のペン習字教本が鉄ペンを前提として作られている事を嘆いている.
そー言えば・・・ 万年筆を前提にした習字教本は私も見たことない気がしますねぇ 今もつけペンを使ってる写真を使ってたり、ボールペン習字はありますけど・・ 万年筆使ってる人は字がうまい人だろうということなんですかねぇ?? (^。^)
京都和文化研究所しゃん、M764しゃん
読むたびに新しいことが発見できる名著ですな。
師匠
解説ありがとうございます。一人で読むのとは理解度が格段に違いますね。読んではいるのですが、案外頭の中では整理されてないんですよね。渡部氏は毛筆等、他の筆記具も織り交ぜて多面的に解説されるので奥行きがあり、物凄い説得力があります。これからも何度も読みたいと思わせる資料です。
pelikan_1931 殿
非常に難解な箇所 非常に解り易く有難うございます。
いつも悩んで ・・頭抱えてました。
ハースッキリ!!