2007年01月04日

解説【萬年筆と科學】　その１４

金ペンのヨリを詳説した【第十四章】

　第十四章は７頁。比較的枚数の少ない章じゃ。しかもそのうち４頁半を【並木常務の短歌（この章最後の頁）】のイントロ説明に費やしている。【ヨリ】の話は２頁半。しかし、これが本質を突いている。箇条書きで４行に凝縮されたものが総括で、これを知れば調整の極意がわかる。

　拙者が体験的にやっていた事が、1928年の段階では既に理論として【パイロットタイムス】に連載されていたわけじゃ。ペン先を研がないでお客を満足させる方法として渡部氏がまとめた４行とは・・・

★【ヨリ】は弾力が 硬く なるだけ 弱く せよ
★【ヨリ】は弾力が 軟く なるだけ 強く せよ
★【ヨリ】は 太字 になるだけ 弱く せよ
★【ヨリ】は 細字 になるだけ 強く せよ

　細字のペン先でインクが出すぎると細く書けないと不満が出る。太字のペン先でインクが出ないと掠れてしまう。インクの粘度の大小によってもインクの出に違いが出る。

　赤インクと黒インクとブルーブラックインクとでは粘度が違うので、インクフローも変わってくる。店頭でお客様の使うインクに合わせて【ヨリ】を調整して差し上げれば、何ダースものペンを試筆させたあげくに逃げられることは無く、３本のペンでもお客を征服出来る！

　上記は販売店の店主にとって非常に魅力的な言葉であろう。お客が無尽蔵にいる時代においては、売上げは接客時間に反比例する。いかに接客時間を短くするかが売上げ向上の極意じゃ。

　拙者のペンクリでは、一本の調整に最低でも20分、１時間以上かかることも珍しくない。従ってWAGNERの【表定例会】では８時間のうち、準備と片付けでの１時間を除いて、正味７時間で多くても10本の調整が限度。ところがプロのペンクリではその何倍もの調整をされている。接客時間を短くしてもお客を満足させる極意を持っているからじゃろう。まるでイリュージョンの世界！

　そのイリュージョンを販売店の店主にやらせる事によって、販売店だけではなくパイロットも潤い、お客様も満足するという理屈。その為には、パイロットが平塚工場で開催している講習会に参加しなされ！というのが渡部氏のメッセージじゃ。

　和田常務の短歌とは・・・・

　議論より　実を行え　なまけ武士　国の大事を　よそに見る馬鹿

　いくら理屈を学んでも【ヨリ】を調整する手腕は付かない。幾度と無く実物にぶつかって、悩み苦しみ、わからないところは先達に聞き、精進しなければ極意は会得出来ないということじゃ。

【補足】

�｜椴呂僚世蕕�いペンならば運筆微動によるポンプ作用が働くのでスリットは詰めてよい
��硬いペンには運筆微動が働かないのでスリット先端を拡げ気味にする
�９鼎ぅ撻鵑離ぅ鵐�フローは毛細管現象のみに頼るのでスリットは先細りが必須
�ど�圧の強い人ほど豊かなインクフローを体験できる

　WAGNERでは、いままでは【筆圧が高い】ということは【萬年筆に対する知的レベルが低い】と見下されているようなところがあった。ところが筆圧が強い人こそが万年筆を科学し、その特徴を使いきっている【萬年筆に対する知的レベルが極めて高い】人であったわけじゃ！

　【筆圧低すぎるんじゃないの？まだまだ萬年筆がわかってないなぁ】というセリフが流行するかも？

　拙者もこれから高筆圧化の訓練をせねば！


解説【萬年筆と科學】　その１３ 　
解説【萬年筆と科學】　その１２　 
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Posted by pelikan_1931 at 12:12│Comments(6)│ このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック │情報提供 
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この記事へのコメント
京都和文化研究所 しゃん

柔らかいペンは筆圧が極端に低くても自由自在に楽しめるが、豪腕ニブの場合にはある程度筆圧無いとインクフローと線の太さを楽しめないのは事実じゃ・・・残念ながら。

ただしやわやわのペン先を使うのに強筆圧は拷問に近い。

一番はおっしゃるとおり、使うほうがペンの個性に合わせてやれば、いつでも楽しめるわけじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月05日 04:17
らすとるむしゃん

たしかにな。ゲルインキボールペンも、ローラーボールも、サインペンもない時代には、インク補給しないで長時間書けるだけで良かったのかもしれない。

Vintage物は調整無しでは使わないが、調整すれば現代物よりも書き味が良くなるものも多い。

古の素材に、現代の調整技術・・・でも、本来は現在の素材が良くならねばな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月05日 04:13
5
ﾑﾑﾑﾑ･･ﾑ
よく解りますが 【少し疑問】
私個人の場合　仕事場 まったく萬年筆に 気ずかいせず 私はもっぱら跳ね返りのある ﾌﾟﾗﾁﾅﾌﾟﾗﾁﾅ･149（現行）使用 そして自宅では 非常に柔らかいONOTO　Ｎ号･ｳォｰﾀｰﾏﾝ(初期)５０番代･256・254クラス使用 万年筆に対しての知的ﾚﾍﾞﾙでなく その時間･瞬間の 個人的ゆとりﾚﾍﾞﾙでは? ･･････････ 当時は日常の仕事使用が 最重点 現代は仕事＋ゆとりの両方では 無いでしょうか? 渡部氏の言っている事はよく解りますが･･･ 今を(2007年)切るとどうでしょうか? 少し疑問有ります｡
Posted by 京都和文化研究所 at 2007年01月04日 21:58
渡部氏の時代には馬尻は無かったと推測します。
馬尻は近年の高級ブランド万年筆が手抜きをした結果の産物と思っています。
それは高級万年筆の書き味を演出するために横方向の引っ掛かりをなくすために取られた手段であり、本来あそこまでスリットの内側を研削する必要が無いのに安易に機械加工された結果ではないかと思っています。また、ビンテージ物を数多く入手してその書き味を試してみると良い書き味の物は見当たりません。一様に多少のザラツキを感じます、ですから万年筆に今ほどの滑らかさを要求していなかったのでは？と感じています。むしろエッジの存在を意識できるのが万年筆の書き味であると考えていたのではないかと想像したりもします。
Posted by らすとるむ at 2007年01月04日 20:38
らすとるむしゃん

渡部氏の考察には、書き出しのインク掠れ対策がまだ出ていない。従って馬尻を否定する表現も（読んだところまでには）無い。

筆圧と書き出し掠れの因果関係が提示できると面白い。
現代の調整はインクフローとの闘いではなく、書き出し掠れとの闘いじゃからな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月04日 19:18
師匠・・・大変嬉しいです！！

私を含めた隠れ高筆圧者はもう日陰者ではなく堂々と高筆圧筆記の悦楽を論じることが出来るなんて！！・・・・とは、少しオーバーですが！！
以前より低角度、低筆圧には疑問を感じておりました。
万年筆本来の性能を発揮させるには現代のペン先では無理があるかもしれませんが、筆圧がポンプ作用を生み出すことを師匠みずからガラスへの筆記で確認なさった。万年筆の使い方は画一的なものではなく、もっと自由であるべきだと考えておりましたので今回の記述は大変に意義のあることだと思いました。
今後はさらに持ち角度についてのご考察を期待しております。
Posted by らすとるむ at 2007年01月04日 18:35
 
 
 
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