今回の調整依頼はPelikanのアテネ。M600系の都市シリーズじゃ。
実は拙者はPelikanのM600系に過去二度泣かされている。M600のブルーのデモンストレータも都市シリーズのニューヨークもキャップが尻軸にピッタリと装着出来なかった。取り付けてもグラグラしてキャップを後ろに嵌めて使えない!ということで、あちこちで悪口を言い、人にも決して奨めなかった。ところが、このアテネはピッタリと嵌ってビクともしない。M600どころかPelikanの回転式キャップの過去10年間で比較しても、シャルロッテ、マルガリータの純銀モデルに匹敵する装着感じゃ。
M600は個体差が大きいと言えよう。これからは書き味だけではなく、キャップの装着感をも購入時にチェックした方が良い。筆記時にキャップを嵌めない人もチェックしてはどうかな?後日、お嫁に出す時の売り文句になること請け合いじゃ。 【試し書き】だけではなく、【試し嵌め】が流行するかも?
それにしてもアテネは美しい。何をモチーフにしたのかは知らないが、オリンポスの丘からエーゲ海の夕焼けを臨んでいるようじゃ。人気があるのもわかるな。拙者はM600系ということでスキップしたが・・・・残念じゃ! この個体は既に調整されている。見事な調整でインクフロー抜群、紙当たりもヌルヌルで文句のつけようも無い状態じゃ。ただし依頼者は書き出しでインクが掠れるケースが多いという。筆記作業を凝視すると確かに書きにくそう。その角度で拙者が試してみると、まったくインクが紙に付かない。ただ一端しインクが出だせば気持ちよく書き続けられる。
通常、こういう状態は馬尻状態で発生するのじゃが、この個体の調整は完璧で馬尻状態ではない。ではなぜ掠れるのか?おそらくは調整者が設定した許容範囲を超えて筆記角度が変化したのであろう。筆記角度の変化は自分ではなかなか気付かないもの。拙者も角度が安定するまでは、同じ万年筆に対して何度も調整を施した・・・左捻りが知らないうちに右捻りになっていた。持っている角度は同じに見えるのに、ペンの倒し方が変化したからじゃ。しかし・・・・
今回の依頼人は筆記角度が不安定ではない。ということは・・・筆記角度確認時と実際の筆記時とで筆記角度が異なっていた可能性がある。たとえば筆記角度確認時のテーブルの位置が低かった・・・・従ってその状態では完璧な調整も、自宅や職場のテーブルで書くとペンが寝ることによって、イリジウムの左側だけが紙に当たってしまう・・・と想定した上で調整を施すことにした。
この状態を治すには、ペン先に段差をつけて上から見て左側のイリジウムを多少上に上げること。もう一つは、筆記角度でイリジウムを研ぎなおす事じゃ。
今回の依頼者は普通の人よりはペンを寝かす上、左に捻って筆記する。ペン先左のイリジウムが紙に接する角度は60度以下。この場合は上記2つを同時に施す必要がある。
上の画像に見るとおり、ペン先を上から見た場合の調整は完璧。スリットの開きも硬いM600のニブに対しては完璧じゃ。 またイリジウム右側の調整も完璧。実に美しい研ぎじゃ。ペン先とペン芯の位置関係も拙者の好みと一緒!とするならば、ペン先左側の研ぎだけ行えばよい。
一応ソケットからペン先を外して確認してみたが、どこにも問題は無かった。ただし、キャップを胴体の模様と合わせて後ろに装着した場合、クリップの直線上にペン先のハート穴が来ない。これは非常に気になるので、位置を変えておいた。大きなお世話だったかもしれないがな・・・ これが調整の終わったイリジウム左側の画像じゃ。ほんの少し斜めに削り、あとはイリジウムの左右に段差をつけて調整を施した。
研ぐ(削る)に際しては、最初に320番の耐水ペーパー、次に2000番の耐水、5000番の耐水、エッジを10000番のラッピングフィルム、金磨き布でのバフ掛け・・・の順で行った。
最後に5000番の耐水で多少ザラ付かせるのがコツ。さらにいえば、太字調整で癖がきつい場合には、最初の320番で研いだ際の傷を残しておくのも重要。これが書き出しのインク切れを少なくしてくれる。ま、実際に書いてもらわねば理屈は理解してもらえまい。さらに言えば、自分で調整してみないと極意はわかるまい。
和田常務の短歌のとおり
議論より 実を行え なまけ武士 ・・・
じゃ。
WAGNER裏定例会の調整実習で、このあたりは全て伝授しよう。ぜひ実践あれ!