2007年01月10日

水曜日の調整報告 【 Faber-Castell スネークウッド M 】

2007-01-10 01 今回の依頼品はFaber-Castellのスネークウッド。2003年の “The Pen of the Year” じゃ。ブラジルや南アジアが産地の高級木材を使ったもの。古くはプラチナ70周年記念の万年筆。最近ではOMASの軸で使われている。木材としては非常に綺麗な物で、眺めていて飽きない。

 依頼者は長い間このスネークウッドを捜していて、やっと入手したそうじゃが、オークションで落して、手元に到着するころには、既に執着心は消えていたとか。究極のコレクターとはそういうもので、実は収集する事が趣味であり、対象がたまたま万年筆であっただけかもしれない。【世界の万年筆】の著者として有名な、日本の万年筆コレクターの草分け【中園宏】氏は、万年筆コレクションの後、和時計のコレクションを経て、現在は相撲関係のコレクションをなさっているが、そのどれもが【至高】のレベルらしい。新しい分野に入る際には前のコレクションはすっぱりと処分するのがコツだとか。過去に未練を残しては新たな分野には挑戦出来ないのじゃろう。

 中園氏はWAGNERの会員で、たまに会合にいらっしゃるが、その枯れた風貌に似合わない若々しい情熱を秘めた方じゃ。今回の依頼者も中園氏にコレクション道を教わっているらしい。【コレクションには柱が必要】というのが珠玉の名言なのだとか。

2007-01-10 02 全体で70g以上あり、【文鎮倶楽部】の入会資格をかろうじてクリアーしているスネークウッド。キャップが重く、キャップを後ろに挿して筆記する人は少ない。拙者は少数派じゃがな。

  “The Pen of the Year”のペン先&ソケットの設計はPelikan M800とまったく同じじゃ。互換性もある。多少でも柔らかい書き味が好みの人は、【pf】マークつきのM800のペン先ユニットを取り付けると絶品の筆記感を提供してくれる。

 スネークウッドに元々装着されているニブは、現行のM800と素材や性質は同じと考えられるが、刻印が派手にあるだけ硬さが増している。ペン先の刻印は無い方が柔らかいらしい。

 この個体はペン先の先端の詰まりは無いものの、先端がかなり背開き状態になっていた。最近のM800にありがちな症状じゃ。背開き状態ではガリガリと紙を削るような書き味になる危険性が強いので、M以上に太いペン先を選択する場合には、出来るだけ調整をして販売する店で購入するのが良い。巡回型のペンクリでは背開きを直すような調整は、時間の関係で出来ないと思われるからな。実際やっているのを見た記憶は無い。

2007-01-10 03 背開きを直すには左のようにペン先とソケットとペン芯の状態に分解してから、ペン先の根元と先端をツボ押し棒で拡げることで直す。またペン芯に真直ぐに乗せてもイリジウムの段差が出る場合がある。ペン先のゆがみのほかにペン芯のねじれの可能性もあるので、熱湯につけて柔らかくして、ねじれを少しずつ直す業も必要じゃ。

 
ツボ押し棒の作業はやりすぎると、ペン先を正面から見て、カモメの翼のように波打って、スリットの位置が低くなるケースも発生する。この状態になると、上からペン先を見ると非常に気持ち悪い!やりすぎは禁物。実際に何度か失敗し、苦労して直してこそ身に付く業じゃ。試してみなされ。

2007-01-10 04 今回の個体は、いくつかの不良状況が複合的に備わったペン先ユニットじゃったが、約30分ほどで調整は終了した。慣れているのでな。ちょちょいのちょいじゃ。調整がうまくいけば現行のM800用のMは【pf】付きのMよりは良い!というプロの方もいる。調整を施して売る店の品に【酷い背開き】は無い。可能であれば検品の厳しい店、調整を施して売る店で購入するのが良かろうな。EFやFならば多少の背開きは問題にならない。

 最近、新品万年筆のペン先を見ると、Montblancの方が基本に忠実に調整されている。Pelikanは調整が乱れている。少なくとも日本市場で販売するのであれば、日本の消費者のニーズを満たすような微調整をしてから出荷した方が良いと思う。Pelikanファンとしては寂しい状況じゃな。


【 今回の調整+執筆時間:2.5時間 】 うち、執筆時間がほとんどじゃった


これまでの調整記事

2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
2006-12-30   セーラー プロフェッシュナルギア 水色 
2006-12-27   Sheaffer コノソアール 赤軸 OB  
2006-12-16   Sheaffer インペリアル 777 金キャップ & 青軸 
2006-12-13   Montblanc デュマ 
2006-12-09   Pelikan 1935 Malachit Green F 
2006-12-06   Pelikan 1931 Toledo B  
2006-12-02   Montblanc No.252 OBBB 
2006-11-29   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
2006-11-08   Montblanc No.149 ペン先裏のロジウム鍍金   
2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
2006-10-28   Montblanc 1970年代 No.146 ああ無残! 
2006-10-25   Montblanc 1980年代前半 No.146 B   
2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
2006-10-14   Senator  President  B 
2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04   OMAS パラゴン BB   
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB  
2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(12) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
monolith6しゃん

この件は、WAGNERでも話題になっている。ブラインドキャップ式だからコンバーター組込みでは?ともおもうのじゃが、吸入量は1.2ccで、通常のM800と変わらん。レントゲン撮ればわかるのじゃが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月11日 07:22
centenaire26さん

師匠調整後のスネークウッドまた試し書きさせてください!
いつになるかな・・・。
Posted by t_stone at 2007年01月11日 02:13
 ファーバー・カステルは、ペン・オブ・ザ・イヤーだけが吸入式になっています。見たところ首軸にインク窓があるようですが、この吸入式は、本物の吸入式なんでしょうか。それともコンヴァータを仕込んだだけの見せ掛けの吸入式ですか?
Posted by monolith6 at 2007年01月11日 01:51
centenaire26しゃん

おお、既に交換して使っておられたか!
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月10日 23:45
最北のaki しゃん

どの時代の軸色が良いかは、歴史が評価を下してくれるじゃろうが、背開きのニブは言い訳が立たないですなぁ。
M以上はやはり調整前提の店で無いとこわいですな。あるいはWAGNERに持ち込んでいただくか・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月10日 23:42
d'Artagnanしゃん

と、軽々しくいったが、いったいどのタイプかな?
可能なら写真をおくってくだされ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月10日 23:37
d'Artagnanしゃん

首軸を左に捻れば、内部を洗浄できますぞ。おそらくは多少あわてる事になるでしょうが。

何かあったら連絡を!ぐっどらっく!
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月10日 23:35
セドリーしゃん

ありがとしゃん。本文直しときました。
中屋の創立は1924年、セーラーは1911年となっている。万年筆を扱い始めたのは同じような時期じゃが、創立は10年以上遅れているな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年01月10日 23:28
M800PF、モノトーン銀鍍金Nibが
使用状態も見た目も似合う今日この頃!!

Merci beaucoup.
Grazie mille.
Danke schon.
Posted by centenaire26 at 2007年01月10日 23:06
素人目に見ても現行品の調整はモンブランの方が上だと思います。
先日購入したM800は出荷ミスで最初Mニブがきたのですが、背開きだったため、当初発注したFニブに替えてもらいました。

ペリカンは縞の軸色を含めて、前の方が良かったのかもしれませんね。
Posted by 最北のaki at 2007年01月10日 18:55
スネークウッドは、去年ネットショップで普通に(定価の2割引で)買うことができました。もちろん新品でBニブでした。幸運だったんですね、感謝せねば。
「コレクションには柱が必要」とのこと、私は木のペンを中心にコレクションしています。鉛筆に通じる懐かしいような、手の感触が好きなんです。難しいところも多いです。ウォーターマンのブライヤーはインク付けてしまって取れません。
ご伝授いただきたいのですが、文中にあるOMASのスネークウッドなのですが、分解して洗浄したいのですが、どうも勝手がわかりません。ばらす手順をぜひ教えていただきたいのですが。
Posted by d'Artagnan at 2007年01月10日 11:12
スネークウッドを使ったプラチナは80周年ではなく70周年では?
Posted by セドリー at 2007年01月10日 09:10