万年筆評価の部屋:解説【萬年筆と科學】　その１６

金ペンの弾力の奥深さを教えてくれる【第十六章】

　第十五章では【弾力問題の研究を要する分野】として以下の８項目をあげた。

　①金ペン地金、すなわち、１４金地金の研究
　②加工法の研究
　③金ペン厚みと巾の研究
　④金ペンの湾曲半径の研究
　⑤ハート穴の位置の研究
　⑥ペン先のヨリの適否の研究
　⑦ベンド（お辞儀）の研究
　⑧軸と金ペンとの釣合の研究

　そして、①に特化して詳細説明を施していた。第十六章では、残りの７項目のうち、既に以前に説明した⑥を除いた６項目についての説明がある。

②加工法の研究
　この加工法に関しては、後の章で詳細説明をするとして、ほんの数行しか記載されていない。ところがこれが示唆に富んでいる。【出来上がったペン先のエラを力いっぱいつまみつぶして見ると、最後にポキリと折れる程度の地金は金ペンとして適度な焼入れが出来ているが、グニャリと曲がったままで折れないような金ペンは地金の焼入れが不足しているなまくら】と書いてある。拙者も日ごろ、素材の柔らかいペン先ほど弾力が無いのに憤りを感じていたので、わが意を得たり！と金ペン先を３本握りつぶしてみた。【セーラーの２１金大型ニブ】【パイロットの１４金５号ペン】【欧州製で最も焼きが強そうなアウロラの１８金製大型ニブ】・・・結果は全てがぐにゃりじゃった！

　どうやら、1926年当時と現代とでは、加工法に対する考え方が変わったのじゃろうな。いずれにせよ、現代のペン先の弾力の無さは、全てがなまくら化していることが原因じゃろうな。

③金ペン厚みと巾の研究
　この章は力学の世界じゃ。図を引用しないとわかりにくいが、努力してみよう。理想の弾力とは、【曲げのモーメント：筆圧×穂先の長さ】とそれに対する【抵抗モーメント：曲がらまいとする力】が【穂先：先端からハート穴】の全ての部分で釣り合っている状態。

　その為に、ペン先の幅はハート穴に近づくに従って広くなり、ペン先の厚みは薄くなる。ペン先の厚みは、幅よりも厚みによって左右される事が数式からも導き出されるので、厚みの管理は1000分の1㎜単位の誤差まで管理する必要がある！

　厚みをトンカチで叩いて調整していた時代のペン先には、当然職人の癖やその時々の誤差が影響する。従って同じペン先なのに、一方はやたら柔らかいのに、一方は強い弾力がある・・・なんて事は発生しうるわけじゃな。またローラーで圧延する時代になっても、素材の状態や、日々の温度変化による僅かな誤差が、弾力に甚大な影響を与えていた時代もあった。No.149のペン先ですら、コストカットの時代になる前は弾力誤差が大きかったのも事実なのじゃ。

　ペン先の横斜面は放物線の形状であるべし！とも書いてある。これは初耳。二つの円形ローラーの間にペン先を入れて、円形の一部で研いでいる会社もある。ちなみにNo.149でも開高健モデル以外は放物線とはかけ離れた形状をしていると思うがな・・・

④金ペンの湾曲半径の研究
　ペン先の内側湾曲は、楕円形をなしている。この湾曲が強いほどゴツゴツした書き味になるが、弱すぎると頼りない書き味になり且つ筆圧による変形確率が高くなる。他のパラメーターとのバランスを試行錯誤していたのじゃろうな。しかし、現在のスーパーコンピュターを使えば、特定個人にとって最高の弾力を持つペン先も設計出来るはず。これを作ってくれる時代もあと200年以内には来るじゃろう。

⑤ハート穴の位置の研究
　ハート穴は大きすぎると弾力を弱め、細すぎると剛性を強めるのはわかりやすい。また位置は先端になるほど硬く、後ろにさがるほど柔らかい。そしてハート穴の本来の目的は【体裁！】とか。デザインの為という説には驚いた。要するにハート穴による弾力変更は鉄筆代わりの超硬ニブの場合以外は、他のパラメーターでカバー出来るということなのじゃろう。この他のハート穴の目的としては、空気穴や、切割の切れ目が奥まで広がらない為の防御にも使えるとのことじゃ。空気はハート穴を使わなくてもペン芯側から誘導通路をつければ導けるのでハート穴は必須ではないわけじゃな。

⑦ベンド（お辞儀）の研究
　ペナペナのペン先、たよりない書き味のペン先にベンドを付けると、弾力が生まれ変わったほど良くなるそうじゃ。渡部氏は日本で作られるペン先にベンドがつけてないのを残念がっている。ベンドを付けるとイリジウムの磨耗も経済的に行われるし、紙当たりも良く加工できるとか。

　Pelikan トレドの1980年代後半についていた18金一色ニブはヘロヘロで拙者に取っては最高のニブじゃが、これでは書けない人もいた。そこでベンドをつけてみると、ヘロヘロのニブに弾力が出て、多少の筆圧でも書けるように変わった。Pelikan 400NNが名品といわれるのは、このベンドのせいじゃろうな。Pilot 65あたりのペン度は最高じゃった。その後、Pilotはベンドを小さくしてしまったが、ベンドファンとしては残念じゃ。

⑧軸と金ペンとの釣合の研究
　当時の日本では、極太軸に小さなペン先をつけるのがはやっていたようだが、渡部氏は軸の太さと金ペンの大きさのバランスを取るようにと進言している。正確には記載してないが、大きくて重い軸に対しては、その重さに耐えられるだけの大きなペン先を使わないと、ペン先が負けてしまうのではないかな。

sakしゃん

最も脚光を浴びている分野に人材が集まる。
そして集まった人材に（若さにかかわらず）権限を与えてまかす！
ということが発展・進歩の源泉じゃ。

いつまでも過去の成功者が支配してはいかんのじゃ。
ただし、企業倫理に関しては別じゃがな。

今回も内容がかなり濃いですね。
自分が生まれる前に、たった1本の万年筆に対して
これほどまで研究されていたとは・・・
昔の方は本当にすごいですね。
このような形で私たちは拝見できて、本当に幸せだと思います

めだかしゃん

Pliot 65時代のベンドを無くす時、かなり葛藤があったと思われる。
筆記者の筆圧が強いとベンドがあると線幅に変化が出すぎたのじゃろうな。
従って弾力を減らし、ボールペンのような筆跡にしたのじゃろう。

二右衛門半さんに同じ。
時間をかけて読みたい内容ですね。
でも、ベンドはわかります。
65のベンドは確かに良い。PELIKAN400も良いですね。
アレは、職人技なんでしょうね。

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万年筆評価の部屋

2007年01月18日

解説【萬年筆と科學】 その１６

解説【萬年筆と科學】　その１６