水曜日の調整報告 【 Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 】
先週末から火曜日の午前中まで、母死亡にともなう諸手続きで実家へもどっていた。最後に母が使っていた万年筆を捜したら【Pelikan M200 ダークブルー】が出てきた。以前調整して渡しておいた2本の万年筆【エラボー、カスタムレガンス】は出てこなかった。気前の良い母のことなので友人にあげたのかもしれん。
このM200青軸は、拙者が小野万年堂で買ってきて試し書きしている時に母に没収されたもの。未調整のままで良いというので渡しておいた。下の透明軸は拙者のB付き。透明軸を見れば構造がわかりやすいので分解時の参考にはなる。
こちらは遺品のM200青を分解したところ。分解には尻軸をはずす装置が必要じゃが、これは久保工業所のお弟子さん達が発注する際に混ぜてもらって入手した。
ものの見事に外れたが、良く見るとピストン機構はほんの少しの接着剤で胴軸に接着されている。透明軸では接着剤は使われておらず、摩擦だけで固定されている。M200青は多少手抜きがあるようじゃな。
こちらはM200青のペン先ユニット。母親が何故このペン先だけを残したのか良くわかった。浸けペンの書き味に似ているのじゃ。母は拙者が小さいころから1983年までは、手紙や家計簿には浸けペンを使っていた。引き出しを整理していたら当時のGペンが未使用で多量に出てきた。これらと書き味が似ている。母にとってはインクに浸けなくても良いGペンの位置付けだったのかもしれない。
ペン先ユニットを分解してみるとペン芯に金粉が附着している。金鍍金が剥れたものじゃ。鍍金ペンでは一般的な現象。放置しておくと、その周囲にインクカスが溜まりペン芯を溶かしていくので爪で削ぎ落とす必要がある。
こちらはペン先の裏側。やはりペン芯と密着している部分は鍍金が剥れている。本来は再鍍金するところじゃが、遺品ということでオリジナルの状態をあまりに変えてしまう鍍金という作業は控えることにした。スリットを多少拡げ、インクフローの改善を試みて拙者が使うことにした。
これが軸にペン先ユニットを取り付けた画像じゃ。上から三番目の画像ではペン芯がエラ部分からはみ出していたが、今回はペン芯を下げてその現象を防いだ。スリットの状態も完璧!それにしても現在のペリカンよりもペン先の斜面のスロープが急で多少抉れてもいる。このあたりがタッチが柔らかいペリスケ【F】の秘密かもしれない。
さっそくインクを入れて書いてみる。ペン先の研ぎは一切していない。スリット調整と段差調整のみ。それでも適度な摩擦音を立てながら、何のひっかかりもなく書ける。母はこの筆記音に惚れたのだとわかった。
左のペリスケのBニブでの筆記と比べてみると、明らかにタッチが軽やかじゃ。ペリスケが特に細字が好きな層に受けたのは、この鍍金ペンの【F】の書き味だったのだと改めて納得した。
安い万年筆で、LAMY サファリを超える書き味を持つものはほとど無いが、このM200青に装填された【F】のペン先は明らかにサファリを凌駕していると感じた!
母はペリカンのブルーを入れて使っていたが、拙者はこれにモンブランのブルーを入れて使うことにした。面倒この上ない名義書換等の膨大な作業のあいまに、ふと息を吐くことが出来た数時間じゃった。
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(10)│
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万年筆
ペリスケの尻軸を外して洗浄したいために検索していたらこちらのブログにヒットしたのですが、外し方についてもう少し詳しく教えていただくことはできますか?
先程分解についてお尋ねしたものです。
このM200デモンストレーター(透明軸)の事でございます。
ryuしゃん
【後世のためにも・・・】
もちろんそのつもりじゃ!応援ヨロシク!
しかし、そろそろ後継者を捜さねば・・・
はじめまして。いつも楽しみに拝見しております。
数ヶ月前にM205ぺリスケを購入して万年筆デビューしました。
ピストン上部に水滴がついているのがどうしても我慢できなくて、
ペン先側から緩衝材のティッシュを入れて、細目の割り箸で恐る恐る突いて分解したのですが、お話の道具があればもっと楽にできるのでしょうね。
おっしゃるとおり、摩擦ではまっているだけなので、何度もやると緩くなってしまいそうですね。気をつけます。
ただ、こうやって自分でメンテしてやることで、ますます愛着が沸いてきました。
それにしても、本当に興味深い記事ばかりで読み応えがあります。
後世のためにも、是非万年筆に対するすばらしい知識を記録し続けて下さい。
ryu しゃん
【尻軸はずし】は繰り返すと、すぐに緩くなるので注意じゃよ。
今回掲載された分解写真を参考にさせていただいてうまく分解して
掃除をすることが出来ました。
monolith6しゃん
インクフローが悪いのはおっしゃるとおり。
鍍金溶かしに関しては、全ての酸性インクがやってしまいそうじゃな。
おお、それは大変に有難いお言葉!今後とも、リペア・ツールときたら、私のことを思い出して下さいね。
それにしても、ペリカンのブルーは金メッキを剥がしてしまう力を持つインクだったようで。元々このブルーは他社のブルーに比してもフローが非常に悪く、青インクとしては相当問題があると思っておりましたが、メッキまで剥がしてしまうようであるとすると、もはや使用禁止ですね。
monolith6 しゃん
今回の工具に関しては、設計変更が必要だと考えている。
それが実現されたあかつきにはぜひ!
>分解には尻軸をはずす装置が必要じゃが、これは久保工業所のお弟子さん達が発注する際に混ぜてもらって入手した。
あぁ、私がこの機会を知っていたら、費用にもよりけりですが、是非私も混ぜて貰いたいと思ったことでしょう。
私、最近では万年筆よりも修理工具の方に関心が移りつつありまして...。再度注文の機会があれば是非!