2007年02月05日

月曜日の調整報告 【 Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整 】

2007-02-05 012007-02-05 022007-02-05 03 今回は本格的な遠隔調整じゃ。依頼者は宮崎県在住。いけにえは【Montblanc No.146 EF】。症状はインクフローが悪くて筆圧をかけないとインクの色が薄くなってしまうという。これをなんとかEFの限界までの字幅にして欲しいとのこと。

 画像は上段が書き出し、下段が書いている途中の状態じゃ。これだけの写真と、この万年筆で書いた手紙があれば完璧。筆記スピードも書いている手紙を見ればわかる。

 ただし便箋の紙が高級すぎて万年筆にあっていない。硬くて表面がざらついていて滲まない紙は、筆には適しているが万年筆では書き味は最低となる。

 依頼者の言うとおり、かなりインクフローが悪い。一番右の下側画像を見ると、筆記中はほぼ90度ペンが左に捻られている。はてこの角度で調整してよいものか悩む。数多くの万年筆にさわり、また、人の万年筆を触ったり、書く様子を見たりしていると、自然と捻りは少なくなり、最後には、むしろ右に捻るくらいに万年筆の持ち方は変わっていく。いま捻りに合わせて調整すると、将来もう一度調整が必要・・・じゃが、その時はまた遠隔調整すればイイヤ!と割り切って現在の筆記角度に合わせる事にした。

2007-02-05 04 このNo.146はほんの数ヶ月しか作られていないはずじゃ。外からはわからないがな。素通しインク窓で、ラッパ型の首軸先端。いかり肩クリップといえば、丸善120周年記念のNo.146【18K】と同じ年代。金属製のピストンガイド付で重心はかなり後ろにある。ペン先のEFであればそれほど硬いペン先ではない。ただし依頼者は相当筆圧がかかる持ち方をしている。インクが出ないのが原因もあるじゃろうが、調整後もこの持ち方では字幅が太くなりすぎるかもしれんな。

 EFの調整はフっと紙にペンを置いたとたん紙にインクが付くようにする。筆圧ゼロでも書けるようにするのがEF調整のコツ。調整後の万年筆を愛用すれば、筆圧は低くなっていくはずじゃ。

2007-02-05 05 ペン先を上から見ると、スリットはガチガチに詰まっている。また両端に美しい?エボ焼けが出来ている。表面でこの状態なら、ペン先の裏は相当酷いエボ焼けのはず。インクフローが悪い原因はこの2つじゃな。

 それにしても美しい曲面のペン先形状!太字はどうしてもポッチャリとした形状になるが、EFの形状は美しく、弾力がありそうに見える。

2007-02-05 06 こちらは横から見た画像。二段式のエボナイト製ペン芯付き。ペン先とペン芯との間の隙間も無く、良い状態じゃ。ペン芯と首軸の位置も最高!

 ただしペン先はもう少し前の出した方が良い。一つ上の画像では【14K MONTBLANC】という文字が見えているが、その下の【585】の文字まで見えるのがEFではちょうど良い位置じゃ。


2007-02-05 07 こちらが二段式エボペン芯の画像。途中に白い部分があるが、ここは水分が乾燥して接着剤のようになって首軸内部と密着していた跡じゃ。この部分をインクや空気が通るわけではないが、見てくれが悪いので綺麗に清掃しておいた。このまま放置すると徐々に接着力が強まり、ペン芯が動かなくなる可能性もある。今回もペン芯を後ろからたたき出すのに、相当力が必要だったからな。

2007-02-05 08 左の画像は、上が清掃前、下が清掃後の画像じゃ。表も裏もエボ焼けが完全に除去されているのがわかるじゃろう。表面のエボ焼けは簡単に除去出来るが、ペン先裏のエボ焼けは金磨き布で力いっぱい擦らないと取れないので根気が必要!

 このNo.146の製造期間がほんの数ヶ月のはずと言ったのは、このペン先のせいじゃ。なんとコストカット後のペン先!

 エボペン芯+素通しインク窓+14Kシングルカラーペン先のモデルから、最初に素通しインク窓が消え、次に14Kバイカラー(コストカット無し)ペン先になり、プラスティック製ペン芯になると同時にコストカット穴付き14Kペン先になったはず。従ってエボペン芯とコストカット穴付き14Kペン先は見たことが無い。オリジナルだとすれば、移行期にほんの数ヶ月だけ作られたものとしか考えられない。新たな発見かも?

2007-02-05 09 こちらは調整後のペン先を首軸に取り付けた状態。首軸からこれくらいペン先が出ているのがEFでは正しいのじゃ。エボ焼けが消えたのがビジュアル的には残念じゃが、インクフローは格段に良くなった。またスリットを開いているので、ここでもインクフローは劇的に改良されている。

2007-02-05 10 横から見ると、イリジウムからペン芯先端までの距離は拡大しているが、ペン芯が首軸に入っている位置は変わっていない。ペン芯も前に出すとペン先をHoldする力が弱くなるので好ましくない。

 実際にインクを入れて書いてみると、筆圧ゼロでもドクドクとインクが出るが、それほど太い筆跡にはならない。EFらしさを残しながらコンコンと湧き出てくる。EFなのでヌルヌルは無理じゃが、筆圧を下げればスラスラの書き味は十分堪能できるじゃろう。


 調整戻りの確認に数日を費やした後、依頼者の下へ帰っていくことになっている。はて、依頼者の感想が楽しみじゃ!


【 今回の調整+執筆時間:4時間 】 調整1h 執筆3h

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万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(15) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
年末大バザールのご案内、ありがとうございます。12月の一時帰国のスケジュールでは参加することができないのですが、海外在住でも会員になることができるのでしたら、登録方法を是非ご案内くださいませ。現在ベトナム在住ですが、現地レポートや寄稿等はできそうです。(もちろん、スケジュールが合うようでしたら、定例会にも行きたいです。)よろしくお願いいたします。
Posted by happy128 at 2012年12月03日 12:17
happy128 さん

調整はWAGNER会員に限るというルールがあるので、12月29日の年末大バザールにおいでいただければ調整しますよ。
Posted by pelikan_1931 at 2012年12月02日 17:22
初めまして、こちらのブログを頼りに、万年筆の勉強をさせて頂いておりますものです。今年から万年筆デビューをした際、こちらのブログでペリカン400nnを褒めていらっしゃったのを参考に第1本目は、400NNの茶軸を購入。その後、ペリカン600のルビーレッドの色に惹かれ、2本目。そして3本目は146のビンテージを購入しました。この3本目は、(2007年2月5日にお書きになられた月曜日の調整報告で描写していらっしゃいますモンブラン146に非常に似た特徴です。(W-GERMANY刻印、二段式エボナイト製芯、素通しインク窓、いかり肩クリップ、14KバイカラーEFペン先)セーラーの青墨を使っているのですが、使いだしてすぐにインクが出なくなってしまいました。海外に駐在中で、今年の12月に一時帰国を予定しています。不躾ではございますが、万年筆の調整、あるいはアドバイスををお願いすること、可能でしょうか。何卒、ご検討お願いいたします。
Posted by happy128 at 2012年12月02日 15:53
色即是空 しゃん

M800は外側の縞模様の中に丈夫な内側の筒があり、そこをピストンが上下している。従って内側は非常に丈夫じゃ。

そもそもプラチナカーボンが危険という噂自体が信じられんがな。最も安全なインクじゃよ。ロットリング洗浄液とペアで持っていれば。

ただしカーボンインクは決して乾きは早くないですぞ。EF程度なら問題にならないじゃろうが、3Bクラスでは吸取紙が必須じゃな。縦書きには・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月10日 10:59
はじめまして、毎日楽しく拝見しております。今プラチナのカーボンインクの話が上がっていますが、カーボンインクはスーベレーンM800に入れても大丈夫なものなのでしょうか?大学の研究室が卒論は手書きという条件があり黒インクを探しています(文学部の一部では未だに論文の手書きがあったりします)。この時期ということもあってかペリカンの純正は今一渇きが悪く縦書きの原稿用紙には使いにくい気がします。よろしければ縦書きでの使用に耐える黒インクをご教示いただけますでしょうか?
Posted by 色即是空 at 2007年02月09日 22:44
dodomenしゃん

お楽しみに!
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月07日 13:24
ご教示誠に有難う御座いました。安心致しました。早速インク購入したいと思います。早く調整頂いた書き味を堪能させて頂きたいと思っています。
有難う御座いました。
Posted by dodomen at 2007年02月07日 08:38
dodomenしゃん

プラチナカーボンはブルーブラックと比べれば安全です。固まって解けなくなる事は無い。
また赤系インクのようにインク窓を着色したり、溶かしたりすることも無い。

固まっても、ロットリング洗浄液を吸入すれば、カーボンは全て溶けます。日常的に使うのなら最高です。
このblogの読者にも利用者は多いですぞ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月06日 13:14
ご教示誠に有難う御座います。プラチナ・カーボンインクを使ってみようと思います。カーボンインクは固まりやすかったりするのでしょうか?使用上の注意点ありましたらお手数ですがご教示をお願いいたします。
Posted by dodomen at 2007年02月06日 09:16
dodomen しゃん

monolith6しゃんの実験のように、Montblancの黒インクはエボ焼けを促進するようじゃ。

もし頻繁にこの万年筆を使うのであれば、プラチナのカーボンインクを使ってみなされ。

非常に安全で、書き出しでの掠れが無く、書き味を30%ほど良くし、水で流れない!

弱点は拭いてもペン先にいつまでもインクが残っているということじゃが、筆記には影響が無い。このインク残りが書き出しが良い証拠なのでな。

セーラーの極黒ではなく、プラチナ・カーボンインクですぞ。特性はまったく違うでな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月06日 08:20
>Montblancの黒とエボペン芯つきのNo.149の関係が一番エボ焼けしやすいというのはmonolith6しゃんの実験結果だったかな?

 その通りです。但し、純正モンブラン・インクとの組み合わせの結果です。他社のインクでは試していないので、他にもエボ焼けをもっと促進するものはあり得ます。
Posted by monolith6 at 2007年02月06日 07:48
dodomen しゃん

これを本格的に使い始めると、ほかにも万年筆が欲しくなること請け合いじゃ。

次は国産を買いなされ・・・業界発展のためにな
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月06日 05:07
monolith6 しゃん

表はなぞるくらいで綺麗になるので、こちらは梅干で代用できるかも?
裏面はこびりついているので梅干ではだめでしょうな。

自宅にとても食べられないようなすっぱい梅干(20年物)がありますので試して見ましょう。

ところで、Montblancの黒とエボペン芯つきのNo.149の関係が一番エボ焼けしやすいというのはmonolith6しゃんの実験結果だったかな?
昔、だれかから聞いた記憶があるのじゃが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月06日 05:01
本日のプログ拝見し吃驚致しました。何と私の手と万年筆が載っていたものですから。興奮覚めやりません。お忙しい中、遠隔調整頂き本当に有難う御座います。自分のペンがこの様な構造になっており、またその詳細な時代(製造)背景も詳説頂き本当に勉強になりました。叔父が選んでくれ、母が購入してくれた大事な万年筆ですので、調整頂いた書き味をかみ締めながら一生大事に使いたいと思います。調整のご相談の際に当方の不手際でご迷惑お掛けいたしました事を改めてお詫び申し上げます。手元に届くのを首を長くしてお待ちしています、早く文字を書きたいです。
Posted by dodomen at 2007年02月05日 23:57
 エボ焼けなどで金を磨く場合、梅干で金の黒ずみが落とせると新聞か何かで読んだ記憶があります。これですと、金磨きクロスと異なって、研磨という状態にならず、刻印が薄くなったりしないので良いかと思われます(私自身はまだ試したことはありませんが)。やはり柔らかい梅肉の方が良いかと想像しますが、もしかして梅干の漬け汁?でも十分に綺麗になるかもです。
Posted by monolith6 at 2007年02月05日 23:44