今回は本格的な遠隔調整じゃ。依頼者は宮崎県在住。いけにえは【Montblanc No.146 EF】。症状はインクフローが悪くて筆圧をかけないとインクの色が薄くなってしまうという。これをなんとかEFの限界までの字幅にして欲しいとのこと。
画像は上段が書き出し、下段が書いている途中の状態じゃ。これだけの写真と、この万年筆で書いた手紙があれば完璧。筆記スピードも書いている手紙を見ればわかる。
ただし便箋の紙が高級すぎて万年筆にあっていない。硬くて表面がざらついていて滲まない紙は、筆には適しているが万年筆では書き味は最低となる。
依頼者の言うとおり、かなりインクフローが悪い。一番右の下側画像を見ると、筆記中はほぼ90度ペンが左に捻られている。はてこの角度で調整してよいものか悩む。数多くの万年筆にさわり、また、人の万年筆を触ったり、書く様子を見たりしていると、自然と捻りは少なくなり、最後には、むしろ右に捻るくらいに万年筆の持ち方は変わっていく。いま捻りに合わせて調整すると、将来もう一度調整が必要・・・じゃが、その時はまた遠隔調整すればイイヤ!と割り切って現在の筆記角度に合わせる事にした。 このNo.146はほんの数ヶ月しか作られていないはずじゃ。外からはわからないがな。素通しインク窓で、ラッパ型の首軸先端。いかり肩クリップといえば、丸善120周年記念のNo.146【18K】と同じ年代。金属製のピストンガイド付で重心はかなり後ろにある。ペン先のEFであればそれほど硬いペン先ではない。ただし依頼者は相当筆圧がかかる持ち方をしている。インクが出ないのが原因もあるじゃろうが、調整後もこの持ち方では字幅が太くなりすぎるかもしれんな。
EFの調整はフっと紙にペンを置いたとたん紙にインクが付くようにする。筆圧ゼロでも書けるようにするのがEF調整のコツ。調整後の万年筆を愛用すれば、筆圧は低くなっていくはずじゃ。 ペン先を上から見ると、スリットはガチガチに詰まっている。また両端に美しい?エボ焼けが出来ている。表面でこの状態なら、ペン先の裏は相当酷いエボ焼けのはず。インクフローが悪い原因はこの2つじゃな。
それにしても美しい曲面のペン先形状!太字はどうしてもポッチャリとした形状になるが、EFの形状は美しく、弾力がありそうに見える。 こちらは横から見た画像。二段式のエボナイト製ペン芯付き。ペン先とペン芯との間の隙間も無く、良い状態じゃ。ペン芯と首軸の位置も最高!
ただしペン先はもう少し前の出した方が良い。一つ上の画像では【14K MONTBLANC】という文字が見えているが、その下の【585】の文字まで見えるのがEFではちょうど良い位置じゃ。 こちらが二段式エボペン芯の画像。途中に白い部分があるが、ここは水分が乾燥して接着剤のようになって首軸内部と密着していた跡じゃ。この部分をインクや空気が通るわけではないが、見てくれが悪いので綺麗に清掃しておいた。このまま放置すると徐々に接着力が強まり、ペン芯が動かなくなる可能性もある。今回もペン芯を後ろからたたき出すのに、相当力が必要だったからな。
左の画像は、上が清掃前、下が清掃後の画像じゃ。表も裏もエボ焼けが完全に除去されているのがわかるじゃろう。表面のエボ焼けは簡単に除去出来るが、ペン先裏のエボ焼けは金磨き布で力いっぱい擦らないと取れないので根気が必要!
このNo.146の製造期間がほんの数ヶ月のはずと言ったのは、このペン先のせいじゃ。なんとコストカット後のペン先!
エボペン芯+素通しインク窓+14Kシングルカラーペン先のモデルから、最初に素通しインク窓が消え、次に14Kバイカラー(コストカット無し)ペン先になり、プラスティック製ペン芯になると同時にコストカット穴付き14Kペン先になったはず。従ってエボペン芯とコストカット穴付き14Kペン先は見たことが無い。オリジナルだとすれば、移行期にほんの数ヶ月だけ作られたものとしか考えられない。新たな発見かも? こちらは調整後のペン先を首軸に取り付けた状態。首軸からこれくらいペン先が出ているのがEFでは正しいのじゃ。エボ焼けが消えたのがビジュアル的には残念じゃが、インクフローは格段に良くなった。またスリットを開いているので、ここでもインクフローは劇的に改良されている。
横から見ると、イリジウムからペン芯先端までの距離は拡大しているが、ペン芯が首軸に入っている位置は変わっていない。ペン芯も前に出すとペン先をHoldする力が弱くなるので好ましくない。
実際にインクを入れて書いてみると、筆圧ゼロでもドクドクとインクが出るが、それほど太い筆跡にはならない。EFらしさを残しながらコンコンと湧き出てくる。EFなのでヌルヌルは無理じゃが、筆圧を下げればスラスラの書き味は十分堪能できるじゃろう。
調整戻りの確認に数日を費やした後、依頼者の下へ帰っていくことになっている。はて、依頼者の感想が楽しみじゃ!