今回の依頼品は廃盤になってしまったM710。軸にはD5/46 JBとの刻印がある。この職人さんが5番目に彫った刻印のせいか、なかなか上手な図柄じゃ。一時不細工なペリカン顔コンテストがあったが、このペリカンは良い目の形をしている。
尻軸の刻印は【PELIKAN GERMANY】となっている。M700では【PELIKAN W.GERMANY】よりも【PELIKAN GERMANY】の方が数が少ないが、M710ではどうなのかな?
今回の依頼はペン先調整だけではない。ペン先、クリップ、クリップリング、キャップリングを銀色に鍍金する事、並びにインクフローの改善じゃ。
キャップリングには【925】と刻印してあるから純銀のはずでは? 実は純銀の上にプラチナを鍍金して、銀が曇らないようにしている。依頼者にとってはこれが【余計なお世話】で、軸とマッチした曇りが欲しいそうじゃ。
それにあわせてペン先も銀一色に!という依頼だが、ペン先に銀を鍍金すると困った事もある。書き味はヌメヌメになって良いのだが、2~3日使わないで放置すると、インクで表面が激しく曇る。それを除去するには銀鍍金を落さねばならないのじゃ。これは鍍金セットを持っていても面倒!そこでペン先はロジウム鍍金、その他は銀厚塗り鍍金することにした。 まずはオリジナル状態のペン先。首軸に入っている長さはちょうど良い。【EF】の刻印がちょうど見える程度が最高じゃ。ただペン芯がやや前よりなのでコンマ数ミリ後退させたほうが良い。それにしてもペン先スリットの密着ぶりは凄いな!これでは満足にインクは出ないだろう。
こちらは、ソケットを外した状態のペン先。ソケットと密着していたニブの根元にインクカスのようなものが附着している。実はペン先の裏側にもプラチナ鍍金がされている。ロジウム鍍金するとインクフローが良くなるのだが、プラチナ鍍金でも良いのかな?
こちらは鍍金前のペン先。根元を清掃し、ペン先のスリットを多少拡大した状態。表面をかなり金磨き布で磨いたが、プラチナ鍍金はまったく取れない。かなり丈夫な鍍金。この図では先端の状態がわからないなぁ・・・
ということで、これが先端の超拡大図じゃ。スキャナー専用機であればこれくらいの拡大は朝飯前。先端部がごく僅かに離れているのがわかろう。このスリット間隔を調整するのに非常に苦労した。このペン先は非常に硬い。ガチガチじゃ。ペン先のみならずイリジウムも非常に硬い。ラッピングフィルムでは最初歯が立たないほどじゃ。
前の時代の18Cが柔らかすぎたので、この時代に硬くなり、次世代で普通になったのかもしれない。拙者のM710は普通の時代のニブ付きなので調整は楽だったな。 これがロジウム鍍金後のペン先じゃ。実際はもう少し黒っぽく見える。先端はやや丸め、依頼者の筆記角度に合わせて調整を施した。硬いイリジウムのEFというのは調整が非常に難しい。
その昔は、ほとんど失敗していた。なにしろ書き味が良くなるポイントが無いので、そのままペーパーを当てても無理なのじゃ。それを悟るまで何十本も潰した・・・ 今でも非常に気を使う。硬いイリジウムのEFのインクフローを良くすることは出来る。また引っ掛りを無くす事も出来る。しかし柔らかいタッチには出来ない。やはり多少磨耗が早くてもイリジウムは柔らかいほうが良いなぁ。 こちらはキャップの金属部分に銀厚塗り鍍金を施したあとの全体像。既にところどころ銀が曇っている。これが本格的に曇ってくればしっとりとした軸になるじゃろうな。ただし全体のしっとり感を出すには、トレドの彫刻部分の角もある程度丸まってこないとな・・・指に彫刻が引っ掛らないくらい丸まれば良い感じになるじゃろう。そちらは依頼者の作業じゃ。