2007年02月07日

水曜日の調整報告 【 Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー 】

2007-02-07 01 今回の依頼品は廃盤になってしまったM710。軸にはD5/46 JBとの刻印がある。この職人さんが5番目に彫った刻印のせいか、なかなか上手な図柄じゃ。一時不細工なペリカン顔コンテストがあったが、このペリカンは良い目の形をしている。

 尻軸の刻印は【PELIKAN GERMANY】となっている。M700では【PELIKAN W.GERMANY】よりも【PELIKAN GERMANY】の方が数が少ないが、M710ではどうなのかな?

 今回の依頼はペン先調整だけではない。ペン先、クリップ、クリップリング、キャップリングを銀色に鍍金する事、並びにインクフローの改善じゃ。

 キャップリングには【925】と刻印してあるから純銀のはずでは? 実は純銀の上にプラチナを鍍金して、銀が曇らないようにしている。依頼者にとってはこれが【余計なお世話】で、軸とマッチした曇りが欲しいそうじゃ。

 それにあわせてペン先も銀一色に!という依頼だが、ペン先に銀を鍍金すると困った事もある。書き味はヌメヌメになって良いのだが、2~3日使わないで放置すると、インクで表面が激しく曇る。それを除去するには銀鍍金を落さねばならないのじゃ。これは鍍金セットを持っていても面倒!そこでペン先はロジウム鍍金、その他は銀厚塗り鍍金することにした。


2007-02-07 02 まずはオリジナル状態のペン先。首軸に入っている長さはちょうど良い。【EF】の刻印がちょうど見える程度が最高じゃ。ただペン芯がやや前よりなのでコンマ数ミリ後退させたほうが良い。それにしてもペン先スリットの密着ぶりは凄いな!これでは満足にインクは出ないだろう。

2007-02-07 03 こちらは、ソケットを外した状態のペン先。ソケットと密着していたニブの根元にインクカスのようなものが附着している。実はペン先の裏側にもプラチナ鍍金がされている。ロジウム鍍金するとインクフローが良くなるのだが、プラチナ鍍金でも良いのかな?

2007-02-07 04 こちらは鍍金前のペン先。根元を清掃し、ペン先のスリットを多少拡大した状態。表面をかなり金磨き布で磨いたが、プラチナ鍍金はまったく取れない。かなり丈夫な鍍金。この図では先端の状態がわからないなぁ・・・

2007-02-07 05 ということで、これが先端の超拡大図じゃ。スキャナー専用機であればこれくらいの拡大は朝飯前。先端部がごく僅かに離れているのがわかろう。このスリット間隔を調整するのに非常に苦労した。このペン先は非常に硬い。ガチガチじゃ。ペン先のみならずイリジウムも非常に硬い。ラッピングフィルムでは最初歯が立たないほどじゃ。

 前の時代の18Cが柔らかすぎたので、この時代に硬くなり、次世代で普通になったのかもしれない。拙者のM710は普通の時代のニブ付きなので調整は楽だったな。

2007-02-07 06 これがロジウム鍍金後のペン先じゃ。実際はもう少し黒っぽく見える。先端はやや丸め、依頼者の筆記角度に合わせて調整を施した。硬いイリジウムのEFというのは調整が非常に難しい。

 その昔は、ほとんど失敗していた。なにしろ書き味が良くなるポイントが無いので、そのままペーパーを当てても無理なのじゃ。それを悟るまで何十本も潰した・・・ 今でも非常に気を使う。硬いイリジウムのEFのインクフローを良くすることは出来る。また引っ掛りを無くす事も出来る。しかし柔らかいタッチには出来ない。やはり多少磨耗が早くてもイリジウムは柔らかいほうが良いなぁ。

2007-02-07 07
 こちらはキャップの金属部分に銀厚塗り鍍金を施したあとの全体像。既にところどころ銀が曇っている。これが本格的に曇ってくればしっとりとした軸になるじゃろうな。ただし全体のしっとり感を出すには、トレドの彫刻部分の角もある程度丸まってこないとな・・・指に彫刻が引っ掛らないくらい丸まれば良い感じになるじゃろう。そちらは依頼者の作業じゃ。


【 今回の調整+執筆時間:4時間 】 調整3h 執筆1h

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万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
b787しゃん

調整したペン先は、その後は書き味が落ちていくので、またおかしくなったら微調整をしましょうぞ!
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月12日 23:28
5
ありがたく受け取り、今じっくり自宅で拝見しております。

まず見た目ですが、M710はこのカラーバランスでなければならないと思える具合で、とても心が落ち着き、リッチな気分に浸れます。最初からこれでしたっけ?前のイメージは吹っ飛びます。もっとしっくりくるのが楽しみです。

充分楽しんだ後、はやる気持ちを抑えつつ書いてみます。調整依頼前は、「これはガリ版の鉄筆だ」と、自分に言い聞かせながら、がりがり書いておりましたが、今はたっぷりのインクフローで、紙に触れるだけでシャラーッと書けます。私の持ち方の所と、もっと思いっきり寝かせた所に、紙に吸い付く感じで、ヌメッとする所を感じます。その中間も引っかかるのではなく、シャラーッという感じです。裏に返して、気持ちよく、さらに細く書ける所があるように思います。

慌てず、ゆっくり、じっくり楽しませていただきます。どうもありがとうございました。
Posted by b787 at 2007年02月12日 18:58
b787しゃん

胴体滑らか化については、京都和文化研究所しゃんの意見も聞いてみましょう。磨きの専門家ですからな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月07日 13:25
5
ありがとうございます。お気軽に依頼をしてしまった、不躾者です。少しお話しただけですのに、私の思いをそこまで詳細に見抜いていただいたとは、感激しました。ペン先、相当固く感じ、ぴっちりひっついているとは思っておりましたが…、かなり苦労をお掛けし、申しわけございませんでした。今後私が担当する作業も、これも又指導の元きっちり受け継ぎたいと考えております。よろしくお願いします。
Posted by b787 at 2007年02月07日 07:31