これがXFやFのニブであれば【しっとりとした書き味】は端から無理じゃが、Mであれば何とかなる。依頼品はかろうじてM程度のイリジウムを持つため、不可能ではない。
これは調整前の首軸部分を上から見た図じゃ。ニブ先端が詰まっている。これではインクフローが悪く、筆圧を上げなければ満足する濃さの字は得られない。ところが筆圧を上げると切り割り部分のエッジが紙に当たりやすくなり書き味が劣化する。すなわち第一に考えるべきはインクフローの改善じゃ。
こちらは調整前のペン先を横から見た図。先端は綺麗に丸められているが、依頼者の筆記角度と合致していない。また、ペンの背中では字が書けない。これではペン先の魅力を半分程度しか楽しめない。筆記角度を依頼者に合わせるには、依頼者の筆記角度で1200番の耐水ペーパーの上で8の字旋回を4通り繰り返す。本人にやってもらうのが一番だが、恐がって筆圧がかからないのと、正しい8の字旋回がまず出来ない。そこで20文字ほど耐水ペーパーの上で住所などを書いてもらい、ついた傷の向きにあわせて拙者がゴリゴリと削るわけじゃ。この作業は心臓に悪いので、出来るだけ依頼者に見せて楽しむようにしている。心臓の弱い方にはご遠慮いただいた方がよかろうな。
これが調整前のイリジウム部分だけを拡大したもの。腹のカーブをもう少し削り、腹から臍のあたりの下側エッジをコードバン(馬尻)になるくらいまで削る。接紙する部分をコードバンにしてはおしまいじゃが、紙に当たる機会が極めて少ない部分のエッジは極力丸めたほうが良い。さらにはイリジウムの頭頂部をスタブのように研ぐと、書き味がネットリとしてくる。もちろん裏書きの際の感触も飛躍的に上がるのじゃ。
こちらは調整後のペン先。上から2番目の画像と比較するとわかるが、イリジウム先端の形状が変わっている。これがスタブ風の研ぎで、最近はこれに凝っている。どのメーカーのイリジウムに適用しても書き味が飛躍的に上がるので機会があったらお試しあれ。ただしM以上、出来ればBの大きさのイリジウムでなければ効果は出ない。
これが調整後のイリジウムを横から見た図。これが研ぎを見るのには一番良かろう。一見すると調整前のイリジウムと区別はつかないかもしれない。しかし、実際には円から平行四辺形に研ぎだしたイメージなのじゃ。実際にインクを入れて書いてみると・・・Gペンで書いていたような書き味が消え、ニュルニュルという筆記音を残しながら横細縦太の字が紙に記される。まさに極楽じゃ!