渡部氏も悩んだ金ペン先の尻尾・・・【第二十章】
いままでの【萬年筆と科學】では、渡部氏が知っている知識を販売店の人々に披露し、彼らを啓蒙するというスタンスの記事であったが、この第二十章については、若干ニュアンスが違っていて面白い。渡部氏らも種々の噂を元に、右往左往する事もある・・・というのが紹介されている。非常に親近感の持てる章じゃ。
まず最初に、万年筆のレントゲン写真が紹介されている。レントゲンが発売されたのが1895年であるから、この時点でまだ34年しか経っていない。当時海外の万年筆業界でもレントゲン写真は発表されていなかったようじゃ。だが渡部氏は、それが見たくてしようがなかった。ある機会にPilot万年筆2本のレントゲン写真を撮ってもらい、それを冷静に分析している。クリップの取り付け部分の製造に無理があったことがわかる内容になっているが、それを隠す様子も無い。科学者としての興奮が冷静さを失わせたのかもしれない。
現在では静的なレントゲンではなく、人間ドックの放射線投射機械のようなものを使ってインクフローなどを動画として保存・分析しているのではないかな?人間ドックの放射線投射機械にはズーム機能も付いているので、ある微細部分を拡大して動画で見る事も出来るらしい。ペン芯の設計などには欠かせない機械だと思うが・・・使っているのかなぁ・・・
高校の漢文の授業で、先生が【無用の用】について説明してくれた場面を今でも覚えている。高校生活で記憶に残っている授業は3つしかない。英語、生物そして漢文じゃ。40年近く経っても覚えている。ボケが近くなると、最近の事は忘れ、昔の記憶だけ濃くなるというが・・・やはりそうかな・・・
【地面を歩く際、道は足跡の部分だけあればよい。しかしそれでは歩きにくい。足跡以外の部分が無用の用じゃ】と教えてくれた。一般には【料理用のボールは、ステンレスで出来ているが、重要なのはステンレスで包まれた空間であり、そこがあるから水を入れることが出来る。一見必要のなさそうな空間こそがボールというものに取っては重要。この空間を無用の用という】のように語られているが、拙者には足跡理論の方がわかりやすかった。
その【無用の用】かと渡部氏らを右往左往させたのが、ムーアの万年筆に付いている尻尾【矢尻】だったらしい。
左の図の【A】の部分がそれで、ムーアの万年筆にだけ付いていたらしい。ムーアの金ペン崇拝者から【ムーアの金ペンは弾力が良いばかりでなく、インクフローが実に良いが、それは金ペンの尾端に突起部が設けてあるためではあるまいか?調べて欲しい】と乞われた事から研究喜劇が始まった・・・・・
まずはウォーターマンのペン先を調べたところ、尻尾はついていないが、インクフローは良い。尻尾があればインクフローが良いとしても、逆は真ならず。【親父はワシより歳が上】は間違いない事実だが、【歳が上なら皆親父】というはずは無い・・・【雨の降る日は天気が悪い】が【天気の悪い日は必ず雨が降る】わけではない・・・等々かなりウケを狙っている。内容をおもしろくして、本気で文章を読んでもらおうと努力しているようじゃ。
今まで内容が難しすぎて読み飛ばしている人が多い!・・・などという情報がどこかから入ってきて、よりおもしろおかしく書かねばと渡部氏が考えたのかもしれない。
ある日、渡部氏が実際のウォーターマンをいじっていると、尻尾の部分を切り取った形跡を発見!すぐに多くのウォーターマンのペン先を調べたところ、全てに尻尾を切った後を発見し色めきたった!
少なくとも【尻尾】を切り取っているということは、インクフロー向上が目的の尻尾ではない事だけは確かじゃ。
そこから渡部氏らは海外の文献をしらみつぶしに当たったり、ウォーターマン社を紹介する活動写真を隅から隅まで調べ上げたり、米国の知人へ手紙で問い合わせたり・・・と大騒ぎをするのだが、いっこうにわからない。そのまま数年が過ぎた。
ある時、アメリカの会社へ金ペンを成形する機械を発注し、一日千秋の思いでその機械が到着するのを待っていた。忘れもしない大正12年12月15日にその機械が到着し、試運転をしてみたそうじゃ。
その時に【尻尾】の疑問も全て解決した。それは金ペンを湾曲形状に成形する時、型の中で金ペンが曲がらぬよう正常な位置を何時までも保たせるための出っ張りだったのじゃ。この機械で成形すると出来上がりが良く、金ペンに狂いが出ないので切割りも真直ぐに出来、不良率が飛びぬけて下がるという好結果を得たらしい。
わかってしまえばありまえだが、実は奥が深い【工夫】は今でも発表されている。技術に疎くても獲得できる特許【ビジネスモデル特許】。皆さんもトライしてはどうかな?
解説【萬年筆と科學】 その19
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