万年筆評価の部屋:解説【萬年筆と科學】　その２１

三種の特殊ペンを詳説した・・・【第二十一章】

　今回の章が紹介された時点で、１５種類のペン先を紹介した章【第１０章】より足掛け２年の歳月が流れている。そして1929年の１月に満を持して【ポスティング】【マニフォールド】【コース】が発売され、発売後約４ヶ月の販売成績は想像以上だったらしい。従って渡部氏も自信満々である。改めてここで３つの特殊ペンの説明をすることによって、販売店主を啓蒙しようという魂胆が見える。

　1929年といえば、Pelikanが初めて万年筆を作った年。パイロットは既に数歩先を行っていた事がわかる。ペン先についてはな。Pelikanは当時ペン先はMontblancに委託生産していたのじゃ。

①ポスティング【極細・簿記用。硬い弾力で先端丸め】
　ポスティングは別名アカウンタントと呼ぶこともあるが、元々は【日記簿から総勘定元帳に転記する】ことを意味するらしい。従ってゴシック体の読みやすい字をゆっくりとしたスピードで刻むように書くはずじゃ。

　ただしPilotのポスティングは細字にもかかわらず書き味が良いので、学生の筆記用として愛好されていたらしい。すなわち、将来は水生ボールペンに取ってかわられる運命にあった書き味のペン先じゃ。

　穂先は長く、イリジウムは極細にもかかわらず丸研ぎで、地金は分厚く出来ている。弾力は穂先が長いにもかかわらず非常に硬く、線の幅は一定している。硬すぎるかなぁ・・・と思ってインクをつけて書いてみると、ペン先が紙に触れると同時にするすると字が書ける。またインクフローも極めてよいとか。簿記用ならむしろインクフローは悪いほうが良いので、狙ったターゲットは一般用じゃな。細字好きの日本人に、硬い書き味のペンの書きやすさを教えるために出したものかもしれない。

　さすが渡部氏じゃ。なぜ極細なのにもかかわらずインクフローが良いのかの説明もしてある。ポスティングでは、ペン先の寄りを弱くしてインクの出を良くしてある。しかし穂先の長いペン先で寄りを弱くすれば、運筆微動が発生すると字幅が太くなってしまう。そこで地金を厚くして運筆微動を起こさなくしているのじゃ。

　逆に言えば、地金を薄くすれば両ベロONOTOのようにヘロヘロの書き味になる。戦前のONOTOやSwanなどの英国メーカーのペン先で柔らかいと評判のものはすべからく地金が薄い。らすとるむしゃんの【柔らか改造秘技】もペン先の裏を削って書き味を柔らかくするものじゃ。

②マニフォールド【中字・弾力極硬、カーボンコピー用】
　ここで渡部氏は面白い事実を明かしてくれた。当時の日本ではカーボン紙に書いた場合、オリジナルを当方が保存し、コピーを相手に送っていたらしい。現在のペリカン便で考えれば、コピー伝票を依頼者が受け取り、運送者がオリジナルを使うことになる。渡部氏は当時から、それは通信上の礼儀に反していると言っている。当時海外では逆だったらしい。翻って現在ではペリカン便ではオリジナルは依頼者にわたされ、運送者はコピーを用いる。当時の海外お流儀になったようじゃな。もっとも現在は伝票は依頼者が書くが、当時は依頼を受けた側が書いていたという違いはある。だからこそ依頼を受ける側がマニフォールドの万年筆を常用したわけじゃ。このあたり時代の変化がわかって面白い。

　マニフォールドは穂先が特に短く、中字で研ぎは極僅か馬尻化している。元々複写紙用なので、全体重をかけて書いてもびくともしないほど丈夫なペン先じゃ。Pelikanでこれにあたるのは、ハート穴が上下に二つあり、切割りがイリジウムに近い方の穴までしか入っていないもの。

　マニフォールドにしろ、ポスティングにしろ、それまでの【硬いペン先はインクの出が悪い】という常識を覆した製品だったようじゃ。ペン先の寄りを弱くするというのは、当時はかなり冒険だったのかな？　

③コース【縦と横の線が同じに書ける太字のペン】
　コース【Coarse】については、その意味をよく知らないで使っていたのだが、今回の渡部氏の説明でようやく理解できた。コースとは【ぶっきらぼう】という意味らしい。縦にも横にも同じ太さの、ぶっきらぼうな太字の線が書けるペン。【技巧を捨てたどっしりした男性的な線が書ける】というのが売りのようじゃ。

　コースのペン先も地金を厚くして弾力を硬くはするが、硬くなりすぎないようには調整しているらしい。現在のPilotのコースは大豆のような何処にも角が無いようなイリジウムに思えるが、当時のコースの研ぎは、紙に当たる面を斜めに切り落とすように研いだあとで、コーナーを丸めてある。すなわちセーラーのズームに近い研ぎじゃ。ただしズームはイリジウム先端を三角に研いであるが、コースでは四角のまま。

　初期の【たこ吉スペシャル】とか、初期の万年筆博士の【極太】がこれに近い。本来は筆記者の筆記角度に合わせて研ぐと最高なのだが、当時のコースは一般的な角度に研いで出荷していたようじゃ。そのころの反省もあってか、現在のコースは全面曲面の研ぎに近いと思う。拙者のコースは全て既に調整されているのでオリジナルの形状は忘れた・・・ので確証は無い。

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どーむしゃん

あくまでも当時のペン先としては・・・という細くは必要かもしれんな。
ただしあの肉厚は尋常ではない。
最近のウォーターマンは調整しだいで絶妙になりますぞ。ごく先端付近が柔らかいのが特徴なので。

とんこつしゃん

渡部氏が記載しているポンプ作用は、切割りが開いたり閉じたりする作用に関連して発生するものじゃ。そのほかについての記載はない。

よりの強さはイリジウム先端を上下にずらせばわかる。Ｘ字のようになれば、よりは強い。イリジウム先端が離れていれば寄りはゼロじゃ。

エリートのマニフォールドは持ってます。
でもそんなにメチャクチャ硬いって感じじゃないんですよね。
最近のウォーターマンあたりのペン先のほうがよっぽど硬い（笑）

毎日楽しく勉強させてもらっております。

1月４日のブログを読んだ時点では全く理解できていなかったのですが、最近は少しは判るようになっている気がしています。
いくつかの質問があります。
恐縮ですがご回答いただけると嬉しく思います。

ポンプ作用というのは、切割りが開いたり閉じたりする作用、と解釈してるのですが間違いないでしょうか。

筆圧をかけてペン先がたわんだ場合、ペン芯との隙間も変化するので、これも同様のポンプ作用と考えていいのでしょうか。

紙質がざらついていればポンプが働きやすいのでしょうか？

ヨリ（もしくは寄り）についてですが、ハート穴付近の切割りを広く、先端側を狭くして、この差の大きなものが「強い」、小さなものが「弱い」ということでしょうか？

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万年筆評価の部屋

2007年02月22日

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