この調整講座を始めてからK【クーゲル】の調整をするのは5本目かな?クーゲルはなかなか発見されるものではないが、何故かWAGNER会員はたくさん持っているようじゃ。
また最近ではNo.256の完全な姿を見ることも少ないが、これもWAGNERではよく見かける万年筆。今回の依頼品はNo.256のKOB。それとて調整講座では2本目。まだまだクーゲル神話は残っているようじゃな。 依頼品の状態は非常に綺麗ですばらしいのだが、ニブだけがまずい状態になっている。ペン先は詰まってはいないのだが酷い背開き状態で、左右の段差も大きい。このまま書いてもあちこちが引っ掛って書き難い。ちゃんとしたVintage Shopを通して入手すればこのあたりは100%調整済になっているのじゃが、オークションではえてしてこういうのに当たる確率が高い。
誰であろうが大切で手放せない万年筆をオークションに出すわけがない。気に入らないか、興味が無くなったものを出す。ということは完品であるケースはプロの出品においてしかあり得ない。しかも調整が出来ないプロでは素人と同じ。この見極めが大事じゃ。売り手がそのあたりをちゃんと表現出来るレベルにするには、オークションでどういう情報を開示すべきかの標準化がなされないとダメじゃろうな。 ペン先の調整状態はめちゃめちゃだが、このクーゲルは立派。こんなに派手な状態のクーゲルに出会ったのは初めてじゃ。画像ではうまく表現できてないが、まさにトサカというかサイの角というか・・・とにかく立派じゃ。まったくプロの手で調整されていないペン先の魅力はこういうところにある。元々どうだったのかを知りたくなった場合、調整したものしか見ていないとあらぬ妄想を膨らませてしまうことになる。このイリジウムも腹はすぐに削ってしまったので、この画像が見納めじゃ。
こちらにもう少し拡大した画像を提示しよう。いかがかな?
紙にあたる部分はまったくの球面なのでBにもかかわらず線は細い。また段差と背開きのせいで、ガリガリとした書き味になっている。かなり調整の余地が有りそうだが不安もある。No.256の背開きを完全に直すとペン先のスリットの所がカモメの翼のようになってしまう。それを直すには上面を削るしかない。そうするとペン先が柔らかくなりNo.256の特徴を消してしまう・・・ こちらがソケットに入った状態。No256はペン先とペン芯をゴム板でつまんで左に回せば左の状態で外せる。PelikanのMシリーズやAuroraと同じ方式じゃ。軸内の清掃には非常に便利。現行のNo.146やNo.149もネジで胴体にユニットを固定する方式なのだが、残念ながらネジ部分が糊で固められている。従ってピストン機構をはすして後ろからペン芯毎叩き出すことになる。何故このユニット方式をやめたのかな?
こちらがソケットから外した状態のペン先。根元がインクで汚れているがこれはすぐに清掃できる。問題は段差と背開きが更に大きくなったこと。ソケットに突っ込んでいたので、まだ段差が押さえられていたのだろう。
背開きについては完全に直せないが、上面を削らなくても良い程度にしておいた。あとは腹側の調整で背開きの影響を消してしまえば良い。 ということで研磨、調整が終わったのが左図じゃ。トサカは完全に残したままで、腹だけ削ってある。この削りもいつもどおり大胆じゃ。
320番の耐水ペーパーの上で筆圧をかけて40文字ほど書くと、イリジウムの20%程度が削り取られ、見事な斜面になる。これを1200番、2000番、5000番の耐水ペーパーで徐々に磨いた後で、金磨きクロスでバフかけし、最後に5000番で多少傷をつければ出来上がりじゃ。筆記角度を多少違えても引っ掛かりが無く、且つ、書き出しでインクが途絶えない位置を見つけるのが一番難しいじゃろうな。