2007年02月26日

月曜日の調整報告 【 Omas D-Day 18C-B 】

2007-02-26 01 今回の依頼品はOmas D-Day。日本販売時の名称は【オマス ノルマンディー上陸50周年記念】。ノルマンディ上陸作戦は史上最大の上陸作戦で300万人以上の兵士が参加した。D-Dayとはその上陸作戦の開始日【1944年6月6日】のこと。

 なんで伊太利亜の会社であるオマスがそんな万年筆を作ったのか不思議じゃ。伊太利亜は日独伊同盟の一国であり敗戦国。連合国側の上陸作戦記念万年筆を作るのは、広島が本拠地のセーラーが【原爆投下記念万年筆】を作るようなもの。伊太利亜も不思議な国じゃな。

 今回の依頼者は万年筆溺愛者ではない。日常的に一本の万年筆を使っている人にすぎない。拙者がD-Dayをプレゼントしたら、何と誕生日が6月6日ということで大変喜んでいただけた。

 依頼内容は【インクが出なくなった・・・漏れて手が汚れる】というもの。

2007-02-26 02 なるほど首軸からペン先までを見るとインクカスだらけじゃ。首軸内にインクが附着したままキャップの開け閉めを長期間繰り返すとこうなってしまう。

 昨年、一度水道で10分ほど洗浄してさしあげたのじゃが、すぐにこの状態に戻ったようじゃ。オマスのペン芯には溝が一本しかない。空気は上を通り、インクは下の狭いスリットを通る。ほかに空気が入る通路は無い。プラスティック製ペン芯であれば空気を迂回させてインク漏れを防ぐ細工も出来るのじゃが、エボナイト製ペン芯では複雑な工作は無理。従ってインク漏れの確率は高い。

 インクフローを重視し、万年筆をペンケースに入れて持ち歩く人には、エボナイト製ペン芯の方が良いが、ポケットに挿してバリバリビジネスで使う人にはプラスティック製ペン芯の国産品がお奨めじゃ。日本の気候を熟知した上で、インク漏れ対策を最重点課題としてペン芯を設計しているように思われるのでな。

2007-02-26 03 こちらが完全清掃したものじゃ。清掃に100時間近くかかった。胴体を全て分解し、超音波洗浄器で通算80時間以上。またロットリング洗浄液内にキャップとペン先、首軸を12時間以上浸けておいた後で、綿棒に同洗浄液を浸けて拭きまくり・・・綿棒50本ほど使った。

 さらに各所にシリコンスプレーを噴霧し、動きをスムーズにする。噴霧した直後よりも2日ほど経過した時の方が動きに無理が無くなる。馴染みってのがあるのかな?

2007-02-26 04 ペン先はB。ややスタブっぽい書き味にしている。汚れたペン先も嫌いではないが、やはり清掃した後は気持ちよいものじゃ。不精な拙者ではあるが、万年筆と靴の清掃は大好き!【靴は1ヶ月ほど前から凝り始めた・・・浦島しゃんの指摘でな】

 洗浄で最も時間がかかるのは、首軸のネジに入ったインクと、キャップ内部のネジに入ったインクの除去。これにはヘッドルーペと、歯医者用の尖端鋭角工具を用いた。絶対に自分の口の中には入れて欲しくない、痛そうな工具。それで丹念に溝の中をさらっていく。

2007-02-26 05  研ぎの状態は左図のとおり。かなりペンを立てて書く人で、イリジウムの先端が紙にあたる場合もある。また時にペンをひっくり返しても筆記するので、裏側も研磨してある。筆記角度を45度まで寝かせれば、別世界の極太文字も書けるようになっている。3点スイートスポット研ぎじゃ。

 元々は拙者の筆記角度用に合わせて調整してあった物。それを微調整しただけなので拙者が書いても実に気持ちが良い。

 拙者の周りは万年筆愛好家ばかり。彼らは一本の万年筆を使う時間はそれほど長くはない。愛情は均等に与えるのでな。しかし万年筆を一本しか持っていない人は、何にでも万年筆を使う。しかも使い方は荒い。万年筆の都合は考えない。

 こういう使い方を前提とすれば、海外ブランド製品は辛い。これが朽ちるのも時間の問題のように思われるので、次を考えておく必要がある。さて何を考えようかな・・・こういう悩みも万年筆の楽しみ方じゃ!


【 今回の調整+執筆時間:100時間 】 調整99h 執筆1h

これまでの調整記事

2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
2006-12-30   セーラー プロフェッシュナルギア 水色 
2006-12-27   Sheaffer コノソアール 赤軸 OB  
2006-12-16   Sheaffer インペリアル 777 金キャップ & 青軸 
2006-12-13   Montblanc デュマ 
2006-12-09   Pelikan 1935 Malachit Green F 
2006-12-06   Pelikan 1931 Toledo B  
2006-12-02   Montblanc No.252 OBBB 
2006-11-29   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
2006-11-08   Montblanc No.149 ペン先裏のロジウム鍍金   
2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
2006-10-28   Montblanc 1970年代 No.146 ああ無残! 
2006-10-25   Montblanc 1980年代前半 No.146 B   
2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
2006-10-14   Senator  President  B 
2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04   OMAS パラゴン BB   
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB  
2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

万年筆は刃物! その1 【研ぐとは?】
万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
こまねずみしゃん

伊太利亜製の拳銃って・・・たまに暴発しそう・・・
玉が早いとか?フェラーリの国の拳銃・・・

拙者は伊太利亜製の銀玉鉄砲が欲しいかも・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月28日 07:07
 一応国連(連合国)の旧敵国条項には日本やドイツと並んでイタリアも含まれていますし、第二次世界大戦後海外領土は放棄させられましたから、国連では一応「敗戦国」扱いなのですが、日本やドイツほど苛烈な扱いは受けなかったということです。
 戦後も「戦艦」を保有し、ドイツや日本に先駆けて最新の艦隊防空対空ミサイルをアメリカから供与され、1980年代にはイタリア製拳銃がアメリカ軍の正式拳銃となるなど、明らかに特別扱いされています。
 イタリアの輸出も万年筆くらいなら可愛げがあるのですが、軍艦、ミサイル、地雷、拳銃などを売りまくっています。

 しかし、歴史をモチーフにした万年筆は、それを所有することで、自分が歴史の一部を共有しているような感じがします。私は一本もそういう万年筆は持っていないのですが、いつかは欲しいですね。
Posted by こまねずみ at 2007年02月27日 10:48
monolith6 しゃん

インク漏れがあった場合、ティッシュをキャップの中へ入れて清掃していれば、被害は少ないが、これはそれをやっていなかったようじゃ。

インクは各社の物が混じっている。黒とブルーブラックを使っていたようじゃな。

胸ポケットにインクがドバドバ出るように調整した万年筆を挿して一年中過ごすのは無理があるのかもしれない。
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月27日 05:26
 清掃に100時間も!何のインクを使っていてこうなったのかは全く分かりませんが、普通のインクを入れて普通につかっていても、こうなってしまうのであるとすると、オマスを使うのは考え物ということになってしまうかも?

 単にキャップにしみだしたインクをこまめに拭い取っていさえすれば、このようなことにならないのだとしたら問題はないんですが。
Posted by monolith6 at 2007年02月27日 04:35
こまねずみしゃん

なんと伊太利亜は第二次世界大戦の戦勝国扱いだったとは!

年をとると歴史に興味が出てきたな。昔はまったく興味が無かったが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年02月26日 23:53
 厳密にはイタリアは「ノルマンディー上陸作戦」の時点では連合国側に立って参戦していましたから、勝利を記念する理由がないわけではありません。

 確かに、ムッソリーニ政権時代には火事場泥棒的にドイツと一緒に枢軸側で参戦しましたが、ムッソリーニ失脚後のバドリオ政権で連合国に降伏。逆にドイツに宣戦布告してしまいました。
 このため、イタリアは本来敗戦国でありながら、ドイツのように分割されず、日本のように憲法を押し付けられることもなく、軍も規模を縮小させただけで存続を許され、現在に至っています。
 なお、イタリアが王政から共和政に移行したのは国民投票によるもので、敗戦と直接の関係はありません。
Posted by こまねずみ at 2007年02月26日 10:50