2007年02月28日

水曜日の調整報告 【 Pelikan 400 茶縞 14C-F 】

2007-02-28 01 今回の依頼品を受け取った時には、思わず【直りません】と言いかけた。物はVintageのPelikan 400の茶縞。非常に美しい模様の軸。書き味も・・・・あれ?こちらは400のペン先よりも多少剛性の強い弾力かな・・・

 何れにせよ一見すれば何の問題も無いように見えるのだが・・・・

2007-02-28 02 尻軸がクルクルといつまでもまわって、遂にはずれてしまった。尻軸に付いているべき心棒が無い!壊れたのか、折れたのか・・・こんな症状は初めてじゃ。依頼者は骨董市で二束三文で売られていたのを不憫に思って引き取ったらしい。誰にも見向きもされない万年筆があると、ついおうちに連れて帰るとか・・・万年筆ヒューマニストじゃ。

2007-02-28 03 ペン先部分にも違和感があるので拡大してみた。形状からして400のニブよりやや小さく、140用のニブが付いているようじゃ。書き味も140そのもの。

 140と400では同じ径のソケットを使うので、こういう芸当が出来る。逆もあって、140に400用のペン先が取り付けられて売られている事もある。

2007-02-28 04 ソケットとペン芯も外してみると・・・やはり140のペン先!400用はニブ後半の丸穴から後ろがもう少し長いのじゃ。それにしても、ソケットでエボナイト製ペン芯と固定されていた部分に酷いエボ焼けがある。またペン芯の裏も真っ黒に変色しておった。ペン先をお湯に付けるとモクモクとインクが溶け出したが、その色を見る限りはブルーブラック系のインクが使われていたと思われる。

2007-02-28 05 そしてピストンガイドを抜き出してみると・・・なんと本来尻軸から伸びているはずの心棒がピストンの中に入って固定されている。インクがピストンの後ろに回り、それが心棒とピストンの筒の中に入り固まってしまったのじゃ。これがブルーブラックインクの恐さ!インクが接着剤の働きをし、その力で尻軸から心棒をもぎ取ってしまった・・・

2007-02-28 06 だが、これは不幸中の幸い。全部品が揃っているので、ピストンから心棒を抜けばOK!90度のお湯に入れて20分後に心棒を回しながら引っぱると・・・外れた!

 さっそく心棒を尻軸に押し込んだ。こんどはピストンの軸の内部を洗浄する必要があるので、ロットリング洗浄液を入れた超音波洗浄器にピストンを入れて約3分。

2007-02-28 07 さらには軸内にシリコンスプレーを噴霧した後で、ピストンガイドにセットした尻軸+心棒+ピストンを後ろから軸に押し込めば軸側は完成じゃ。心棒が折れていた場合には移植手術を考えていたのだが、それは必要なかった・・・ちと残念!

2007-02-28 08 こちらは裏表清掃後にスリットを空けたペン先。この状態ではやや開きすぎじゃが、ソケットに嵌めると隙間は詰まるのでこの程度でも問題ない。それにしても美しい形状のニブじゃ。最近のニブは刻印やバイカラー鍍金でニブを装飾しようとしているが、ニブ自体の形状に美しさが無いので感動することが少ない・・・

2007-02-28 09
 これが装填完了した状態。少しでも400に近づけるために、140のペン先をペン芯よりもかなり前に出し、首軸尖端から先に少しでもペン先が出るようにした。

 書いてみると、多少ゆっくりと書いても【キュイーン】というペン鳴りが発生した! すばらしい! ひょっとするとペン鳴りを出させる秘密が解かったかもしれない。確信が無いのでまだ公表はしないが・・・

 店先でパーツと利用に二束三文で売られている物であっても、このように見事に復活するものもある。100年後に残っているVintage万年筆の中に400や140を残すのであれば、修理できるものは修理して、少しでも生きながらえていただく必要がある。

 万年筆修理は楽しく、また後世の万年筆愛好家に対する義務でもある。出来るだけ多くの人が万年筆を修理する気持ちになっていただければ幸いじゃ。


【 今回の調整+執筆時間:3時間 】 調整0.5h 執筆2.5h

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万年筆は刃物! その2 【心構え】
万年筆は刃物! その3 【準備する工具類】
万年筆は刃物! その4 【インクフローの調整】
万年筆は刃物! その5 【書出し掠れの調整】
万年筆は刃物! その6 【引っ掛りの調整】
万年筆は刃物! その7 【ガタツキ、ズレの調整】
万年筆は刃物! その8 【書き味硬め調整の極意】
万年筆は刃物! その9 【書き味柔らかめの調整】
万年筆は刃物! その10 【ペン先曲がりの調整】


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
京都和文化研究所しゃん

ジャンクに愛情を注ぐ姿は立派じゃな。また持ち込んでくだされ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年03月04日 16:39
5
<<店先でパーツ取り用に二束三文で売られている物・・・・。
稀に 見かけます。 思わず手に取り 思わず唸ってしまします。
ニブ が無理やり 外す時 に生じた ジャンク・・・ 吸引を無理やり 等
今だ 修理のメドたたない もの多数有りますが
今回の 茶軸 良かったですね!!。

又教えられました 有難うございます。
Posted by 京都和文化研究所 at 2007年03月04日 07:21
らすとるむしゃんのペリカン・コレクションにも一本しか無いとは!
けっこう珍品かも?
Posted by pelikan_1931 at 2007年03月01日 18:48
本当に珍しいですね!
私もかろうじてCが1本有りました。
それは、グリーン・緑縞の400です。
Posted by らすとるむ at 2007年03月01日 13:05
monolith6しゃん

まさに! GUNTHER WAGNER GERMANY - Pelican - という文字が胴軸終端部に刻印されている。
しかもUはちゃんとしたウムラウト付きじゃ。

何故【C】なのかは不明。同じような刻印の物を持っているかたがいたら書き込んでくだされ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年03月01日 05:12
 胴軸終端部の刻印が、PELIKAN ではなく、PELICAN となっているように見受けられます。珍しいですね。輸出向けだから、綴りも英語に直したのでしょうか。
Posted by monolith6 at 2007年03月01日 00:07