今回の依頼品は調整ではない。修理じゃ。物はPelikan M800。ペン先は14C-M。M800は発売当初14Cのペン先と18Cのペン先があった。1988年の輸入筆記具カタログを見ると、14金バイカラーペン先付が4万円、18金バイカラーペン先付が4.5万円となっている。1994年のカタログでは18金バイカラーペン先付のみとなっている。ちなみにその時の価格は5.5万円。
この個体についている14C-Mは調整されている。そのせいで紙に吸い付くような書き味。Mに関してだけは現行の18C-M(pf無し)が一番良いとの評価もあるが、調整を施してしまえば素質は消され、あとは調整師の腕次第。この14C-Mの書き味は好きじゃな。
首軸尖端の汚れはインクの酸に侵されたためじゃろう。どのメーカーにしろ首軸先端が金属のものは侵される。従って最近の万年筆では首軸先端に金属を配置しないようになっている。セーラーのプロフィットも止めたし、ウォーターマンもル・マン100での失敗に懲りて、リエゾンから金属の位置を後退させた。しかしM800では先端リングが無くなるとデザイン的に間抜けなので、まだまだがんばっているようじゃ。 今回の不具合修理には先日の裏定例で作った工具を利用した。どんどん右に回していくと左図のように胴軸からピストン機構が外れる。この状態で引っぱれば抜ける!今回の不具合の一つは、やたらピストンが硬くなってしまった事じゃ。実は依頼者は先日の実習で自分で作った工具でピストンを外してみたらしい。
そうしたところ、左図上のように弁の部分が芯の部分と離れ離れになってしまったのじゃ。弁の周囲が摩擦によって劣化し、そのカスば筒と弁との間に入って動きが悪くなっていたと思われる。それを力ずくで上下させているうちに、弁の内部で芯を押さえている部分が千切れてしまったらしい。
これは修理不可能なので、拙者の部品箱に転がっていたM800用の弁+芯と交換することにした。そしてピストン機構を挿しこむ前に、胴軸内部にシリコンスプレーを噴霧し、綿棒で拭き取る。これだけでピストンの動きはスムーズになる。 こちらが拙者が作ったPelikan M800用ピストンはずし工具じゃ。一応ルーターで面取りしてあるので、ピストンを傷つけることはない。この工具の方が、拙者がノギスを固定して作ったものより具合が良い。これは傑作じゃ!