理科に嵌ってうれしそうな・・・【第二十三章】
この章では、渡部氏は肩の力がえらく抜けている。偉い科学の先生ではなく、一般のおじさんとして、茶飲み話をしているようじゃ。こういう人と何時間もおしゃべりしてみたいと思うのは拙者だけ?
最初に【萬年筆と科學】が萬年筆界に大きな反響をもたらしている事を素直に喜んでいる。淡々と書かれた【嬉しい事です】という表現によけいに彼の嬉しさを感じてしまう。読者の規模は相当違うが、拙者ですらBlog記事への反応が多ければ素直に嬉しいからな。
渡部氏の下へは読者の方々から様々な質問や、意見も寄せられていたらしい。この章では【発想は面白いが実現性はゼロ】のアイデアについて優しく説明してくれている。
【魔法瓶と萬年筆】
インク漏れの原因が手の熱による空気膨張とするならば、万年筆の軸を魔法瓶のような構造にすればインク漏れ/出過ぎが少なくなるのではないか?とういうアイデアへの回答。なんと断面図まで書いて【試作してくれ】という申し出もあったそうじゃ。
渡部氏はさも試作したかのような口調で、このアイデアの非現実性を解説している。魔法瓶のように二重構造のタンクにしても、熱は伝わってしまう。熱が伝わるのは伝導作用と対流作用と輻射作用の三つがあり、真空壁は伝導作用だけを防止したにすぎない。真空の中でも熱は輻射作用によって伝わることを、太陽の熱が地球に伝わる例を用いて説明している。
初期の魔法瓶は真空壁を作るだけでは効果が出なかったらしい。輻射熱を食い止めるには内部に銀を鍍金すれば有効だとわかってから魔法瓶の能力は一気にアップしたとか。輻射の性質は光に似ていて、鏡で反射出来るということなのかな?こういうのは、小学生や中学生の理科で教えると面白いのではないかなぁ。自然の不思議に興味がわくはずじゃ。
渡部氏の結論は、理屈は正しいが、破損しやすかったり、あまりに高価になりすぎたり、大きくなりすぎたりして実用品には・・・・ということだが、最初から頭ごなしに非現実的!と断定しないで、納得のいく説明をしてくれている。すばらしい人物じゃ。
【補正振子と萬年筆】 魔法瓶の原理が万年筆に取り入れられないとしたら他に方法は無いか?ということで、渡部氏自身が科学的考え方を提示している。【空気膨張が防げないものとしたら、空気の膨張する力を利用してインクの出すぎを止められないか?】という発想じゃ。この発想の仕方に感動した。常にそういう考え方をしてアイデアを出していくのが科学者なのか!見習わねばな。
渡部氏が例にあげたのが左図の補正振り子じゃ。言葉での説明が難しいので図を掲載した。拙者が子供のころは柱時計はゼンマイ式だった。一週間に一度、椅子に登ってゼンマイを巻くのが拙者の仕事。楽しくて日曜日が待ちどおしかった。当時は夏と冬とで振り子の長さを調節しないと時計が進んだり遅れたりした。振り子の下のネジで長さ調節をしたものじゃ。従って、ラジオの時報は必須で毎日の進み遅れを時報で確認しながら微調整をしておった。もっとも今ほど時間にシビアでなかったので、いつも5分か10分ほど進ませており、それにあわせて生活していた。実は拙者の腕時計も2分弱進んでいる。自動的に時刻が調整される電波時計などもってのほか。進んだ時計を軸に生活しているので、ピッタリに合った時計では生活できない。ちなみに柱時計は45分進ませている。おかげで待ち合わせに遅れる事は絶対に無い。
補正振子の構造はおもしろい。熱膨張を利用して振り子全体の長さを調整させようというもの。A&Cの素材よりもBの熱膨張係数が大きければ出来ないこともなさそうじゃ。しかし、拙者の子供時代の時計にすら補正振子が使われていなかった事を見るとあまり効果が無かったのかもしれん。
この補正振子のような自動制御の仕組みが応用できればインク漏れや出過ぎが防げるのに・・・という発想じゃ。その理論が結実したのか、最近の万年筆でインクの出過ぎというのは経験しない。インクフローが悪くて改造する必要がある場合の方が多いほど。やはりペン芯の能力向上が貢献しているのであろうな!
解説【萬年筆と科學】 その22
解説【萬年筆と科學】 その21
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