水曜日の調整報告 【 Parker Sonnet 鍍金ペン 】
今回の依頼品はParker Sonnet の鍍金ペン。通常拙者は鍍金ペンの調整はやらないのじゃが、これは【訳有り】らしいので、引き受ける事にした。ただし【お任せ】でな。
スチールペンの調整は金ペンと比べて2倍以上時間がかかる。戻りが無いために作業を慎重にやらなければならないからじゃ。といって仕上りが金ペンと比べて良くなるわけでは無い。例外はLamyやPelikan。これらに関しては金ペンに負けない書き味に出来る。特にPelikanのCNニブは最高じゃな。
今回の依頼品のペン先拡大画像じゃ。ひと目で手入れの悪い万年筆だとわかる。ペン先にインクカスが付いている。これはスチールペンに取っては非常に危険。インクには酸性のものが多いが、インクが乾くと強酸性になることもあり、鍍金を通してスチールが侵され鍍金が浮いて剥れてしまうのじゃ。このペン先にも既にそういう兆候が発生している。はっきり言って手遅れじゃ。
これがソネットのニブユニット。ペン芯とペン先は分離できないが、ペン先を洗浄するには好都合。頻繁にこの状態にして洗浄していればこのような事態に陥らないですんだろうに。何故メーカーや販売店はペン先の洗浄方法を教えないのだろうか?

左が修理前の画像じゃ。ペン先がひん曲がっている。右側がスキマゲージを突っ込んで曲がりをある程度直した状態。一瞬で直せそうに思えるが実は慎重な作業を数十分繰り返してやっとこの状態になる。それにしてもイリジウムの根元から広がる鍍金剥れは無残じゃ。これがインク掃除を怠った報い。金鍍金ペンは安い分、金ペンよりも頻繁に清掃しないとすぐに劣化する。どう考えても金ペンの方が安上がり!

鍍金ペンの劣化があまりに無残なので金ペン先を進呈する事にした。ソネット・フジェールについていたバイカラーのFニブ。まだ細字ニブの調整が苦手だったころに諦めて部品箱に突っ込んでいたもの。今回日の目を見る事になった。当初は左のようにペン先先端が詰まっていたので、スキマゲージを使って右のように少しだけスリット間隔を拡げた。
拡大してみると、左右の先端の形状が揃ってなくて見苦しい。また細字ならここまでスリットを拡げなくても良かったかもしれない。このあたりはあとでどうとでも微調整できるので心配なし。
ただ一つの心配は、バイカラーペン先が黒軸にマッチするかどうか・・・胴体に銀色部分がまったくない場合、バイカラーニブを取り付けるとニブだけが浮いてしまう場合が多いのじゃ。
取り付けてみたが、やはりマッチしない。かくなる上は、鍍金剥がしのワザを使うしかあるまい。同時に先端形状を直してしまおう。この直しには2006年7月8日の調整報告で使った発砲スチロールの棒にペーパーを両面テープで貼り付けた物を使う。鍍金剥がしの方は2000番の耐水ペーパーで鍍金を落したあとで、金磨き布に表面を100回ほどこすり付ければ出来上がりじゃ。
仕上り状態は左のとおり。最近のソネットのペン先で先端形状がこれほど美しいものは無い。ほとんどがポッチャリとしている。そういう意味ではソネットは調整してこそ美しくなれるニブなのじゃ。
拡大図が左。綺麗な傾斜と先端がごく僅かだけ開いているのが見えようか?心眼(しんがん)で見れば隙間が見えよう!
このペン先の書き味は【絹の靴下】のよう。柔らかくて上品。そしてひっくり返して書くと針の先で書くような字が何の引っ掛かりも無く書ける。奇跡のようなペン先なのじゃ。現行ソネットではこの書き味は失われたのかな?
とは言っても【訳有り】のニブを捨てるわけにもいかないので、そこそこ書けるようには調整しておいた。ただやはり鍍金剥れが無残で痛々しい。
筆記者が強筆圧であれば、鍍金ペンを選択する可能性もある。さてどうなりますやら・・・とりあえずはペン先ユニットが2本になってお帰りじゃ!
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(9)│
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万年筆
dodomenしゃん
いつでもどうぞ!
雑誌やwebなどでメンテの方法を知りましたが、
怠ると実際どうなるか、というのは今までわかりませんでした。
勉強になりました。
遠隔調整心強いかぎりですっ!!また宜しくお願い致します。
dodomen しゃん
であれば【遠隔調整】ですな!
ご教示有難う御座います。今後の購入の際の参考にさせて頂きます。ただ、近隣にその様な専門店が皆無なのが悲しい現実ですが。
拙者が大学生時代、白黒TVじゃった。夜の歌謡曲という番組があって、最後に一曲だけその月の一押し曲を毎晩あけるのが売り。
それに夏木マリ、安西マリア、三田悠子?が立て続けに出た。いわゆるセクシー歌手路線。東京に出てきて良かった〜!と感じさせてくれる番組じゃった。その3人以外は一切覚えておらんがな・・・
dodomen しゃん
調整してから販売する場合は、何種類かの筆記角度を想定して調整したものを準備しておき、店頭での試筆専用ペンによる試筆状態を見て、段差調整をピピっとやるはずじゃ。それで95%以上の人には適合させられる。
調整といっても必ずしも研磨することは意味しない。一番重要な事はインクフローを安定させることじゃ。これに関しては有名店では施しているところもある。
が、やはり調整を施している店で買うのがリスクは少ないじゃろう。
こんばんは。
師匠、驚きました!!
あのソネットがこのような変身を遂げるとは・・・完璧ですね!!凄い!!
鉄ペンのペン先修正も見事ですし、金ペンのモノカラーにとどまらず先端の削りまで・・・・アイデアが素晴らしすぎて・・・思わず土下座してしまいました。
ところで、書き味が「木綿のハンカチーフ」ではなくって「絹の靴下」ということは・・・・夏木マリの世界でしょうか??う〜ん、触れてみたい!!。
調整してこそ美しくなれるニブとのお言葉、本日の報告を読ませて頂きながら実感・感動致しました。ところで、店主の方があらかじめ調整した上で店頭で販売している万年筆専門店を雑誌等の紹介で見かけます。こういう場合店頭に並んだ時点でどの程度手が加えられているものでしょうか。もし購入する際は通常の無調整で販売しているお店より調整済みの万年筆のお店で購入した方が良いのでしょうか。ご教示下さい。