今回の依頼品は非常に程度の良いPelikan 500Nじゃ。400Nや500Nなどは1956年の1年間しか作られていない。キャップの長さやクリップの長さが500NNとは違うようじゃ。
短期間で製造を終えたモデルには【機構上の不具合があった】【販売価格に見合わないほど製造原価が高くなった】【市場に受け入れられなかった】【失明事故などを引き起こした】・・・などの理由があるが、このPelikan 500N製造中止の原因はどれだったのかな?
ちなみに500Nでは胴軸の尻軸端に【PELIKAN 500 GUNTER WAGNER GERMANY】と彫られている。500NNになるとクリップの裏への刻印になるらしい。これらの情報はPelikanの緑本に記載されている。500Nというのは正式名称ではなく、500と500NNの間に作られたので便宜上500Nと呼んでいるだけかもしれない・・・
発売本数が少ないだけに現在では珍重されているが、冷静にフォルムを眺めてみると【天冠のラインと尻軸のラインに整合性が無く、なんとなく野暮ったいデザインとの評価が市場で爆発!】したのかもしれない。通常は市場の声を製品の改良に取り入れるには時間がかかるものなので、この説が正しい可能性は少ないが、野暮ったいデザインであることは確かじゃ。それが魅力であるのも事実だが・・・・ 今回の依頼内容はペン先の段差を直すという比較的簡単な内容。ところが以外に大きな問題を秘めた個体だったのじゃ。
上から見る限りは問題は無い。非常に綺麗なライン。うっとりするほど美しいカーブじゃ。まるでツァイスレンズのMTF曲線のよう。 真横から見ると先端で段差があるのが見て取れる。この段差はハート穴あたりから先端に向けて徐々に大きくなっている。こういう場合はペン先とペン芯が密着していない場合が多い。ペン先裏にライトを当てると案の定隙間が空いている。ペン先をお辞儀させて直すか、ペン芯を反らせて直すかの選択を迫られる。依頼者の低筆圧やITALIA '90好きのである事を考慮して、ペン芯を反らせる対策を打つことにした。
ところが一大事。ペン先とペン芯をゴム板で挟んで捻ってもソケットが廻らない!力を入れるとフィンが折れそう!仕方ないのでフィンに合わせて溝を彫ってある専用工具で挟んで捻って見ると・・・ペン先とペン芯のみが外れてソケットは胴軸内に残った!ソケットを接着剤で首軸に固定してしまったのかもしれない。通常エボナイトには接着剤は効かないのじゃが、ネジの隙間を充填するように塗った接着剤が80%ほど乾いてから力ずくでソケットを首軸にねじ込めば固定することは出来る。緩くなったソケットを救済する為の特別措置らしいがな。
ペン先表面にはうっすらとエボ焼けがあるが、Montblanc No.149などと比べれば可愛いものじゃ。金磨き布一拭きで除去出来る。 ニブ裏側のエボ焼けじゃ。こちらは表面と比べると焼けが激しい。いずれにせよPelikanのエボナイト製ペン芯はMontblanc製よりはエボ焼けを引き起こす程度は低いようじゃ。
根元の丸い穴の用途は何だったのかな?以前紹介した社史の写真にも出ていたが・・・普通に考えれば切割りを入れるときの位置固定に思われるが、切割りは手で直接やっている写真が掲載されていたし・・・何かなぁ・・・ スリットをやや拡げ、低い筆圧でもインクが出るように調整した。そしてここからが魔法!そのおまじないを施すと、ペン先が鳴くようになる。通常筆記時に鳴かれては耳障りなので、ある筆記角度で高速直線を引く時のみ【インクを飛び散らせながらピーピーと鳴く】ように調整するのじゃ。このペン鳴りが発生させられれば書き味が絶妙な証拠。Montblancでもこれほど綺麗に鳴らせられれば良いのじゃが・・・お辞儀角度とペン鳴りに相関関係がありそうな気もする。まだまだ研究せねば・・・
こちらが完成形じゃ。ペン芯の先端がずいぶんと後ろに下がっているのがわかろう。実はこれもペン鳴り調整の一環じゃ。400NN系のニブが最もよく鳴くのでお試しあれ!