拙者は細字、極細字の万年筆はほとんど使わない。確定申告などには、極細が書けるボールペンを使用するし、裏表書けるように万年筆を研いでいるので細字が必要な時には万年筆をひっくり返して書けばよい。ひっくり返して書く場合、ペン芯がオーバーフィードのようになってペン先の反りを押さえるので、少々筆圧をかけても字巾は安定する。けっこう書き味が良い。
自分が使わないので極細や細字を調整する回数は少ない。またそれほど得意ではない。必ず絶妙に調整出来るのはMontblanc No.256だけ！という状態だった。
WAGNER会員も極太好みが多い。そうでない人でもMくらいの利用者が多く、EFやFは一般用とではなく特殊用途に近い状態・・・・かな？
そうじゃ！今度の持ち物検査はペン先の太さを比較してみよう！拙者の予想ではMが多いと思う。
今回の依頼品は1950年代後半のMontblanc No.149。症状としてはインクフローと書き味が悪過ぎるとの事だった。依頼者自身もEFを使う機会はそれほど多くないはずなので、彼にとってどういう状態が【ここち良いと感じるEFなのか】が良く理解できていない。そういう場合には基本にもどって、ペン先が最も美しくなるような研ぎを施す事にしている。工業製品はすべからく最も美しい状態が性能も良いという信念を持っているのでな。
やはり多少ペン先のスリットが詰まっている。またペン芯の位置は多少前寄りかな・・・フラットフィーダーではなく、厚みのあるペン芯を使っている後期型のNo.149。最近になって【フィン】の効用に関して疑問を持つようになってきた。昔はあふれたインクをフィンの中に保存することによって、インク漏れやボタ落ちを防止すると考えていた。ところが各社のペン芯を観察していると、いったんフィンに溜まったインクをペン芯スリットに誘導する通路を持たない物もある。また明らかにフィンが空気をスリット上部の空気通り道に誘導するだけの意味しか持たないものもある。もう少し有識者に当たって解明せねば！ペン芯こそが科学の結晶【萬年筆の心臓】だからな。
イリジウム先端を拡大してみると、大きく斜めに削られている。これでは紙にガリガリと引っかかって書き味は悪いはずじゃ。相当筆圧の強い人が同じ筆記角度で長期間ガリガリと筆記し続けたと思われる。ペーパーなどによる素人調整ではなさそうじゃ。調整方針としては・・・
�．撻鸚茲離好螢奪箸魍箸押▲ぅ鵐�フローを良くする。またポンプ運動を活発化させる。
�⊃泙両絏爾離┘奪犬魎櫃�研磨する。紙への引っ掛かりをなくす為にな。
��ペン芯を多少下げ、ぺン先がペン芯から前に出る量を増やす。弾力増加施策。
こうして調整が終わったのが上じゃ。ペン先のスリットの詰まりは軽減し、ペン芯のペン先に対する相対位置を下げ、ペン先は丸く研磨した。それぞれの作業は独立して行われるが、全て全体感を持った上で実施している。たとえばイリジウムの丸めに関してはインクフローの多い少ないによって研磨度合いが変わる。スリットがガチガチに詰まっていてリジッドなペン先の場合は、内側のエッジの調整はしないほうが良い場合が多い。筆記角度に合わせた研磨だけで十分じゃ。スリットが開いている場合には筆記角度に合わせた研磨よりもエッジの研磨に重点を置く・・・・これが極細研磨の極意じゃ・・・というか基本に忠実に研磨するのがVintage物に対する姿勢。最新物には【細美研ぎ】なんて傑作研ぎの生まれる可能性はあるが、Vintage物に対しては奇抜な研ぎは押さえ、当時の万年筆の雰囲気にイリジウムの研ぎも合わせるのじゃ。【改造】ではなく【復活】 の気持ちで研ぐのがコツ！
で仕上がりは・・・大成功じゃ！ これからは【極細研ぎ】も看板にしようかな。No.149の極細がこれほどまでに気持ちよいものとは！万年筆と筆記者と調整人。この関係の中で調整人は【教育者】の立場が良いのかもしれない。 それぞれが基本に立ち返れば良い関係を築けるのじゃ！
