水曜日の調整報告 【 Montblanc 80年代 No.146 14K-M 】
今回の依頼品はMontblanc No.146。1980年代の切れ目入りエボナイト製ペン芯のモデル。透明インク窓が潔くて好きじゃ。ストライプ・インク窓に変更になる直前のモデル。クリップは既にイカリ肩になっている。No.146にしては軽いなぁ・・・と思ったらピストンガイドがプラスティック製だった。この軽やかさは夢中になりそう!
依頼内容は【インクの出が悪いので何とかして欲しい】との事だったが、調整前からスリットはかなり開いている。研ぎも見事で言う事は無いように見える。しかしインクフローの良否は外観だけからではわからない。やはり内臓を見てみる必要がある。
ペン芯とペン先の位置関係は、もう少しペン先を出しても良い。メーカー調整はペン先とペン芯の間に出来る隙間を気にして、ペン芯を前進させたがる。しかし使う側から考えると手に持っても、個体として眺めても美しい姿形でいて欲しい。それならばもう少しペン先をペン芯に対して前進させたほうが良い。よほど筆圧が強くて捻って書くのでなければ問題は無い。
メーカーからの出荷時の状態を是として調整を否定する意見もあるが、調整とはパーソナライズじゃ。不特定多数に対して【そこそこの状態】に調整された物は、誰に取っても完璧ではない。そのバラツキの中で自分にあったものを見つけようとすれば、莫大な時間がかかり、試筆によって将来他人が入手する万年筆に癖を擦りこんでしまう・・・買う側から言えば他人の試筆は迷惑千万じゃが、自分は出来るだけたくさん試筆したい・・・
拙者が自分で調整をしようと思い立った理由の一つに【誰も触っていない万年筆を欲しい】というのがあった。人が試筆した万年筆が欲しくないので、自分も試筆はしない・・・となれば自分で調整するかプロに依頼するかしかない。拙者が調整を始めたころにはプロの存在を知らなかった・・・で自分で始めたわけじゃ。もしプロの存在を知っていたらそちらに依頼したはず。総合的に考えてはるかに安い。習熟する時間と生贄本数の無駄じゃからな。
インクフローが悪い原因はエボ焼けのファクターが大きいと睨んだので、尻軸をはずしてみることにした。これには先日作ったフォーク流用の工具を使った。専用工具よりも回しやすいので最近はもっぱらこちらを利用している。
尻軸がはずれたら、先週の裏定例で作成した【首軸プロテクター】を嵌めて、ノックアウトブロックにセットし、尻軸側から5寸釘の先端をカットしたものを押し込んでペン芯とペン先を叩き出す。
なんと首軸に接するところに見事なエボ焼けが!器具を突っ込む穴の部分にもエボ焼けが入っている。やはりエボ焼けの誘発にはインクも大きな影響を与える事がわかった! それにしてもこの時代のニブの刻印はシンプルで美しい。
ペン先の裏側を見てみたが、こちらには軽いエボ焼けがあるだけで、インクフローには大きな影響を与えそうにも無い。ひょっとすると依頼者は大量の文章を万年筆を置くことなく書き続けるのかもしれない。そういう筆記をしているとある一点で空気がそれ以上軸内に入らないポイントがあり、その影響でインクの出も止まってしまう。いわゆる呼吸困難現象じゃ。
依頼者の筆記スタイルがわからないのでインクフローを良くする改造を加えて様子を見る事にした。これはやはり依頼者に長時間書いてもらわねば確認できない。日常的に使うインクを入れて・・・
結果はペントレの後になりそうじゃが、今から楽しみじゃ!
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(4)│
mixiチェック
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万年筆
インクとなじむのはエボナイトじゃが、空気を上手く入れるのはコンピューターで設計されたプラペン芯じゃろうな。
セーラープロフィット用ペン芯は芸術品です・・・ただ、キングプロフィット用は呼吸困難になるようですな。
呼吸困難現象については、私も以前から関心があります。
エボナイト製ペン芯はインクフローが良いとされていますが、私の持っている個体(全て調整済み)で呼吸困難現象が発生するのは、プラスティック製よりもエボナイト製ペン芯を搭載したモデルの方が多いように思います。
プラチナカーボンインクを使えば、呼吸困難現象は大幅に改善されますけどね。
この辺の解決法を確立するには…やはり生贄を捧げる必要がありそうですね?!
長時間筆記における呼吸困難はペン芯の設計に依存する部分が大きいので直っていないかもしれん・・・
最近のペン芯は空気が通る道が複雑に曲がりくねっていたり、迂回路があったりと複雑怪奇になってきている。
それにくらべるとこの時代のペン芯はシンプルなだけに呼吸困難は防げないかもしれない。ただ、インクの粘度によっても違うので、まずは試してくだされ。
見事です・・・まさに「大量の文章を長時間ペンを置くことなく書き続け」ていました。
1回の講義が90分、基本的にその間ペンを握ってメモを取り続けています。その他にも、予習のため机に向かっているときも、ほぼペンを握って書いたり、資料にラインを引いたりしていました。ペンを置くのは、コンピューターで検索するときくらいです。