パイロットの覚悟を語った・・・【第二十九章】
二十三章を書き終えたのが1929年7末、二十九章を世に出したのが1930年8末。約1年が過ぎている。この間に日本は殺人的な不景気に突入したらしい。それに対して研究室に閉じこもっている渡部氏は以下のように発信している。
『研究室に閉じこもっている者には、世間の景気不景気は風馬牛かに外目には見えましょう。確かにそうした傾きが無いとは言えません。・・・ 私どもが世間の様子に晴雨計的関心事を有していない事は事実ですが、それだとて冷淡ではあり得ません。ただその中にあって比較的冷静ではあり得ると思います』
これはパイロットの覚悟を販売店のみならず、社員に対しても発した強いメッセージじゃ。ひょっとすると社長に対してのメッセージの意味も含まれているかもしれない。
不景気の影響は万年筆業界にもおよび、高価な万年筆が販売しにくくなり、販売店からの【安い万年筆を発売して欲しい】という圧力に対して、それは長期的に見れば得策ではない!ということを、研究所に来た質問状に対する答えとして書いてある。
当時輸入万年筆が関税を除いて7円。パイロット製万年筆が4円。それが不景気と共に1円万年筆でも高いということで、50銭万年筆の出現が噂になっていたとある。
インクも35銭から30銭→25銭→20銭に落ち込もうとしていた・・・てインクは当時ものすごく高価だったのじゃな。4円を現在の3万円とすれば、35銭は2,625円。これから考えれば現在のMontblancの定番インクはそう高くはない。消費量も当時とは比べ物にならないほど少ないし・・・もっともインク壜一個の容量がわからないと単純比較は出来ないがな。
当時販売店などから上がっていた声をまとめると以下のようになる。
�.撻鸚茲鮠�さくして値段を落してはどうか?
�▲僖ぅ蹈奪箸搬昭劼良兵舛虜垢浪燭�?
これに対して渡部氏の見解は明確!すばらしい観点じゃ。
�,紡个靴討療�えは特に見事。
・大きいペン先ほど書き味が良い!(ここには無条件では賛成できないが)
・ペン先の大きさは、その国の文化度を表している。米国、英国、仏蘭西、独逸、伊太利亜の順でだんだんとペン先が小さくなっていく。日本は独逸あたり。米国が最大のペン先を持つ。
・ペン先の大きさのバリエーション、ペン先の形状のバリエーションを準備し、一人に何本も買ってもらえば、飽和しているといわれている日本の万年筆市場は実は何倍もの市場ポテンシャルがある!
・一人に何本も買ってもらうには、品質が良くなければならない。もし安くて品質の悪いペンを売りつけたら、その人は万年筆を使わなくなり、市場自体が縮小してしまう。
これなんぞは戦後の【はっぱふみふみ戦略】で安いペンを大量に市場に流し、結果として万年筆離れを引き起こす?ことを暗示していたのかもしれない。また我々は何本も万年筆を購入しているが、過去に一度でもトラブルのあったメーカーからは二度と買う気になれないのも事実じゃ。
当時、もし広告戦略の中で、用途別に万年筆を分けよう!という事を庶民に訴求できていれば、万年筆業界の勢力地図は変わっていたかもしれない。
�△亡悗靴討賄鷲�氏の持論の披露じゃ。いわく硬くて均等で光沢のある北海道産のイリドスミンを使ったパイロットのイリジウムは世界一堅い!だから品質も世界一良いというこじつけにしている。当時はそうだったのかもしれないが、現在では均質で粒子が細かくて、柔らかいイリジウムの方が好まれている。擦った時のタッチが非常に良いのが特徴。ペリカンのイリジウムなどがその代表。よく磨耗するイリジウムが好まれている!以前紹介したF1タイヤと同じ理屈かもしれない。
拙者が一番感心したのはレバーフィラー内部のゴムサックを押さえる棒に漆を塗っていたこと。ゴムと金属が直接接すると化学反応でレバーが錆びて脆くなったり、ラバーが硬化する事があったらしい。それを解決する手段であり、これはパイロットしか出来なかったろうな。
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