今回の依頼品はPelikan M600の赤軸。最近WAGNER会員の間で人気者なのじゃが、なかなか完品にお目にかかれない。依頼品にも致命的な欠点がある。
尻軸を一番右に捻っても左図のような状態。締まらないのじゃ。しかもネジが超堅い。太さを示すラベルも付いたままというのに勿体無い!
尻軸を左に回して外してみると、ポロリと尻軸が外れてしまった。中からは先端が折れた部品が・・・
これは尻軸とピストンを繋ぐ部品じゃ。折れた一方がピストンと繋がっている。これではインクは吸入できない。 上が折れていない正常な部品で下が折れた部品。どうして折れたのか?原因は素材の収縮じゃろう。実は最近のPelikan製品で尻軸が赤というものはほとんど無い。M200で金属バンド無しはあったが金属バンド付きの赤尻軸は無い・・・このあたりに理由があるのかな?
左が正常な状態じゃ。部品を道具箱の中から引っ張り出してみた。先に一番下の赤尻軸に折れたのと同じ部品を挿し込み、それを一番下の黒い部品に挿して尻軸を適当な位置まで締めてからピストンを反対側から押し込んで合体させ、さらに締めていくのじゃが・・・・
尻軸が堅くて黒い部品にうまく嵌らない!どうやら収縮したようじゃ。また黒部品の方も、幾度と無く繰り返された力ずくの操作によってネジ部分が一部潰れている。そこで道具箱に転がっていた同じ部品で、この赤尻軸と合致するものを選んで装着した。これで尻軸は完璧!
いずれにせよ、壊れたM600赤軸をこの一ヶ月で4本見かけたが、完品(かつ初期モデル)は昨日届いた一本のみ! やはりかなり素材的に問題があったのじゃろう。同じ色に見えてM200の赤軸とは微妙に色が違う・・・かも? ペン先は第三世代のニブ。第一世代は18Cの金一色ニブ。めちゃめちゃ柔らかい!ところがあまりに柔らかすぎて事故が続発したためか、すぐに14Cバイカラーに変わった。しかし#500との差別化が難しくなったせいか、依頼品と同じ18Cのニブに変わった。その後はボディの大型化にともなってニブ形状も変わった。
拙者はこの世代のニブの【B】というのに初めて触れたが実に綺麗な鍍金!良いなぁ〜 ペン先をソケットから外して見るとペン先の病状がわかりやすい。この個体もあきらかにスリットが詰まりすぎている。EFならともかく、Bでこれだけスリットが詰まっていると書き出しでインクが出にくい状態になる。これは最もストレスを感じる状態なので、せめて【ふぅわっと】ニブを紙の上に置いてもインクが出る状態に調整すべきじゃろう。
ペン先を正面から見ると段差が出来ている。しかも多少背開き気味じゃ。これの修整にはツボ押し棒でペン先のエラを拡げるのがもっとも手っ取り早い。押し付けすぎるとニブが正面から見てカモメの飛んでいる状態になるので注意!スリット上端がエラの曲がり部分より下にならないように少しずつ押さえるのがコツじゃ。上級者はエラを両手の指で挟んで両側に開くようにする・・・
上記作業によって左図のようにスリットが開いた状態になる。この状態のニブをペン芯の上に乗せてソケットを押し込むのじゃ。その後でさらにペンポイントの段差を調整し、必要なら筆記角度に合わせて研磨じゃ。
外国製のBは多少なりともカリグラフィーを意識した、スタブ調の研ぎ。縦横が均等なのが好きな人に取っては字巾(特に横線)が物足りない。こういう時には研ぎを依頼するしかない。現在既に購入したものの研ぎをやってくれるのはペンクリか、ごく一部の専門店【フルハルターetc.】しかない。すぐに好みの書き味が欲しければ専門店にGO! 部品を2個交換して依頼品は生き返った!あれほど堅かった尻軸の動きは下りも上りもスムースになった。前は下りはなんとか動くものの、上りは渾身の力で捻らねば上がらなかったと思われる。力が強すぎて折ってしまったのじゃな。とにかく復活!
首軸に取り付けたペン先ユニットはスリットが開いたため、インクはスムーズに出てくる。ペン先は第一世代に比べて堅いが安定した字巾を求めるのならば多少なりとも堅い方が良い。
万年筆愛好家も経験を積めば、どんな堅さのニブでも愛でる事が出来るようになる。その個体の素質を生かした使い方をするわけじゃ。従って上級者ほど調整を必要としなくなる。書き癖をペンに合わせてしまう・・・・そうすると筆跡が乱れる。結果として万年筆が好きになるほど字が下手になる・・・と言い訳をしている!