2007年04月02日

月曜日の調整報告 【 Pelikan #600 18C-B 軸折修理 】

2007-04-02 01 今回の依頼品はPelikan M600の赤軸。最近WAGNER会員の間で人気者なのじゃが、なかなか完品にお目にかかれない。依頼品にも致命的な欠点がある。

2007-04-02 02 尻軸を一番右に捻っても左図のような状態。締まらないのじゃ。しかもネジが超堅い。太さを示すラベルも付いたままというのに勿体無い!

2007-04-02 03 尻軸を左に回して外してみると、ポロリと尻軸が外れてしまった。中からは先端が折れた部品が・・・

 これは尻軸とピストンを繋ぐ部品じゃ。折れた一方がピストンと繋がっている。これではインクは吸入できない。

2007-04-02 04 上が折れていない正常な部品で下が折れた部品。どうして折れたのか?原因は素材の収縮じゃろう。実は最近のPelikan製品で尻軸が赤というものはほとんど無い。M200で金属バンド無しはあったが金属バンド付きの赤尻軸は無い・・・このあたりに理由があるのかな?

2007-04-02 05 左が正常な状態じゃ。部品を道具箱の中から引っ張り出してみた。先に一番下の赤尻軸に折れたのと同じ部品を挿し込み、それを一番下の黒い部品に挿して尻軸を適当な位置まで締めてからピストンを反対側から押し込んで合体させ、さらに締めていくのじゃが・・・・

 尻軸が堅くて黒い部品にうまく嵌らない!どうやら収縮したようじゃ。また黒部品の方も、幾度と無く繰り返された力ずくの操作によってネジ部分が一部潰れている。そこで道具箱に転がっていた同じ部品で、この赤尻軸と合致するものを選んで装着した。これで尻軸は完璧!

 いずれにせよ、壊れたM600赤軸をこの一ヶ月で4本見かけたが、完品(かつ初期モデル)は昨日届いた一本のみ! やはりかなり素材的に問題があったのじゃろう。同じ色に見えてM200の赤軸とは微妙に色が違う・・・かも?

2007-04-02 06 ペン先は第三世代のニブ。第一世代は18Cの金一色ニブ。めちゃめちゃ柔らかい!ところがあまりに柔らかすぎて事故が続発したためか、すぐに14Cバイカラーに変わった。しかし#500との差別化が難しくなったせいか、依頼品と同じ18Cのニブに変わった。その後はボディの大型化にともなってニブ形状も変わった。

 拙者はこの世代のニブの【B】というのに初めて触れたが実に綺麗な鍍金!良いなぁ〜

2007-04-02 07 ペン先をソケットから外して見るとペン先の病状がわかりやすい。この個体もあきらかにスリットが詰まりすぎている。EFならともかく、Bでこれだけスリットが詰まっていると書き出しでインクが出にくい状態になる。これは最もストレスを感じる状態なので、せめて【ふぅわっと】ニブを紙の上に置いてもインクが出る状態に調整すべきじゃろう。

2007-04-02 08 ペン先を正面から見ると段差が出来ている。しかも多少背開き気味じゃ。これの修整にはツボ押し棒でペン先のエラを拡げるのがもっとも手っ取り早い。押し付けすぎるとニブが正面から見てカモメの飛んでいる状態になるので注意!スリット上端がエラの曲がり部分より下にならないように少しずつ押さえるのがコツじゃ。上級者はエラを両手の指で挟んで両側に開くようにする・・・

2007-04-02 09 上記作業によって左図のようにスリットが開いた状態になる。この状態のニブをペン芯の上に乗せてソケットを押し込むのじゃ。その後でさらにペンポイントの段差を調整し、必要なら筆記角度に合わせて研磨じゃ。

 外国製のBは多少なりともカリグラフィーを意識した、スタブ調の研ぎ。縦横が均等なのが好きな人に取っては字巾(特に横線)が物足りない。こういう時には研ぎを依頼するしかない。現在既に購入したものの研ぎをやってくれるのはペンクリか、
ごく一部の専門店【フルハルターetc.】しかない。すぐに好みの書き味が欲しければ専門店にGO!

2007-04-02 10 部品を2個交換して依頼品は生き返った!あれほど堅かった尻軸の動きは下りも上りもスムースになった。前は下りはなんとか動くものの、上りは渾身の力で捻らねば上がらなかったと思われる。力が強すぎて折ってしまったのじゃな。とにかく復活!

2007-04-02 11 首軸に取り付けたペン先ユニットはスリットが開いたため、インクはスムーズに出てくる。ペン先は第一世代に比べて堅いが安定した字巾を求めるのならば多少なりとも堅い方が良い。

 万年筆愛好家も経験を積めば、どんな堅さのニブでも愛でる事が出来るようになる。その個体の素質を生かした使い方をするわけじゃ。従って上級者ほど調整を必要としなくなる。書き癖をペンに合わせてしまう・・・・そうすると筆跡が乱れる。結果として万年筆が好きになるほど字が下手になる・・・と言い訳をしている!


【 今回の調整+執筆時間:4時間 】 調整3h 執筆1H

これまでの調整記事

2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
2007-03-19   Pelikan 400NN 14C-ST
2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M
2007-02-28   Pelikan 400 茶縞 14C-F
2007-02-26   Omas D-Day 18C-B
2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
2006-12-30   セーラー プロフェッシュナルギア 水色 
2006-12-27   Sheaffer コノソアール 赤軸 OB  
2006-12-16   Sheaffer インペリアル 777 金キャップ & 青軸 
2006-12-13   Montblanc デュマ 
2006-12-09   Pelikan 1935 Malachit Green F 
2006-12-06   Pelikan 1931 Toledo B  
2006-12-02   Montblanc No.252 OBBB 
2006-11-29   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
2006-11-08   Montblanc No.149 ペン先裏のロジウム鍍金   
2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
2006-10-28   Montblanc 1970年代 No.146 ああ無残! 
2006-10-25   Montblanc 1980年代前半 No.146 B   
2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
2006-10-14   Senator  President  B 
2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
2006-10-04   OMAS パラゴン BB   
2006-09-30 Montblanc No.254 OBB  
2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
2006-09-20 Pelikan 140 赤 
2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
2006-09-14 Soennecken Pony  
2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
M764しゃん

修理時間だけならたいした事は無い。スキャナーで画像を撮って加工しながら進めるのに大半の時間を使うのじゃ。
なぜ過去に修理の画像が残されていないのか良くわかった。
職人の経験と館があれば、修理はすぐ出来る。記録を残そうとすれば何倍も時間がかかる。それでは商売にならないのじゃ。

拙者は趣味で修理しているので、それが可能なのじゃ。がんばらねばな!
Posted by pelikan_1931 at 2007年04月05日 05:29
師匠

レポートが掲載されていてびっくりしました。お忙しい中、修理だけでなくペン先まで診断調整頂き恐縮しております。実用性が極めて高い硬いスタブは使う局面が大変多いですね。元々5年ほど前に西の三省堂さんで、プロ意識の高い親切な販売員の方から定価で購入したものですが、どんどん使いたいと思います。技術のスペシャリストの方のローディングは1〜2万円/H。我々の感覚だと、4Hで4〜8万円のコスト計算になります。恐縮しております。
Posted by M764 at 2007年04月04日 22:20
そこまで行けば、万年筆が主役で人間は防人のようなものですな。
それもまた見識じゃ。
問題は購入する際に見立てを十分にすることじゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年04月02日 20:09
フェンテのさる有名人は、自分での調整はとうに辞め、ラッピングフィルムは全て捨て、最近では購入したままで使うようになったとのこと。ペンクリなどで研いでいただくこともなくなったらしい。ここまで来れば、ホントの萬年筆の達人!
そこまでの達観はなかなか出来ませんね。まだまだ、煩悩とワガママの固まりだ。

>結果として万年筆が好きになるほど字が下手になる・・・
ハハハ! それも一つの達観ですね。笑いました。
Posted by めだか at 2007年04月02日 09:15