白金属系合金の特徴を語った・・・【第三十一章】
しばらく前より拙者はペン先先端の金属を【イリジウム】とは呼ばず【ペンポイント】と呼ぶようにしている。ペンポイントは白金系の合金が使われているが、当時の各メーカーは硬度を上げること、磨耗に強くすること、均一で粒子が細かい事、値段が安いこと・・・などの条件を考えながら配合を決定していたらしい。どうやら【イリジウム】がまったく配合されていなくても上記条件が満たされればいっこうにかまわないらしい。現在ではイリジウムをほとんど含んでいないペンポイントもあるとか・・・・
もちろんペンポイントの合金の組成は高度の企業秘密だったので、渡部氏も奥歯に物が挟まったような表現をしているので、読んでいてもすっきりしない。ペンポイント製作にイリジウムを含んだ合金を作ることの必然性がわからなくなってしまうような表現をしている。
前の章で、
北海道産イリドスミンはイリジウム:62.5%、オスミウム:20.2%
タスマニア産オスムイリジウムはオスミウム:50.4%、イリジウム:35.0%
ウラル産プラチンイリジウムはプラチナ:66.7%、イリジウム:2.3%
と述べてイリドスミンの優秀性を述べている。
ところがこの章では、プラチナとイリジウムの合金では夫々が50%ずつの場合が最も硬度が高いと書かれている。
同じ硬度の合金について説明してある部分では、
ブリーネル硬度計で測定した場合に硬度:230度を得るには、
プラチナ:80%、イリジウム:20%
プラチナ:92%、ルテニウム:8%
のどちらでも良い。ここで渡部氏は【ルテニウムを使えばイリジウムの40%の量を混ぜるだけで同じ硬度が得られる】と書いてある。これは何を意図した表現なのか?仮説じゃが一般的には【イリジウムの値段がルテニウムより高く、またどちらもがプラチナよりも値段が高かった】のかもしれない。白金系の金属は稀少金属で産出量が極めて少なく値段も高いと聞いた。工業製品では同じ性能のものを如何に安く作るかが収益に大きく影響するので、合金組成には、それこそ会社をあげて研究していたはずじゃ。
パイロットがルテニウムやオスミウムではなく、イリジウムを使ったのは、北海道産のイリドスミンによって安いイリジウムを入手できていたからで、イリジウムがその他の白金系貴金属より硬度を高く出来るからではなかったかもしれない。 左の画像はイリドスミンが採掘されている風景らしい。右側の白い服を着ているのが責任者で本社から派遣され、働いているのは現地の人らしい。
この本には記載されていないが、重大な疑惑がある。イリドスミンを採掘していた会社は、現地人を騙して有料でイリドスミンを取り除く作業をして、イリドスミンを無料で手に入れていたというものじゃ。別の鉱石の中にイリドスミンという極めて硬く、加工する機械を傷めてしまう鉱石が混ざっているのを、有料で取り除いてあげます!と恩を着せて採掘し、それを高値で売っていた・・・・それがバレて暴動が発生しそうになり、それ以降、イリドスミンの値段が暴騰したというものじゃ。いつの時代のことかはわからない。これについては別の文献の研究にゆだねたい。現在着々と研究が進んでいる。
左は章の最後に説明なしで掲載されていた、北海道産イリドスミンの売買価格推移じゃ。これを見ると1892年から1902年までは売買価格なしとなっている。ペンポイントの需要が国内で無かったので当然であろう。
並木良輔が金ペンの製作に成功したのが1916年の2月ごろ。その2年後の1918年にはイリドスミンの価格が暴騰している。需要が爆発したのか、上記事実が発覚したのかはわからない。
ブリーネル硬度計で測った数値と、一般の硬度に関して掲載されている情報を示しておこう。
プラチナ: 47度 4.3
パラジウム: 49度 4.8
ロジウム: 139度 −
イリジウム: 172度 6.5
ルテニウム: 220度 −
オスミウム: − 7.0
鉄: − 4.5
硝子: − 4.5〜6.5
鋼: − 5.0〜8.5
イリジウム単体は鋼よりも柔らかい金属なのじゃ!それをプラチナやその他の金属と混ぜる事によって高い硬度の合金に変身している。しかし高度の企業秘密なので一切紹介されていない。
白金系金属は多種類の金属を混ぜるほど硬度は増すが、脆くなってしまうらしい。どういう配合がペンポイントに向くのかに関して、各企業が血眼になって研究していたらしい。
この本が書かれた時点では、パイロットのペンポイントが最も磨耗に強く、粒子も揃っていたことは事実のようじゃ。
そしてパイロットがイリジウムの含有率を上げることが出来たのは、イリドスミン鉱石が北海道から産出され、値段はともかく安定的に供給された事が一番であったろう。
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