今回は、まず全て分解した段階の画像をお見せしよう。この図では一個だけパーツ?が抜けている。それを見つけたら脱帽じゃ。タオルにくっついていて撮影できなかった・・・
最初に分解図を見せたのは、調整依頼を受けて戸惑ってしまった物だったから。悪いところが思い当たらない。最近こういう微調整依頼が多い。WAGNER会員の中には、新しい生贄をゲットしたら、試し書きもそこそこに、調整依頼に持ち込む人がいる。
問題があれば直して、なければ掃除して返して・・・てな要求。たまに、依頼主にとって何が具合悪いのか理解できない時もある。今回の依頼品がそれじゃ。
依頼者にとって書き味の良い万年筆かどうかを、拙者に判断せよという依頼に近い。信頼関係があればこその依頼だ。
そういえば長原先生のペンクリでも似たケースがあるらしい。長原さんが調整して販売した万年筆を、ペンクリがある度に定期健康診断のような形で持ち込まれる・・・という事らしい。これぞまさにペンクリのあるべき姿じゃ。【クリニック】だからな。拙者も健康診断や軽い怪我程度のものは、ペンクリ会場で直してしまう。重症患者だけ持ち帰ることにしている。
この依頼者はうまい。いつもペンクリ終了間際に万年筆を挿しだし【見ておいてください。まったく急ぎませんから・・・】と押し付けていく。これなら丁寧に点検するからな。その中では今回のような物もたまにある。 分解してもどこにも問題が無いので、ペン芯とペン先以外はアセンブルした。多少軸を磨いたが、その他の部分には手を入れていない。ほぼ完璧な状態だった。
しかもペン先にも何の問題もなさそう・・・ ほれぼれするほど美しいニブ。最近スキャナーを更新したが、なんとなく綺麗な画像になったような気がする。メーカーもグレードも変えてないのじゃがな。
拙者のように、スキャナーのガラスの上に直接万年筆や部品を置いての画像作りをやっているとガラス面に傷がつきやすい。従ってスキャナーは消耗品と考えて早めの機種変更をすることにしている。今回のスキャナーは価格.comで調べて購入。23,000円だった。安いものじゃ。 ペン芯のスリットが開いている!とびっくりされるかもしれないが、過去紹介したように、このスリットはペン先とペン芯を密着させる為の秘密兵器。こういう状態になってもなんの問題も無い。スリットから空気を供給するものではなく、またインク漏れ対策ではない。ましてや逆エンペラーのように、常にインクをペン芯に含ませておくわけでもない・・・と思う。
多少ペン先のエラを広げるような力を入れると、ペン先はやや腹開き状態になった。もし店頭で販売されているのが、全てこの状態であれば、極太好きの人にとってはたまらないじゃろう。
以前にも述べたが、絶妙に調整された万年筆は、その状態が最高であり、書くほどに書き味は劣化していく。従って何本も万年筆を持って、とっかえひっかえ使う人にとっては、自分に合わせて調整された万年筆を使うのが良い。何本も持っていれば劣化も遅いので、いつも最高の状態の書き味を堪能出来る。
しかし、それでは育てていく楽しみが無いという人がいるかもしれない。万年筆を慈しむ行為の中には【共に角が取れていく・・・】という姿が理想!ってな感じ。
そういう人にとっては、今回の依頼品は最高。一切削りも擦りもしていないが、インクフローは良好。書き出しのインク掠れは殆ど無いが、書き味は今一歩。スムーズに滑らないので多少筆圧が必要。またエッジも筆記角度によっては多少引っかかることがある・・・という状態。
これを毎日原稿用紙10枚程度の筆記をして、1年間ほどたてば、それこそ紙で擦れてエッジが丸まり、スムーズな書き味になるかもしれない。確信がもてないのは、1年間の間に筆記角度が必ず変化していくので、いつまでたってもおいしいところが出来ない可能性もある。
このペン先は削るかどうか、依頼者と再確認したい。触らないほうが面白いかもしれない。1年間かけて育てる楽しみを得られる可能性を秘めた逸品なのじゃ。