2007年04月26日

解説【萬年筆と科學】 その33

ラッカナイトについて語った・・・【第三十三章】

 この章が書かれたのが1931年。Pelikanが初めて万年筆を作ったのが1929年。パイロットはペン先で特筆すべき品質を誇り、この時点ではラッカナイトの技法を完成させ、エボナイトが曇らない!という画期的な手法を見つけた。

 一方のPelikanはピストン吸入式万年筆という精密機構の万年筆を世に出していた。ペン先と塗りで秀でたパイロットと機構に拘ったPelikan。拘りを持ったメーカーを応援したくなるのは人情。これは日本、独逸に共通した考え方じゃな。

 この8年前、パイロットが漆塗り万年筆を世に出した時には、【パイロットは安物屋に成り下がった】と嘲笑されたらしい。事実、出来上がった漆塗り万年筆はひどい出来で返品の山を築いた・・・・とか。

 拙者はラッカナイトとは軸に漆を塗った万年筆の総称程度にしか考えていなかったが、実はエボナイトの組成も変えて実現しなければならなかったようじゃ。

 キッカケは並木良輔ほか数名が、300年前の漆が塗られた重箱が変色に強い!との説明を受けた際、並木氏自身が【万年筆に漆を塗って変色を防ごう】というアイデアを出したらしい。

 始めてからが四苦八苦!素人ゆえ、漆かぶれで二の腕や股に始まって全身がかぶれた・・・熱い湯にはいると何ともい得ぬ気持ちよさに【この気持ちよさだけは漆かぶれした奴でないとわかるまい】と気勢を上げたらしい。

 実際、素人の怖いもの知らずというか・・・いろんな事にチャレンジしたらしい。エボナイトに漆を練りこんで見たり、揮発油に溶かした漆の液にエボナイト軸を漬けてみたり、機械仕掛けで漆を刷毛塗りする機械を作ったり、手のひらで磨くのは生産性が悪いとバフ機を改良したり・・・漆塗り万年筆への冒涜のような行為を繰り返していたらしい。

  当時ウォーターマンのエボナイト軸は日光に当てると7日で変色、パイロット製は一ヶ月で変色したのに対し、初期の漆塗りはたった五ヶ月の寿命しかなかった。一方で漆塗りは日光に強い!という神話が販売店にいきわたり、わざわざ直射日光のあたる所に展示したものだから、悲惨な状態になって何千店もからの苦情返品が相次ぎ大変な状況になったらしい。

 この記事の中でエボ焼けに関する記述がある。これが一番おもしろかったので紹介しよう。

 エボナイトはゴムに40%ほどの粉末硫黄を混ぜ、摂氏140度で数時間かけて加熱硫化させるのだが、3〜5%ほどは遊離硫黄として残留する。この遊離硫黄は時間の経過とともに表面に噴出してくるし、一部は自然硫化を20年ほども継続する。ところがエボナイトを日光にさらすと熱と紫外線によって自然硫化は異常に促進され、ある種のガスを発生させ、そのガスが金ペンのエボ焼けも起こすし、漆にも悪影響を及ぼす・・・とか

 本文は、ここから・・・ゆえにいかにして遊離硫黄をエボナイト内に閉じ込めたままにするかを研究したくだりになる。

 拙者にとってはエボ焼けの謎が解けて非常にすっきりした。ペン芯に使うエボナイトごときにパイロットのような遊離硫黄を閉じ込めるような措置をするわけはない。従ってガスはどんどん放出され、エボ焼けが促進される。

 ただしペン芯を直射日光にさらすはずは無いので、ある種のインクは異常硫化を促進する作用を持つのであろう。往年のMontblancのBlackとか・・・な。


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Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 情報提供