今回の調整も前回に引き続き、拙者が入手したもの。最近なかなか自分の万年筆の調整をする時間が取れないなぁ。
これは1950年代前半のフラットフィーダー付きのNo.146。尻軸の刻印と同じBニブ付き。それにしても状態が良い。前の所有者はプロじゃな。仕入れた物を完全に調整し、清掃してオークションで販売していると思われる。外観上の破綻は皆無! このインク窓は緑色。濃いオレンジの窓と緑の窓をよく見かけるが、そういう着色をして販売していたのか、中に入れたインクによって窓の色が変色しているのかは定かではない。
ターコイズブルーのインクが入っていたものは緑色になっており、黒を入れていたものは濃いオレンジになっていたように記憶しているが、拙者の記憶などあてにはならぬ。色無しインク窓もあったかもしれない・・・ 左がペン先の拡大図。見た目は非常に均整が取れていて何の問題もなさそう。ところが書いてみるとギクシャクしている。そう・・・サンダーバードの人形の動きのような書き味。えらく気持ちが悪い。
それも当然で、オークションの場合、販売側は購入側の書き癖など知らない。よしんば知っていたとしても、コレクションとして飾っておくのか、ガシガシ使うのかは知る由も無い。最も良い選択肢は最初に販売された時の状態に出来るだけ近づけておく事じゃ。それならガシガシ使う購入者は自分で調整して使えばよい。
この固体も、まさに最初に販売された時・・・1950年代前半・・・拙者が生まれたころの状態に近いペン先の状態で販売している。拙者と同じくらいの年輪を重ねているのにまったく破綻していない。嫉妬を感じるほど整っている。
しかし円熟はしていない。なんとも書き味が青い・・・ まずは、先日作った後改良したソケット回しでペン先、ペン芯毎首軸からはずす。このフォークを改良した器具は非常に便利。ピンセットで回していた時には何度もソケットを壊したものじゃ。
ここしばらくは、胴軸から首軸をはずしてからペン先とペン芯をたたき出していたが、お湯で暖める事が原因でキャップが締まり難くなり、ネジ溝を削ったりすることもあった。
が、この器具が完成してからは作業時間と作業品質が格段に上がった!やはり道具の差が調整のトラブルに大きく依存する。プロはたいてい道具を見せたがらない。従って拙者もプロの道具は良く知らない。しかし・・・拙者がこれまで紹介した自作ツールはプロが使っているものと遜色無いと考えている。これらはWAGNER会員の知恵の結晶でもある。隠すつもりはまったくないので、プロでもアマでもどんどん使ってみてくだされ。 ソケットからはずしたペン先。予想通り首軸内部のエボ焼けもすっかり取り除かれている。しかも余計な調整はしていないので、コレクションとするならば最高の状態じゃ。売った人の見識に感謝!
しかし日常使用を考えれば、このギクシャク感は何とかしなければならない。ペン先を拡大してみて原因が判明した。 ペン先の左右の幅が違うのじゃ。左側が狭く、右側が広い。しかも角ばっている。50年代のNo.146のペン先は厚みが薄い。しかし弾力がある。どういう弾力かといえば、四角い鋸のよう。横にして上下に振ればポワンオワンと波打つが、縦にしてゴリゴリ前後させれば木はどんどん切れていく。この横にして上下に振るときのような弾力なのじゃ。癖になると憑依されたほど嵌ってしまう。
この微妙な弾力は左右の幅が同一、かつ、左右のペンポイントの重さが近しい場合に初めて得られるのであって、アンバランスな場合には気持ち悪さは増幅されてしまう。
そこで右側を多少削り、左右の幅を揃えるよう調整した。ついでに筆記角度に合わせて多少太く書けるようにして・・・・一昨日の70年代18C-Bと比較してみた。そのとたん18C-Bの再調整を始めた。完全に負けてる・・・
それから2時間。50年代も70年代も最高の状態になった。
50年代は角ばった字を横、縦、横、縦・・・と一線ごとに離しながら書く時に最高に気持ちよい。鋸のポワンポワンを一線引く度に楽しめる。
70年代は続き文字をウネウネと書く時に気持ちよい。ターミネーター2に出てくる液体ターミネーターで作ったペンポイントのよう。
どちらも最高の状態になった! 出来上がり写真はあえて掲載しない。ペントレ会場で見ていただくことにしよう。
【 今回の調整+執筆時間:4時間 】 調整2.5h 執筆1.5h